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Episode4
当惑する造反者
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トマスが隠し通路の奥に辿り着いた場所。そこには底なしの奈落と言われてもすんなり受け入れられるほどの大穴が空いていた。怖いモノの見たさで不意にその虚ろの中を覗く。淀んだ空気の中には血生臭い匂いが混じっていて、そこにいるだけで気分が悪くなっていった。
その穴を囲むかのようにそびえる閲覧席の段。
当然ながら誰一人として座っていないそれらの席は、余計に虚無感をトマスに与えてきた。
そう。ここはかつてザートレが魔王と元パーティのメンバーに殺された処刑場。そして底なしの奈落の底でルージュと出会った場所。
ザートレにとってはあらゆる意味で因縁の始まりとなる場所であった。
かつての惨劇ことなどを知る由もないトマスだったのだが、そこに漂っている陰惨で陰鬱な思念だけでここは立ち入っては行けない場所だと本能的に理解した。
徐々に息が荒くなり、ちょっとでも気を抜けば深淵に飲み込まれてしまうような不安を半ば強制的に持たされた。
そうして踵を返した時。
トマスは折り重なった岩肌の奥にぼんやりと光が灯っている事に気が付いた。この不気味な空間に合って暖色の灯火は、必要以上に安心感をもたらす。トマスはまるで火中に飛び込む虫のように引き寄せられていた。それは今まで持っていた好奇心からではなく、安寧を求めてのことだ。
最初、その光はランプか何かの光かと思っていた。けれども実際にその場所に赴くとその予想はまるで外れていた。
光っていたのは花だったのだ。
ハコベラのような小さい花が無数に生い茂り、淡い光を放っている。花々の花弁が放つ光は僅かでも、これほどの数が揃うと下手な照明器具よりも明るくなっていた。
先ほどまでの陰惨な虚ろとは対称すぎる神秘的な光景が広がっている。トマスもつい心奪われてしまっていた。だがトマスが本当に心奪われたのは花の光でも香りでもない。その花々がまるで守るかのように取り囲んでいる、一つの石塔に目を奪われていたのだ。
「お墓…?」
蚊の鳴くような声で、思わず自分の頭に過ぎった言葉を漏らしてしまった。
トマスはもっと歩み寄って近くでその石塔を見てみたいと思った。だがそれは叶わなかった。近づこうと思った矢先、トマスは誰かの気配に気が付いたからだ。
それを感じ取った途端、反射的に物陰に身を隠した。そこから慎重に身体を動かし何とか様子だけでも見れるように位置取りを探す。
「!」
そうして覗き込んだ先にいた人物にトマスは驚いた。他ならぬ魔王その人が佇んでいたのである。
魔王は石塔の前に立つとそっと手を触れて、しばらくの間じっと動かないでいた。
耳が痛くなるほどの静寂になると、トマスは自分の心臓の鼓動の音で存在がばれてしまうのではないと不安にかられてしまう。それほど音というものがなくなっていた。
だからこそ耳に届いたような気になった、とある音に奇妙な納得感を持ってしまったのだ。
魔王は確かに泣いていた。
息も漏らさず、たただた涙が頬を伝っては床へと流れ落ちている。その水滴が床に当たった時の音が岩陰に隠れたトマスの耳にまで届いてくる。
本当にそれほどまで静かな場所で、魔王は泣いていたのだ。
その穴を囲むかのようにそびえる閲覧席の段。
当然ながら誰一人として座っていないそれらの席は、余計に虚無感をトマスに与えてきた。
そう。ここはかつてザートレが魔王と元パーティのメンバーに殺された処刑場。そして底なしの奈落の底でルージュと出会った場所。
ザートレにとってはあらゆる意味で因縁の始まりとなる場所であった。
かつての惨劇ことなどを知る由もないトマスだったのだが、そこに漂っている陰惨で陰鬱な思念だけでここは立ち入っては行けない場所だと本能的に理解した。
徐々に息が荒くなり、ちょっとでも気を抜けば深淵に飲み込まれてしまうような不安を半ば強制的に持たされた。
そうして踵を返した時。
トマスは折り重なった岩肌の奥にぼんやりと光が灯っている事に気が付いた。この不気味な空間に合って暖色の灯火は、必要以上に安心感をもたらす。トマスはまるで火中に飛び込む虫のように引き寄せられていた。それは今まで持っていた好奇心からではなく、安寧を求めてのことだ。
最初、その光はランプか何かの光かと思っていた。けれども実際にその場所に赴くとその予想はまるで外れていた。
光っていたのは花だったのだ。
ハコベラのような小さい花が無数に生い茂り、淡い光を放っている。花々の花弁が放つ光は僅かでも、これほどの数が揃うと下手な照明器具よりも明るくなっていた。
先ほどまでの陰惨な虚ろとは対称すぎる神秘的な光景が広がっている。トマスもつい心奪われてしまっていた。だがトマスが本当に心奪われたのは花の光でも香りでもない。その花々がまるで守るかのように取り囲んでいる、一つの石塔に目を奪われていたのだ。
「お墓…?」
蚊の鳴くような声で、思わず自分の頭に過ぎった言葉を漏らしてしまった。
トマスはもっと歩み寄って近くでその石塔を見てみたいと思った。だがそれは叶わなかった。近づこうと思った矢先、トマスは誰かの気配に気が付いたからだ。
それを感じ取った途端、反射的に物陰に身を隠した。そこから慎重に身体を動かし何とか様子だけでも見れるように位置取りを探す。
「!」
そうして覗き込んだ先にいた人物にトマスは驚いた。他ならぬ魔王その人が佇んでいたのである。
魔王は石塔の前に立つとそっと手を触れて、しばらくの間じっと動かないでいた。
耳が痛くなるほどの静寂になると、トマスは自分の心臓の鼓動の音で存在がばれてしまうのではないと不安にかられてしまう。それほど音というものがなくなっていた。
だからこそ耳に届いたような気になった、とある音に奇妙な納得感を持ってしまったのだ。
魔王は確かに泣いていた。
息も漏らさず、たただた涙が頬を伝っては床へと流れ落ちている。その水滴が床に当たった時の音が岩陰に隠れたトマスの耳にまで届いてくる。
本当にそれほどまで静かな場所で、魔王は泣いていたのだ。
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