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Episode2
安らぐ勇者
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どうやって調達したかは知らないが、荷馬車は有難かった。まだ完全に体力は回復しきれていないし、歩くよりも少しは早い。巨大化して移動するという手段も昼間の、それも人目の多いこの地域では少々憚られる。
アーコにはああいう態度を取ったが、持ってきた軍資金はありがたく使わせてもらう事にする。オレ達はこの日一番の羽振りの良さを発揮して、食料を買い漁っては馬車へと詰め込んで行った。その最中に食材だけではなく、露店で出来合いの料理も購入してはその都度口に運んだ。アーコは酒で魔力を回復できるだろうが、オレやラスキャブやピオンスコはそうもいかない。食う事と寝る事が一番の回復手段なのだ。
オレはどうしたって肉料理の方が好きなのだが、湖近くという立地のせいでどうしても魚料理を出す露店が多い。不服ではあったが体力回復を最優先に考えた。森で鍋と串焼き肉を食った後だったのだが、それでもラスキャブ達が少々引くほどの量を食べていた。
やがて、諸々の支度を全て終えると、ようやくトスクルの後を追う為にダブデチカの北へと出発することができた。
◇
その頃には日が暮れかかっており、オレンジ色の光が湖の水面にキラキラと揺蕩うように反射していた。
「魔物の気配は感じない。しばらくは道なりになるだろうから、少しでも眠ったらどうだ?」
出発してすぐに、ルージュはオレ達に睡眠を取るように提案してきた。アーコはすでに魔力回復だと遠慮なしに酒を呷り、出来上がっているし、ラスキャブ達も夕方の日を浴びて微睡んでいる。
「そうだな。すまないが手綱を任せる」
「ああ。早く本調子に戻ってくれ。何が起こるか分からんし、何となくだがいい予感はしないのだ」
「嫌な予感、か?」
「ああ。確証は何もない。本当にただの予感だがな」
ルージュが確たる証左もなく報せを感じ取ったように、オレも何の証拠がなくともルージュの報せを信じてしまった。優れた剣というのは得てして持ち主を守るために何かの兆しを示すことがある。ルージュ程の魔剣となれば、ただの勘だろうと切り捨ててしまうには躊躇いがあった。
「わかった。言う通り、なおさら今は体力の回復に集中させてもらう」
オレは荷車の縁に体重を任せ、座ったままでウトウトと眠りについた。長年の癖で、屋根のないところで寝るときは、意識を完全に手放す様なことができない。
森から吹いてくる風の匂い、湖から聞こえる波のさざめき、土の道を通る馬車の揺れのいずれもが夢の導入のように頭に霞がかった風景を連想させる。すると不思議といつもよりも深い眠りについてしまった。それはきっと長年の経験よりも、ルージュの存在がオレの中で大きな拠り所になっていたからだろう。
アーコにはああいう態度を取ったが、持ってきた軍資金はありがたく使わせてもらう事にする。オレ達はこの日一番の羽振りの良さを発揮して、食料を買い漁っては馬車へと詰め込んで行った。その最中に食材だけではなく、露店で出来合いの料理も購入してはその都度口に運んだ。アーコは酒で魔力を回復できるだろうが、オレやラスキャブやピオンスコはそうもいかない。食う事と寝る事が一番の回復手段なのだ。
オレはどうしたって肉料理の方が好きなのだが、湖近くという立地のせいでどうしても魚料理を出す露店が多い。不服ではあったが体力回復を最優先に考えた。森で鍋と串焼き肉を食った後だったのだが、それでもラスキャブ達が少々引くほどの量を食べていた。
やがて、諸々の支度を全て終えると、ようやくトスクルの後を追う為にダブデチカの北へと出発することができた。
◇
その頃には日が暮れかかっており、オレンジ色の光が湖の水面にキラキラと揺蕩うように反射していた。
「魔物の気配は感じない。しばらくは道なりになるだろうから、少しでも眠ったらどうだ?」
出発してすぐに、ルージュはオレ達に睡眠を取るように提案してきた。アーコはすでに魔力回復だと遠慮なしに酒を呷り、出来上がっているし、ラスキャブ達も夕方の日を浴びて微睡んでいる。
「そうだな。すまないが手綱を任せる」
「ああ。早く本調子に戻ってくれ。何が起こるか分からんし、何となくだがいい予感はしないのだ」
「嫌な予感、か?」
「ああ。確証は何もない。本当にただの予感だがな」
ルージュが確たる証左もなく報せを感じ取ったように、オレも何の証拠がなくともルージュの報せを信じてしまった。優れた剣というのは得てして持ち主を守るために何かの兆しを示すことがある。ルージュ程の魔剣となれば、ただの勘だろうと切り捨ててしまうには躊躇いがあった。
「わかった。言う通り、なおさら今は体力の回復に集中させてもらう」
オレは荷車の縁に体重を任せ、座ったままでウトウトと眠りについた。長年の癖で、屋根のないところで寝るときは、意識を完全に手放す様なことができない。
森から吹いてくる風の匂い、湖から聞こえる波のさざめき、土の道を通る馬車の揺れのいずれもが夢の導入のように頭に霞がかった風景を連想させる。すると不思議といつもよりも深い眠りについてしまった。それはきっと長年の経験よりも、ルージュの存在がオレの中で大きな拠り所になっていたからだろう。
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