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Episode2
聞く勇者
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「はい、できました!」
ラスキャブの溌剌とした声が響く。前回と同じく串焼き肉と汁物の組み合わせだったが、肉の種類が違う上に、今回は野草がアクセントとして入っているのに気が付いた。大方森の中で取ってきたのだろうが、可食なものかどうか判断はついているのだろうか。少々心配になったオレは、折角作ってくれたのに申し訳ないがと前置きを入れたから尋ねた。
「この鍋に入っている野草や山菜は食べて大丈夫なモノなのか?」
「はい。実は言おう言おうと思っていたんですが、『見たモノの名前』が分かるという能力にちょっと変化がありまして」
「変化?」
「はい。上手く説明しずらいんですけど、食べ物の名前を見た時にそれが食べられるかどうかも分かるようになったみたいで」
「ほう?」
「頭の中に文字が出てくるんですが、それが赤いと食べられるみたいなんです」
それは中々に面白い話を聞けた。ピクシーズが授けた能力が成長するという話は聞いた事がない。尤もピクシーズと出会う事がそもそも稀で、そこから不可思議な能力を授かるのは更に限られるのだからオレが聞いたことがなくとも仕方がないことだ。
「じゃあ、有難くいただくか」
「俺もこのスープだけは貰う」
疲労困憊のオレとアーコはガツガツと不作法に食事にありついた。魔力も体力も、とにかく食って寝るというのが最も効率よく回復が見込める。おまけに塩加減が絶妙で串焼きもスープもどんどんと喉を通って行く。
するとピオンスコがスープの入った器をルージュへ差し出すのが見えた。
「はい。ルージュさん」
「…そうだな、私も頂こう。主と食卓を囲むのは少し気が引けるが」
などと建前を述べつつ、野に腰を掛けてスープを飲むルージュの姿に俺は内心驚いている。
どんな心境の変化があったというのだろうか。ここまでくると、ピオンスコの無邪気な性格がかえって恐ろしくも思えてきた。
◇
「ん?」
「ど、どうかしましたか?」
スープを一口飲んだルージュが不審な声を出したので、ラスキャブは反射的に怯えた様な、心配するような声を出した。
「いや、すまん。何と言うか旨味を感じてな」
「・・・お前、案外古典的な驚かし方するんだな」
「そうじゃない。私は物を口にしても無味乾燥な味わいしか感じた事がないのに、この料理からははっきりとした旨味のようなものを感じる。だから驚いたのだ」
ルージュのその一言に、どういう訳だか全員が興味をそそられた。
「何か特殊なものが入っていたのか?」
「もしくは俺と同じく、魔力を供給してくれるものを美味しく感じるかだな。自分にとって必要なものを摂取して幸福感を得るのは自然の摂理だし」
「そう言えば、お前も何も食べなくてもいいのが同じなら味覚はどうなっているんだ?」
「今言った通りさ。肉体の滋養になるものは美味いとは思わないが、魔力を供給してくれるものは味がする。酒とは特にそうだな」
「精霊やエレメンタルの類は酒の匂いに引かれやすいというのは良く聞くが、ひょっとするとそれがからくりか?」
「かもな。どうだ、今度の街に着いたら一杯飲んでみないか?」
「それは止めておこう」
「何故だ? お前が美味いと感じるならオレも少しは付き合うぞ?」
「酒にはいい思い出がない」
「思い出?」
それもおかしい話だ。こう言ってしまってはなんだが、ルージュがあの奈落の底に投棄されていた過去を考えれば、思い出というのはオレと出会って以降のものになるはず。その中で酒を振る舞った事などは記憶にない。勝手に飲み歩くというような事もなかったし、いつの事だというのだろうか。
ルージュもしまったという顔になったが、少なくともここまで進んだ話をアーコが許す訳もないと判断したのだろう。すぐに観念したという表情になった。
静かにゆっくりと、ルージュはその思い出話とやらを喋りはじめた。
ラスキャブの溌剌とした声が響く。前回と同じく串焼き肉と汁物の組み合わせだったが、肉の種類が違う上に、今回は野草がアクセントとして入っているのに気が付いた。大方森の中で取ってきたのだろうが、可食なものかどうか判断はついているのだろうか。少々心配になったオレは、折角作ってくれたのに申し訳ないがと前置きを入れたから尋ねた。
「この鍋に入っている野草や山菜は食べて大丈夫なモノなのか?」
「はい。実は言おう言おうと思っていたんですが、『見たモノの名前』が分かるという能力にちょっと変化がありまして」
「変化?」
「はい。上手く説明しずらいんですけど、食べ物の名前を見た時にそれが食べられるかどうかも分かるようになったみたいで」
「ほう?」
「頭の中に文字が出てくるんですが、それが赤いと食べられるみたいなんです」
それは中々に面白い話を聞けた。ピクシーズが授けた能力が成長するという話は聞いた事がない。尤もピクシーズと出会う事がそもそも稀で、そこから不可思議な能力を授かるのは更に限られるのだからオレが聞いたことがなくとも仕方がないことだ。
「じゃあ、有難くいただくか」
「俺もこのスープだけは貰う」
疲労困憊のオレとアーコはガツガツと不作法に食事にありついた。魔力も体力も、とにかく食って寝るというのが最も効率よく回復が見込める。おまけに塩加減が絶妙で串焼きもスープもどんどんと喉を通って行く。
するとピオンスコがスープの入った器をルージュへ差し出すのが見えた。
「はい。ルージュさん」
「…そうだな、私も頂こう。主と食卓を囲むのは少し気が引けるが」
などと建前を述べつつ、野に腰を掛けてスープを飲むルージュの姿に俺は内心驚いている。
どんな心境の変化があったというのだろうか。ここまでくると、ピオンスコの無邪気な性格がかえって恐ろしくも思えてきた。
◇
「ん?」
「ど、どうかしましたか?」
スープを一口飲んだルージュが不審な声を出したので、ラスキャブは反射的に怯えた様な、心配するような声を出した。
「いや、すまん。何と言うか旨味を感じてな」
「・・・お前、案外古典的な驚かし方するんだな」
「そうじゃない。私は物を口にしても無味乾燥な味わいしか感じた事がないのに、この料理からははっきりとした旨味のようなものを感じる。だから驚いたのだ」
ルージュのその一言に、どういう訳だか全員が興味をそそられた。
「何か特殊なものが入っていたのか?」
「もしくは俺と同じく、魔力を供給してくれるものを美味しく感じるかだな。自分にとって必要なものを摂取して幸福感を得るのは自然の摂理だし」
「そう言えば、お前も何も食べなくてもいいのが同じなら味覚はどうなっているんだ?」
「今言った通りさ。肉体の滋養になるものは美味いとは思わないが、魔力を供給してくれるものは味がする。酒とは特にそうだな」
「精霊やエレメンタルの類は酒の匂いに引かれやすいというのは良く聞くが、ひょっとするとそれがからくりか?」
「かもな。どうだ、今度の街に着いたら一杯飲んでみないか?」
「それは止めておこう」
「何故だ? お前が美味いと感じるならオレも少しは付き合うぞ?」
「酒にはいい思い出がない」
「思い出?」
それもおかしい話だ。こう言ってしまってはなんだが、ルージュがあの奈落の底に投棄されていた過去を考えれば、思い出というのはオレと出会って以降のものになるはず。その中で酒を振る舞った事などは記憶にない。勝手に飲み歩くというような事もなかったし、いつの事だというのだろうか。
ルージュもしまったという顔になったが、少なくともここまで進んだ話をアーコが許す訳もないと判断したのだろう。すぐに観念したという表情になった。
静かにゆっくりと、ルージュはその思い出話とやらを喋りはじめた。
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