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Episode3
間に合わない勇者
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開戦と同時に、魔族の一人が両手を強く打ちあった。その衝撃は大風となってアーコ達を襲う。軽く吹き飛ばされながらも上手く体勢を整えた。しかし、草人間は脆くも吹き飛ばされてしまい、捕らえていた魔族の解放を許す結果となる。
「トスクル、イナゴをこっちへ回せ。こいつらを攻撃しろ」
「わかった」
アーコ達を敵と認識したトスクルは無情な表情を向けては両手に魔力を込めた。やはり記憶はないのかとアーコは瞬時に切り替えたが、ピオンスコはそこまで柔軟に立ち回れなかった。
「待って、トスクル。アタシだよ、ラスキャブもいるんだ」
「・・・」
トスクルは一瞬だけ困惑したような顔になったが、すぐに無機質な顔に戻りイナゴの操作に集中し始めた。それでも諦められないピオンスコは、不用意に近づこうとしてアーコに叱られた。
「よせ、ピオンスコ。ラスキャブと同じなら、アイツも記憶がねえんだ。今は敵と思え」
「うぅ…」
ピオンスコは目に見えて狼狽し、動きが鈍くなった。敵もそこそこの手練れであったため、その隙を見逃さずに攻撃魔法を放ってくる。瞬間的に空中に十数個の氷の礫が出来たかと思うと、それらが一斉にピオンスコを襲った。何とか反応できたものの、一つを腹に喰らってしまい、うめき声と共に蹲ってしまう。
「ピオンスコっ!」
「ラスキャブ、余所見をするなっ!」
「え?」
当然、情けをかけて迂闊に動いたラスキャブも恰好の的にされた。
一番小柄だった魔族の腕が伸長し、蛇のような動きと速さでラスキャブの足を掴んだかと思うと、強引に投げ飛ばした。
「きゃああ」
投げられたラスキャブは短い悲鳴を上げた。そして為すすべなく草人間から解放された魔族の布を操る魔術によってあえなく捕らえられてしまう。
手際よく、ラスキャブとピオンスコを制した魔族たちは、余裕と加虐に染まった笑みを浮かべてアーコを見た。
「だから調子に乗るなって言っただろ」
「っち」
アーコは腕をかざし、魔法を放とうとした。しかし、それはできなかった。捕らえられラスキャブに刃物を突き付けられ、人質とされてしまっているからだ。
「動くなよ。あのちっこいのの命はねえぞ」
「くそっ」
「とりあえず、大人しくしてろ」
降伏したような素振りを見せると、アーコは思考を巡らせながらザートレ達の事を一瞥した。あの爆発は自分で引き起こしたモノだ。自滅する訳はない。ともすれば身を隠して隙を伺っているはず。状況を打破できないとなると、あいつらに頼るしかない。戦闘経験が圧倒的に足りない二人を抱えている上に、数も劣っているのだからもっと慎重になるべきだったと、アーコは今更ながらに後悔していた。
「トスクル、イナゴをこっちへ回せ。こいつらを攻撃しろ」
「わかった」
アーコ達を敵と認識したトスクルは無情な表情を向けては両手に魔力を込めた。やはり記憶はないのかとアーコは瞬時に切り替えたが、ピオンスコはそこまで柔軟に立ち回れなかった。
「待って、トスクル。アタシだよ、ラスキャブもいるんだ」
「・・・」
トスクルは一瞬だけ困惑したような顔になったが、すぐに無機質な顔に戻りイナゴの操作に集中し始めた。それでも諦められないピオンスコは、不用意に近づこうとしてアーコに叱られた。
「よせ、ピオンスコ。ラスキャブと同じなら、アイツも記憶がねえんだ。今は敵と思え」
「うぅ…」
ピオンスコは目に見えて狼狽し、動きが鈍くなった。敵もそこそこの手練れであったため、その隙を見逃さずに攻撃魔法を放ってくる。瞬間的に空中に十数個の氷の礫が出来たかと思うと、それらが一斉にピオンスコを襲った。何とか反応できたものの、一つを腹に喰らってしまい、うめき声と共に蹲ってしまう。
「ピオンスコっ!」
「ラスキャブ、余所見をするなっ!」
「え?」
当然、情けをかけて迂闊に動いたラスキャブも恰好の的にされた。
一番小柄だった魔族の腕が伸長し、蛇のような動きと速さでラスキャブの足を掴んだかと思うと、強引に投げ飛ばした。
「きゃああ」
投げられたラスキャブは短い悲鳴を上げた。そして為すすべなく草人間から解放された魔族の布を操る魔術によってあえなく捕らえられてしまう。
手際よく、ラスキャブとピオンスコを制した魔族たちは、余裕と加虐に染まった笑みを浮かべてアーコを見た。
「だから調子に乗るなって言っただろ」
「っち」
アーコは腕をかざし、魔法を放とうとした。しかし、それはできなかった。捕らえられラスキャブに刃物を突き付けられ、人質とされてしまっているからだ。
「動くなよ。あのちっこいのの命はねえぞ」
「くそっ」
「とりあえず、大人しくしてろ」
降伏したような素振りを見せると、アーコは思考を巡らせながらザートレ達の事を一瞥した。あの爆発は自分で引き起こしたモノだ。自滅する訳はない。ともすれば身を隠して隙を伺っているはず。状況を打破できないとなると、あいつらに頼るしかない。戦闘経験が圧倒的に足りない二人を抱えている上に、数も劣っているのだからもっと慎重になるべきだったと、アーコは今更ながらに後悔していた。
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