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Episode3
笑われる勇者
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ザートレが草原でイナゴに応戦している最中、彼の予想通り森には五人組のパーティがいた。そこには『囲む大地の者』の姿はなく、五人全員が魔族だった。魔族たちは草原でイナゴに苦しみながら戦うザートレの姿を見ながら、嗜虐的な笑みを浮かべている。
すると、その中で唯一の少女が、短く声を出した。
「あ」
「トスクル、どうした?」
「何だか、相手の数がおかしい」
トスクルと呼ばれた少女は両手から今なおイナゴを生み出しては、魔力を注ぎイナゴの群れを操っていた。最も好戦的なザートレを相手取るあまり、他のメンバーへの注意が散漫になっていた。
仲間の男は、その報告を受けて草原をくまなく見てみた。が、確かにトスクルの言う通り一人のフォルポス族を除いて誰の姿も見えない。
「本当だ。魔族を三人連れてたはずなのに、いつの間にかフォルポス族だけになってるな」
「大方、これがチャンスとばかりに湖の方にでも逃げたんだろ。女の魔族しか連れていなかったし、余程の好き者な変態だったのかもしれないぜ」
「確かにな」
「おいおい。女を助けていいようにするんじゃなかったのかよ」
戦闘の一切をトスクルに任せっきりの男達は、揃って下品な笑い声を出した。
「女の足じゃそう遠くには行けないだろ。アイツを片付けてから恩着せがましく近付きゃいいさ。どうせ、主をなくして行き場に困ってるだろうしな。俺達と来いといや二つ返事でついてくるさ」
「あのダブデチカって街にもいい女はいたのによ・・・」
「仕方ないだろ。魔族も含めて全員を船に乗せて『螺旋の大地』に送れって指示だったんだからよ」
「というか、トスクル。フォルポス族一人にいつまで手こずってんだ?」
トスクルに小言飛ばした男は、彼女の顔を見て冷や汗を掻いている事に気が付いてギョッとした。心なしか息づかいも乱れている。
「お、おい。どうした」
「あの人・・・とても強い」
「何だと?」
その時、五人の下にも大きな爆発音が届く。ザートレが『冠の匣』を放ったのだ。トスクルを注視していた不意を突かれたばかりに男達は状況が一切飲み込めず、ただ狼狽をするばかりだった。
「な、何だ!?」
「あのフォルポス族が爆発魔法を使った」
「で、どうなった?」
「分からない。煙で何も見えないから」
徐々に目論見が外れている事に不安を感じ始めた魔族たちは、にわかにざわめきだした。
「おい、どうする? いっそのこと確かめるついでに俺達がトドメを刺すか?」
「・・・そうだな。どの道、あの荷馬車の荷物と逃げた女たちのところには行くつもりだし」
「よし。トスクル、一応イナゴでの見張りは続けながらついてこい」
「わかった」
男たちは荷物を持ち、一斉に森を出ようとした。
その時である。
「『下生えの勇者』!」
と、アーコの呪文を唱える声がこだま下かと思うと、突如として草原の草が急速に伸び、人の形を成して襲い掛かってきた。
「なに!?」
魔族たちは各々が反応できたが、唯一場所の悪かった角付きの魔族が草人間に抱擁されるかの如くのみ込まれてしまう。
「オジウロタっ!」
仲間を呼ぶ声が響くも、草人間の両脇からラスキャブとピオンスコとが追撃を喰らわしてくるため、応戦が手一杯の有様だ。
それでも、ラスキャブの槍を躱し、ミラーコートを使ったピオンスコの不意打ちを凌ぐ程度の力はあったようで、すぐに固まり体勢を整えながらアーコ達を見定めてくる。
「お前ら・・・あのフォルポス族と一緒にいた奴らだな?」
「ああ。そうだよ」
「なら話を聞け。仕方なくお前らごと襲っちまったが、俺達は味方だ。アイツから助けようとしたんだよ」
「あ、悪いな。そう言うの間に合ってるんだ。俺たちは隷属されてるんじゃなく、好き好んでアイツとつるんでる」
「あ? そんな魔族がいる訳ないだろ」
「それがいるんだよ。世の中わかんないよな」
魔族たちはざわついた。しかし、彼らから見ても操られている様な素振りは見受けられなかったので、観念するように呟いた。
「おい、どうする? 戦うか?」
その疑問を受けて、リーダーと思しき男がアーコに向かって提案をしてくる。
「わかった、襲ったことはあやまる。大人しく引き下がるから、アイツを返してお前らも引いてくれ」
アーコはその弁を聞くと、耳まで裂ける様な笑みを浮かべて返事をした。
「悪いがそうはいかない。そこのイナゴ使いに用があるんでな。ま、そいつを置いていくってんなら話は別だけど」
「・・・調子に乗んなよ。下手に出てりゃつけ上がりやがって」
「こいつはオレ達の仕事に必要なんでね」
ピクリ、とアーコの耳が敏くも反応した。
(仕事だと? 訳アリだな、こりゃ)
「ラスキャブ、ピオンスコ。ちょっと気になることがある、ぶっ飛ばしてもいいけど、殺すなよ」
「わかった」
それを合図にしたかのように、その場の全員が臨戦態勢を整えた。
「調子に乗るなっつてんだろっっっ!」
すると、その中で唯一の少女が、短く声を出した。
「あ」
「トスクル、どうした?」
「何だか、相手の数がおかしい」
トスクルと呼ばれた少女は両手から今なおイナゴを生み出しては、魔力を注ぎイナゴの群れを操っていた。最も好戦的なザートレを相手取るあまり、他のメンバーへの注意が散漫になっていた。
仲間の男は、その報告を受けて草原をくまなく見てみた。が、確かにトスクルの言う通り一人のフォルポス族を除いて誰の姿も見えない。
「本当だ。魔族を三人連れてたはずなのに、いつの間にかフォルポス族だけになってるな」
「大方、これがチャンスとばかりに湖の方にでも逃げたんだろ。女の魔族しか連れていなかったし、余程の好き者な変態だったのかもしれないぜ」
「確かにな」
「おいおい。女を助けていいようにするんじゃなかったのかよ」
戦闘の一切をトスクルに任せっきりの男達は、揃って下品な笑い声を出した。
「女の足じゃそう遠くには行けないだろ。アイツを片付けてから恩着せがましく近付きゃいいさ。どうせ、主をなくして行き場に困ってるだろうしな。俺達と来いといや二つ返事でついてくるさ」
「あのダブデチカって街にもいい女はいたのによ・・・」
「仕方ないだろ。魔族も含めて全員を船に乗せて『螺旋の大地』に送れって指示だったんだからよ」
「というか、トスクル。フォルポス族一人にいつまで手こずってんだ?」
トスクルに小言飛ばした男は、彼女の顔を見て冷や汗を掻いている事に気が付いてギョッとした。心なしか息づかいも乱れている。
「お、おい。どうした」
「あの人・・・とても強い」
「何だと?」
その時、五人の下にも大きな爆発音が届く。ザートレが『冠の匣』を放ったのだ。トスクルを注視していた不意を突かれたばかりに男達は状況が一切飲み込めず、ただ狼狽をするばかりだった。
「な、何だ!?」
「あのフォルポス族が爆発魔法を使った」
「で、どうなった?」
「分からない。煙で何も見えないから」
徐々に目論見が外れている事に不安を感じ始めた魔族たちは、にわかにざわめきだした。
「おい、どうする? いっそのこと確かめるついでに俺達がトドメを刺すか?」
「・・・そうだな。どの道、あの荷馬車の荷物と逃げた女たちのところには行くつもりだし」
「よし。トスクル、一応イナゴでの見張りは続けながらついてこい」
「わかった」
男たちは荷物を持ち、一斉に森を出ようとした。
その時である。
「『下生えの勇者』!」
と、アーコの呪文を唱える声がこだま下かと思うと、突如として草原の草が急速に伸び、人の形を成して襲い掛かってきた。
「なに!?」
魔族たちは各々が反応できたが、唯一場所の悪かった角付きの魔族が草人間に抱擁されるかの如くのみ込まれてしまう。
「オジウロタっ!」
仲間を呼ぶ声が響くも、草人間の両脇からラスキャブとピオンスコとが追撃を喰らわしてくるため、応戦が手一杯の有様だ。
それでも、ラスキャブの槍を躱し、ミラーコートを使ったピオンスコの不意打ちを凌ぐ程度の力はあったようで、すぐに固まり体勢を整えながらアーコ達を見定めてくる。
「お前ら・・・あのフォルポス族と一緒にいた奴らだな?」
「ああ。そうだよ」
「なら話を聞け。仕方なくお前らごと襲っちまったが、俺達は味方だ。アイツから助けようとしたんだよ」
「あ、悪いな。そう言うの間に合ってるんだ。俺たちは隷属されてるんじゃなく、好き好んでアイツとつるんでる」
「あ? そんな魔族がいる訳ないだろ」
「それがいるんだよ。世の中わかんないよな」
魔族たちはざわついた。しかし、彼らから見ても操られている様な素振りは見受けられなかったので、観念するように呟いた。
「おい、どうする? 戦うか?」
その疑問を受けて、リーダーと思しき男がアーコに向かって提案をしてくる。
「わかった、襲ったことはあやまる。大人しく引き下がるから、アイツを返してお前らも引いてくれ」
アーコはその弁を聞くと、耳まで裂ける様な笑みを浮かべて返事をした。
「悪いがそうはいかない。そこのイナゴ使いに用があるんでな。ま、そいつを置いていくってんなら話は別だけど」
「・・・調子に乗んなよ。下手に出てりゃつけ上がりやがって」
「こいつはオレ達の仕事に必要なんでね」
ピクリ、とアーコの耳が敏くも反応した。
(仕事だと? 訳アリだな、こりゃ)
「ラスキャブ、ピオンスコ。ちょっと気になることがある、ぶっ飛ばしてもいいけど、殺すなよ」
「わかった」
それを合図にしたかのように、その場の全員が臨戦態勢を整えた。
「調子に乗るなっつてんだろっっっ!」
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