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Episode3

うな垂れる勇者

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 オレとアーコが話をまとめると、折よくルージュが森から出てきて合流が叶った。すぐさま歩み寄るとアーコ達と距離を作ったまま、労いの言葉をかけた。



「ルージュ…終わったのか?」



「ああ。問題ない」



「すまなかったな」



「何を言う。主を守り、敵を退けた。一介の剣としてこれ以上の喜びがあろうか」



「それでも、だ。感謝している、お前がいてくれてよかった」



 フォルポスの時には想像すら出来なかった言の葉がすらすらと出てくるのが面白い。変身術の真骨頂が身体の変化よりも心の変化だというのは皮肉に思えた。そして、そのままルージュの肩に手を置き、抱き寄せる。



 するとルージュは、先程と同じ慌て方をした。



「あ、主よ。戯れもほどほどにしてもらいたい」



「狼の時といい、他の姿をしているオレはお気に召さないらしいな」



「…この際だからはっきりと言わせてもらえば、その通りだ。私は戦士の無骨さと気概のあるフォルポスの姿の主が一番性に合っている。私を振るうのは、そう言う者であってほしい」



「まるで愛の告白だな」



「ば、馬鹿な事を…」



「とは言え、これ以上お前の不服を買っていい事はないしな。大人しく言う事を聞いておくことにするよ」



「そうしてくれ」



 オレは変身術を解き、元の姿へと戻る。すると、魔族の姿になっていた時の言動の恥ずかしさが一気に押し寄せてきて、うな垂れる程精神にダメージを負ったのだった。



 ◆



 それからトスクルを介抱しつつ、夜を待つことにしたオレ達は今の内に食事をすませてしまう事にした。



 多少はダブデチカの門前市で購入した食料があったのだが、折角湖が近くにあるという事もあり、オレの気まぐれで浜辺に移動して魚介類を取ることに決まった。浜辺まで下りると、さながら海と錯覚するような景色が広がっていた。



「さて、どうしたもんかな」



 独り言のつもりだったが、近くにいたラスキャブの耳に届いたようで律儀に返事をしてきた。



「お魚という事は、釣りをされるんですか?」



「まあ、時間があるからそれでもいいんだが、生憎とのんびりじっくりというのはオレの性分でなくてな。素潜りで取ってくる」



「す、素潜り?」



「ああ」



 この湖に住む魚はどれもこれもが中々に美味い。それでも肉の方が好きなのは好みの問題だが、偶には味を思い出して食べたくなる。前のパーティの時も、オレはこの沿岸を通る度に素潜りで魚を取っていたことまでも思い出した。



 すると、オレとラスキャブの会話が聞こえたのか、ピオンスコが興味津々に話に加わってきた。



「なになに? 湖に入るの?」



「ああ。潜って魚を取ってくる。お前もやってみるか?」



「え? でも…」



 そう言って即席のテントで横になっているトスクルをとオレの顔とを交互に見てきた。やってみたいが、トスクルが心配で看病もしたいというのをまるで隠すことなく体で表現している。



 見兼ねたラスキャブは、自分がトスクルを見ているからピオンスコに魚取りに行ってくるように提案してきた。



「い、いいの? ラスキャブ」



「うん。トスクルさんが起きた時、食べるものが欲しいから。お願いできる?」



「わかった! いっぱい取ってくるね!」



 念のためにルージュとアーコにも誘いを入れてみる。あの二人が嬉々として水に潜ってまで魚を取りたがる絵は全く想像できない。尋ねてみれば案の定、ラスキャブと共に陸で待っていると断られてしまった。



 不必要な鎧や装備を外すと、水に入る前に軽く体をほぐすついでにピオンスコに聞いた。



「今、聞くのもどうかと思うが、お前は泳げるのか?」



「もちろん! 結構早いんだよ」



「ほう」



 確かにピオンスコは身体を動かす事なら、大抵はそつなくこなせるだろう。それだけ基礎的な体力はあるはずだ。



「遊び感覚でいいからな? あと、分かってるとは思うが毒を使って獲物をとるなよ。食べられないんじゃ意味がないから」



「任せといてよ」



 頼もしい返事を合図にして、オレ達二人はジャブジャブと水音を立てながら湖の中へと入っていった。
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