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Episode2
気付く勇者
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早速、街の外に出て聞き込みを開始したオレ達だったが、予想通りトスクルという魔族の少女についての情報は中々有力なものを得ることは出来なかった。反面、やはりイナゴの飛び交う姿を見たという商人や旅人は次々と見つかり、聞いた話を統合して見るとダブデチカよりも北の草原や森で特に目撃が多かった。どうやらイナゴの一団とトスクルは、ダブデチカの街を襲った後、どんどんと北上しているらしい。
湖畔上に突き進むと、今度はイテスボイルという似た様な港町に行きつくはず…。
そこでもイナゴを駆使して街を襲うとなると状況はかなりマズイ。何の怨みかは知らないが、港町を積極的に襲われると魔王がいる『螺旋の大地』へ行く手段がなくなってしまう。
オレはその心配に辿り着くと、一つ見落としていた事実にも気が付いた。
「そう言えば、船はどうなっていたか見た奴はいるか?」
「いや、私は見ていない」
ルージュを皮切りに全員が首を横に振った。
一つの可能性を思いついたオレは、船の所在と状況を明らかにすべく、再び街の中へと入っていった。
◇
街を突き抜けて港へ出ると、そこはもぬけの殻となっていた。大小様々な船がただの一艘たりとも残されていない。岸に打ち寄せる波音だけが空しく響いていた。
「一体どうしたというのだ、主よ」
「船が残っているかどうか気になってな。だが、御覧の有様だ。こうなると一つ仮説できた」
「仮説?」
「ああ。ダブデチカの住人たちは船で沖に出たんじゃないだろうか。それならば陸路を行く商人や旅人たちに目撃されていないというのも説明が付く」
「なるほどね。確かに理屈の上じゃそれが一番可能性が高いな」
「で、ですが、これほど大きい町の全員が船に乗れるんでしょうか?」
「漁に使う船や観光用の遊覧船まで無くなっている。全部を使ったとなると、不可能な話じゃないとは思う。イナゴから逃げると考えたら自然な選択だが…逆に不自然でもあるな」
「へ?」
と、ピオンスコが素っ頓狂な声を出して、まじまじとオレを見てきた。
「ラスキャブの言う通りこれほど大きな街だ。住民全員が準備を整えて船に乗るとなったら容量としては可能だが、時間の問題が残る。例えばトスクルとやらがイナゴを操れることを示唆して、住民を脅迫して船に乗るように促した…とか、特別な理由がないと辻褄が合わない」
「・・・仮にそうだというなら、計画的な行動だな。ちなみに聞くが、トスクルとやらはそういう事を仕出かす様な奴だったのか?」
「ううん。どっちかっていうと真面目な奴だよ。普段はあんまりお喋りはしないんだけど、アタシとラスキャブが無茶やったりすると、いつも口をとがらせて怒ってくるんだ」
「てことは、やはり仲間がいる可能性が強くなったな、やることが大掛かりだし。もしくはソイツを利用している黒幕がいる、とかな。そもそもピオンスコの連れってことは魔王に記憶を消された上でこっちに送り込まれているんだろ? どっちかっていうと利用されているって方があり得るんじゃないか?」
「そうだな。話を聞く限りじゃ、トスクルが住民を船に乗せて沖に出す理由が見えん。住民を消し去りたい誰かの指図があったという方が、魔族の行動理由としては整合性がある」
「だが、どのように考えても状況を鑑みての空想だろう。断定はできんぞ」
「ああ。ともすれば、回りくどかったがトスクルを追いかけてオレ達も北上しよう。叶う事ならイテスボイルに着く前に接触を持ちたいところだ。街は壊滅的だが、幸いにも門前市がある。そこで物資を揃えよう」
「金もたんまりとあるしな。酒も買おう」
そう言ってアーコはどこからか見慣れない財布を取り出した。
「それ、どうしたんだ?」
聞くとニヤリと笑い、自慢げに返事を返してくる。
「カルトーシュを出る時にちょいとね」
「お前…足が付いたらどうするんだ?」
「大丈夫だって。あの店にいた奴らは全員、俺とルージュとで記憶を改竄してんだから。それよりも早いとこ買うもん買って追いかけようぜ。手遅れになる前によ」
そう言い残すと、そそくさと一人で先走っていった。しばらくたってから街の外で合流する頃には、ご丁寧に荷馬車を用意してこの市にある酒を全て買い占めたアーコがしたり顔で待っていたのだった。
湖畔上に突き進むと、今度はイテスボイルという似た様な港町に行きつくはず…。
そこでもイナゴを駆使して街を襲うとなると状況はかなりマズイ。何の怨みかは知らないが、港町を積極的に襲われると魔王がいる『螺旋の大地』へ行く手段がなくなってしまう。
オレはその心配に辿り着くと、一つ見落としていた事実にも気が付いた。
「そう言えば、船はどうなっていたか見た奴はいるか?」
「いや、私は見ていない」
ルージュを皮切りに全員が首を横に振った。
一つの可能性を思いついたオレは、船の所在と状況を明らかにすべく、再び街の中へと入っていった。
◇
街を突き抜けて港へ出ると、そこはもぬけの殻となっていた。大小様々な船がただの一艘たりとも残されていない。岸に打ち寄せる波音だけが空しく響いていた。
「一体どうしたというのだ、主よ」
「船が残っているかどうか気になってな。だが、御覧の有様だ。こうなると一つ仮説できた」
「仮説?」
「ああ。ダブデチカの住人たちは船で沖に出たんじゃないだろうか。それならば陸路を行く商人や旅人たちに目撃されていないというのも説明が付く」
「なるほどね。確かに理屈の上じゃそれが一番可能性が高いな」
「で、ですが、これほど大きい町の全員が船に乗れるんでしょうか?」
「漁に使う船や観光用の遊覧船まで無くなっている。全部を使ったとなると、不可能な話じゃないとは思う。イナゴから逃げると考えたら自然な選択だが…逆に不自然でもあるな」
「へ?」
と、ピオンスコが素っ頓狂な声を出して、まじまじとオレを見てきた。
「ラスキャブの言う通りこれほど大きな街だ。住民全員が準備を整えて船に乗るとなったら容量としては可能だが、時間の問題が残る。例えばトスクルとやらがイナゴを操れることを示唆して、住民を脅迫して船に乗るように促した…とか、特別な理由がないと辻褄が合わない」
「・・・仮にそうだというなら、計画的な行動だな。ちなみに聞くが、トスクルとやらはそういう事を仕出かす様な奴だったのか?」
「ううん。どっちかっていうと真面目な奴だよ。普段はあんまりお喋りはしないんだけど、アタシとラスキャブが無茶やったりすると、いつも口をとがらせて怒ってくるんだ」
「てことは、やはり仲間がいる可能性が強くなったな、やることが大掛かりだし。もしくはソイツを利用している黒幕がいる、とかな。そもそもピオンスコの連れってことは魔王に記憶を消された上でこっちに送り込まれているんだろ? どっちかっていうと利用されているって方があり得るんじゃないか?」
「そうだな。話を聞く限りじゃ、トスクルが住民を船に乗せて沖に出す理由が見えん。住民を消し去りたい誰かの指図があったという方が、魔族の行動理由としては整合性がある」
「だが、どのように考えても状況を鑑みての空想だろう。断定はできんぞ」
「ああ。ともすれば、回りくどかったがトスクルを追いかけてオレ達も北上しよう。叶う事ならイテスボイルに着く前に接触を持ちたいところだ。街は壊滅的だが、幸いにも門前市がある。そこで物資を揃えよう」
「金もたんまりとあるしな。酒も買おう」
そう言ってアーコはどこからか見慣れない財布を取り出した。
「それ、どうしたんだ?」
聞くとニヤリと笑い、自慢げに返事を返してくる。
「カルトーシュを出る時にちょいとね」
「お前…足が付いたらどうするんだ?」
「大丈夫だって。あの店にいた奴らは全員、俺とルージュとで記憶を改竄してんだから。それよりも早いとこ買うもん買って追いかけようぜ。手遅れになる前によ」
そう言い残すと、そそくさと一人で先走っていった。しばらくたってから街の外で合流する頃には、ご丁寧に荷馬車を用意してこの市にある酒を全て買い占めたアーコがしたり顔で待っていたのだった。
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