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Episode3

楽しむ勇者

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 オレ達が無事には入れたのを見て、アーコも不法侵入は止まったらしい。女フォルポスに変じたルージュは三人の魔族を率いる形で無事にルーノズアへ入ることができた。落ち合ってみれば、案ずるよりも産むが易しという言葉通りに呆気ないモノだったと胸をなで下ろすばかりだった。



 中心部に向かう前に、オレはルージュにも路地の影で姿を戻すように提案したのだが、それはすぐに打ち消された。



「いや、私はしばらくこのままの姿でいよう」



「何故?」



「この町に『囲む大地の者』がおらず、しかもそれを隠匿しているのならば、ほぼ確実に向こう側から接触を計ってくるはずだ。この町で何が起こっているのか、それが知りたいのだろう?」



「なら、オレがフォルポス族の姿に戻ればいい」



「わざわざ危険だと分かっている状況に主を置けるわけがないだろう。私であれば問題ない」



 と、狼の顔で不敵に笑うルージュだったが、オレは心配をわざと顔に出して彼女に迫った。



「問題だらけだ。お前に危険が及ぶと想像しただけで、オレがどうにかなってしまいそうだ」



「…」



 と、ルージュは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。楽しいがからかい過ぎても仕方がないのでこのくらいにしておく。



 そんなオレ達の茶番を払拭するかのようにアーコが口を開いた。



「いざって時の偽装工作なら、俺もしておくかな」



 何をする気だ、と尋ねる前にアーコは行動に移していた。見ればセムヘノで見せた時のように頭身がオレ達のそれと同じくようになるまで大きくなっていたのである。身長が変わるだけでも肉体や見た目の変化は先入観が働くので、こちらの目論見以上の成果を上げる事がある。今回は罠と分かって飛び込んできたのだから、用心し過ぎるという事はないだろう。



 そんな様子を見ていたピオンスコが、羨ましそうに言う。



「良いなぁ三人とも。顔とか姿を変えるのって面白そう…」



 その発言にアーコは何かを思いついたのか、ニヤリと悪そうな笑顔を見せる。そして三人に向かって告げた。



「そうだな。お前らもこのくらいの変身はしておくか?」



「「「え?」」」



 言葉の真意を尋ねる前に、アーコは指を一つ鳴らした。すると、子供の姿だった三人は数年分の成長を一気に遂げた様な、大人びた容姿になっていたのである。



 三人は、潰れて空き家になっている商店か何かの建物の窓に反射した自分たちの姿を見る。するとラスキャブは固まり、ピオンスコは大はしゃぎし、トスクルは顔の角度やポーズを変えて、三者三様の反応をしていた。



「さあて。楽しんでこの街の探索と行こうぜ」



 不謹慎かと思ったが、それでも楽しもうという感覚はよくわかった。確かにこんな機会はあまりない。少しくらい楽しんだとしても構わないだろう。



「ならば主様、まずは宿を探しましょうか」



「あ、主様!?」



 そう呼んでみたのだが、いまひとつしっくりこない。混乱するルージュを尻目に、ぶつくさと他の言い方を模索する。



 ご主人様、マスター、マイロード…どれもピンと来ない。女主人の呼び方が少ないのもいけない。むしろ普段はルージュと呼び捨てにしているのだから、それに様をつけるくらいがいいのではないか?



「…ルージュ様。そうだな、これが一番すんなりくる」



「ひ、一人で納得するな。今まで通りにルージュと呼べばよかろう」



 渋るルージュだったが、アーコがオレに助け舟を出してくる。



「いやいや、フォルポス族の姿でいるなら魔族を使役してないと不自然だろ? 俺たちはルージュ様の忠実な僕でございますから」



「ぐっ…」



 そうしてルージュを言い包めたオレ達は、改めて路地裏を出て町の中心の方へ向かって行く。まずは手始めにこの町での拠点たる宿屋を探さなければならない。
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