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Episode3

走る勇者

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 荷馬車を打ち壊し、馬をダブデチカの方に向けて離してやると、何とも言えない表情を浮かべて夜の草原に溶けていった。その足で再び森の中へ移動すると、月明かりを頼りに周囲の気配を伺った。



 しんっ、という音が響き渡った夜の森は風が大分賑やかしい。



 俺は一度肺に空気を送り込むと、そのまま狼に変身した。



「へえ。本当にどこからみても立派な狼ですね。姿形を変えられるというのは便利そう…」



「実際に便利だと思うぞ。感覚や感性が変わるから、色々と発見がある」



 そんな風な事を言うと、すかさずルージュのボヤキが聞こえてきたのだった。



「私はフォルポスの時の姿だけで十分だと思うがな」



「そうか? 俺は狼の時のが一番生き生きしてると思うがな」



 アーコの弁にルージュは心底面白くなさそうな顔をした。会った時はそうでもなかったのに、どんどんと色んな表情を見せるようになってきている。ルージュ本人は不服だろうが、オレとしてはそっちの方がいいと思っていた。と、そんな事を思ったり考えたりすると筒抜けになってしまうので控えなければなるまい。



「なんであれ移動するのにはこの姿がもってこいだ。アーコ、頼むぞ」



「おうよ。たらふく飲んだから頗る好調だぜ」



 頼もしい応答と共に徐々に俺の視線がどんどんと高くなる。やがて森の木々をさして大きいとは思えぬほどの背丈になると、そこで巨大化が止まった。すると今度は足の裏から頭の天辺まで血が煮えるように熱くなった。何とか気を静めようと、オレは大きな鼻息を一つついた。



 トスクルを除いては二度目だったこともあり、慣れたようにオレの毛を掴んでは背中によじ登ってきた。



「馬とも違う、不思議な乗り心地と景色ですね…」



「でもね、こうなったザートレさんはすっごい速いんだよ。トスクル、振り落とされないでね」



「ワタシよりラスキャブの方が心配」



「わ、私は二回目だから…大丈夫、だと思う」



 と、弱々しい返事が聞こえた。するとそれを聞いたトスクルだけでなくピオンスコやルージュたちまで何かを憂いたような顔になった。



「ラスキャブ、何かあったら気が付けるように前の方にいろ」



「そ、そんなに心配しないでください」



 などと言いつつも、ずいずいと前ににじり寄ってくる感触が伝わってきた。だが、いよいよジッとしているのも限界だ。オレは背中に乗っている連中に有無も言わさぬように告げた。



「何でもいいから、もう出るぞ。しっかりと捕まっていろ!」



 そして返事を聞くのもそこそこに足に力を込めると、景色を置き去りにせんばかりの速度で駆けだした。本能の赴くままに、それでも何とか理性を働かせて街道筋から見えないように木々の間をすり抜けるように進んでいく。セムヘノからダブデチカを目指した時と違い、今回の目的地であるルーノズアは歩いても一日程度の距離。この速さなら三時間もあれば到着できるだろう。



 あとはルーノズアから『螺旋の大地』への渡航手段が残っていてくれることを祈るばかりだった。

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