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Episode3
疑念抱く勇者
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ルーノズアの町へは想像以上に早く到着することができた。
少し離れた崖の上から町を展望する。湖から半円に広がる町が橙色のランプのように見えた。オレの毛並みは黒いので夜に溶け込んでいるし、かなり距離があるのでこの大きさと言えども向こうから気付かれることはまずないだろう。
夜と言っても、まだまだ酒場は盛り上がりを見せような状態であったので、夜明けを見計らって町に入る予定を前倒しすることにした。
特に理由らしい理由はなかったが、ダブデチカの方面からやってきたのではないと装うために南側から大きく迂回して北側の入り口に向かった。近くの森の中で皆を下ろすと、巨大化は解かれ、一先ずフォルポス族の姿になった。
「よし、問題がなければ町に向かうか」
オレはそう言って町に意識を向けた。その時、うまく形容のできない違和感がうっすらと毛皮を撫でた気がした。
「主も気が付いたか?」
ルージュのそんな声に振り返ると、全員がルーノズアの町を見てそわそわとした何かを感じ取っているようだった。どうやら滾る血の熱と走ることに夢中になり過ぎていたようで、オレが一番最後に違和感を覚えたらしい。
「何だ、この感覚は」
「あの町がおかしいってのは分かるんだが、うまく言葉にできねえな…と言ったって、行かない選択はないんだろ?」
「当然だ」
「ひ、ひょっとするとあの町もダブデチカのように襲われたんでしょうか?」
オレもラスキャブのその意見と同じことは頭に過ぎっていた。だが、それにしては町に生活感があり過ぎる。少なくともあれだけの明かりを出すだけの町民はいるのだから、ダブデチカのようにもぬけの殻になっているという事はないはずだ。
「どちらにしてももう少し近づこう。一応、何が起こってもすぐに戦える準備だけはしておけよ」
ルージュとアーコには無用の心配であろうが、こっちの三人は未だに不安な要素が多い。特にトスクルは正気に戻ってからの動向を見た事がないから取りそうな行動の予測すらできない。とは言えポテンシャルは確かだし、街中で死闘が起こることもまずないだろうから警戒心を煽る程度でいいだろう。
街から漏れる灯りのおかげで近づけば近づく程、道が確かなものになって行った。おまけに道がはっきりと見えるにつれて、違和感も膨らんでいく。
「これは…」
そして、違和感の正体をうすらぼんやりとでも掴んだのは、やはり自慢の鼻だった。
ルーノズアの町から漂ってくる匂いがおかしいのだ。
端的に言えば『囲む大地の者』の匂いがしてこない。他の種族ははっきりとは言えないモノの、同族であるフォルポス族であれば風下にさえいればこの距離でも匂いの片鱗くらいは掴めるはずなのに、一向にそれが鼻を掠めない。
フォルポス族が極端に少ない地域というものも確かに存在しているが、五大湖港ではあり得ない現象だ。
更にオレ達の感じた違和感が確信へと変わる決定的な場面に出くわす。
街の入口を守る数人の門衛が、悉く魔族だったのだ。
少し離れた崖の上から町を展望する。湖から半円に広がる町が橙色のランプのように見えた。オレの毛並みは黒いので夜に溶け込んでいるし、かなり距離があるのでこの大きさと言えども向こうから気付かれることはまずないだろう。
夜と言っても、まだまだ酒場は盛り上がりを見せような状態であったので、夜明けを見計らって町に入る予定を前倒しすることにした。
特に理由らしい理由はなかったが、ダブデチカの方面からやってきたのではないと装うために南側から大きく迂回して北側の入り口に向かった。近くの森の中で皆を下ろすと、巨大化は解かれ、一先ずフォルポス族の姿になった。
「よし、問題がなければ町に向かうか」
オレはそう言って町に意識を向けた。その時、うまく形容のできない違和感がうっすらと毛皮を撫でた気がした。
「主も気が付いたか?」
ルージュのそんな声に振り返ると、全員がルーノズアの町を見てそわそわとした何かを感じ取っているようだった。どうやら滾る血の熱と走ることに夢中になり過ぎていたようで、オレが一番最後に違和感を覚えたらしい。
「何だ、この感覚は」
「あの町がおかしいってのは分かるんだが、うまく言葉にできねえな…と言ったって、行かない選択はないんだろ?」
「当然だ」
「ひ、ひょっとするとあの町もダブデチカのように襲われたんでしょうか?」
オレもラスキャブのその意見と同じことは頭に過ぎっていた。だが、それにしては町に生活感があり過ぎる。少なくともあれだけの明かりを出すだけの町民はいるのだから、ダブデチカのようにもぬけの殻になっているという事はないはずだ。
「どちらにしてももう少し近づこう。一応、何が起こってもすぐに戦える準備だけはしておけよ」
ルージュとアーコには無用の心配であろうが、こっちの三人は未だに不安な要素が多い。特にトスクルは正気に戻ってからの動向を見た事がないから取りそうな行動の予測すらできない。とは言えポテンシャルは確かだし、街中で死闘が起こることもまずないだろうから警戒心を煽る程度でいいだろう。
街から漏れる灯りのおかげで近づけば近づく程、道が確かなものになって行った。おまけに道がはっきりと見えるにつれて、違和感も膨らんでいく。
「これは…」
そして、違和感の正体をうすらぼんやりとでも掴んだのは、やはり自慢の鼻だった。
ルーノズアの町から漂ってくる匂いがおかしいのだ。
端的に言えば『囲む大地の者』の匂いがしてこない。他の種族ははっきりとは言えないモノの、同族であるフォルポス族であれば風下にさえいればこの距離でも匂いの片鱗くらいは掴めるはずなのに、一向にそれが鼻を掠めない。
フォルポス族が極端に少ない地域というものも確かに存在しているが、五大湖港ではあり得ない現象だ。
更にオレ達の感じた違和感が確信へと変わる決定的な場面に出くわす。
街の入口を守る数人の門衛が、悉く魔族だったのだ。
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