144 / 347
Episode3
垣間見る勇者
しおりを挟む
「う、うわあああ!」
リーダー格の魔族が容易くねじ伏せられたことで、残りのメンバーは思い思いに逃亡を図った。しかし、アーコの放った魔法により、草原に茂っている草という草が壁を作るように群生しだして、逃げ道を悉く潰してしまった。
「くそがぁぁぁ」
攻撃を繰り出して突破を試みるものの、それよりもラスキャブ達の追い打ちの方が早い。まともにやり合えばいい勝負になる様な実力は持ち合わせていたが、混乱に乗じたこちら側のパーティに軍配が上がった。
オレが腕を切り落した魔族は、失血がひどく手当てをする前にショック死してしまった。生き残った他の奴らも気絶するか、拘束されるかで身動きを封じられている。
かくして、ようやく落ち着いて会話と情報分析のできる時間を得ることができたのだった。
◇
「トスクルっ! トスクルっ!!」
ピオンスコは気を失っているトスクルを抱え起こすと、必死になって名前を呼んだ。青い顔をしており、確かに傍目にも心配になる顔色だ。しかしすぐにアーコが様子を見てくれ、記憶と精神が混乱しているだけで命に別状はないと断言してくれた。
「・・・しかし、とんでもない術だったな。あれだけのイナゴを生み出して、尚且つ手に取るように操れるとは思わなかった」
「アタシも初めて見た。一緒にいた頃はもっと単純な命令しか出せなかったし、沢山のイナゴを出せるけどもっと時間がかかっていたはずなのに」
「何?」
それは妙な話だ。ラスキャブとピオンスコの戦闘技術や能力は総合的に見れば大体同じだ。だからこそ、昔からつるんでいたのだろう。聞けばトスクルだって似た様な実力の持ち主だというし、ともすれば彼女は『囲む大地』にやってきてから急速にレベルを上げたことになる。
若干の記憶を保持しているピオンスコでさえ、こっちの環境に馴染めていなかったし、見る限り仲間に恵まれて経験値を積むことができたとも考えにくい。
トスクルは、どうやって短期間に魔法レベルを上げることができたんだ・・・?
いずれにしても草原は街道が通っている事もあり、人目も多い。それを避けるために森の中へと移動をした。不可抗力とは言え殺してしまった魔族の亡骸をひとまず葬ると、オレは意識のある奴らに改めて質問をした。
「ダブデチカを襲ったのは、お前らで間違いないな」
「そ、そうです」
魔族たちは冷や汗をかきながらオレを見据える。こうなっては従順になって命を乞うか、逃げるタイミングを計るしかないので当然の反応だろう。
「お前ら、さっき仕事って言ってたよな。ありゃどういう意味だ?」
「仕事だと?」
「た、頼まれたというか、命令されたんだ」
「誰に?」
「ソリダリティって女の魔族だった。白い髪で頭から猫の耳を生やしていた」
「猫の耳?」
その証言でオレの妙な予感が生まれた。
ササス族の持つ鳥の特徴を色濃く持ったまま謎の変容を遂げたフェトネックを思いながら、猫の特徴を持つ魔族と聞けばリホウド族である聖女レコットが思い出されてしまう。とはいえども、それだけでは確証は持てない。詳しく聞こうとと思った矢先、もっと効率的かつ確実な方法を思い出した。
オレは顕現していたルージュとアーコに目配せした。
ルージュは腕から青白いブレードを出すと、それを横薙ぎに振るった。そうすると魔族たちが全員、弛緩したように倒れ込み気を失ってしまった。
オレ達の目には見えないが、ルージュ達は空中から何か千切る様な仕草をして互いに確認し合っている。不謹慎かと思ったが、オレは馬車に積んであった欲し肉を齧りながら酒を少し貰い、その様子をぼんやりと眺めている。
やがて、魔族たちの記憶を精査し終わった二人はその内容をオレ達に伝達しようと振り返った。が、その顔には若干の緊張が走っている。
「どうかしたのか?」
「まあな。口で説明するよりもこいつらの記憶を見た方が手っ取り早い」
「手っ取り早いが…驚くなよ?」
「それは約束できんな」
そうして二人は魔族たちの記憶の断片を見せてきてくれた。案の定と言った具合に、オレはアーコとの約束は守れなかった。
記憶の中には尤も憎むべき男がいたからだ。
リーダー格の魔族が容易くねじ伏せられたことで、残りのメンバーは思い思いに逃亡を図った。しかし、アーコの放った魔法により、草原に茂っている草という草が壁を作るように群生しだして、逃げ道を悉く潰してしまった。
「くそがぁぁぁ」
攻撃を繰り出して突破を試みるものの、それよりもラスキャブ達の追い打ちの方が早い。まともにやり合えばいい勝負になる様な実力は持ち合わせていたが、混乱に乗じたこちら側のパーティに軍配が上がった。
オレが腕を切り落した魔族は、失血がひどく手当てをする前にショック死してしまった。生き残った他の奴らも気絶するか、拘束されるかで身動きを封じられている。
かくして、ようやく落ち着いて会話と情報分析のできる時間を得ることができたのだった。
◇
「トスクルっ! トスクルっ!!」
ピオンスコは気を失っているトスクルを抱え起こすと、必死になって名前を呼んだ。青い顔をしており、確かに傍目にも心配になる顔色だ。しかしすぐにアーコが様子を見てくれ、記憶と精神が混乱しているだけで命に別状はないと断言してくれた。
「・・・しかし、とんでもない術だったな。あれだけのイナゴを生み出して、尚且つ手に取るように操れるとは思わなかった」
「アタシも初めて見た。一緒にいた頃はもっと単純な命令しか出せなかったし、沢山のイナゴを出せるけどもっと時間がかかっていたはずなのに」
「何?」
それは妙な話だ。ラスキャブとピオンスコの戦闘技術や能力は総合的に見れば大体同じだ。だからこそ、昔からつるんでいたのだろう。聞けばトスクルだって似た様な実力の持ち主だというし、ともすれば彼女は『囲む大地』にやってきてから急速にレベルを上げたことになる。
若干の記憶を保持しているピオンスコでさえ、こっちの環境に馴染めていなかったし、見る限り仲間に恵まれて経験値を積むことができたとも考えにくい。
トスクルは、どうやって短期間に魔法レベルを上げることができたんだ・・・?
いずれにしても草原は街道が通っている事もあり、人目も多い。それを避けるために森の中へと移動をした。不可抗力とは言え殺してしまった魔族の亡骸をひとまず葬ると、オレは意識のある奴らに改めて質問をした。
「ダブデチカを襲ったのは、お前らで間違いないな」
「そ、そうです」
魔族たちは冷や汗をかきながらオレを見据える。こうなっては従順になって命を乞うか、逃げるタイミングを計るしかないので当然の反応だろう。
「お前ら、さっき仕事って言ってたよな。ありゃどういう意味だ?」
「仕事だと?」
「た、頼まれたというか、命令されたんだ」
「誰に?」
「ソリダリティって女の魔族だった。白い髪で頭から猫の耳を生やしていた」
「猫の耳?」
その証言でオレの妙な予感が生まれた。
ササス族の持つ鳥の特徴を色濃く持ったまま謎の変容を遂げたフェトネックを思いながら、猫の特徴を持つ魔族と聞けばリホウド族である聖女レコットが思い出されてしまう。とはいえども、それだけでは確証は持てない。詳しく聞こうとと思った矢先、もっと効率的かつ確実な方法を思い出した。
オレは顕現していたルージュとアーコに目配せした。
ルージュは腕から青白いブレードを出すと、それを横薙ぎに振るった。そうすると魔族たちが全員、弛緩したように倒れ込み気を失ってしまった。
オレ達の目には見えないが、ルージュ達は空中から何か千切る様な仕草をして互いに確認し合っている。不謹慎かと思ったが、オレは馬車に積んであった欲し肉を齧りながら酒を少し貰い、その様子をぼんやりと眺めている。
やがて、魔族たちの記憶を精査し終わった二人はその内容をオレ達に伝達しようと振り返った。が、その顔には若干の緊張が走っている。
「どうかしたのか?」
「まあな。口で説明するよりもこいつらの記憶を見た方が手っ取り早い」
「手っ取り早いが…驚くなよ?」
「それは約束できんな」
そうして二人は魔族たちの記憶の断片を見せてきてくれた。案の定と言った具合に、オレはアーコとの約束は守れなかった。
記憶の中には尤も憎むべき男がいたからだ。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる