魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode2

駆ける勇者

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「うわ、でっか」



 ピオンスコの無邪気な感想が耳元に届く。それを尻目にルージュは冷静に分析をして告げた。



「巨大化の魔法か。思えばお前も使っているな」



「ああ。俺は身体に作用する魔法が得意なんでね。当然、デカくなった分、脚力だって上がる。こいつに乗って走らせれば、追っ手の心配もいらないだろ」



「確かにな。常識的な追跡なら振り切れそうだ」



 オレは体内に潜在している運動能力をひしひしと感じ取りながら、そう返事をした。



「その分代謝が増えて、疲労や空腹に苦しむかもしれないが俺とルージュが魔力供給をして、カバーする。ダブデチカって町が話通りの距離にあるなら、どうにかなるだろ」



「そうと決まれば、早速出発しよう」



「しかしな…」



 聞いただけでは問題はなさそうだったが、ルージュは何かが引っかかったようで、顔をしかめて渋り出した。



「どうした? まだ問題があるか?」



「…主に跨るというのは、気が引ける」



 ルージュのその言葉に沈黙が流れた。すぐに堪えきれない笑いでそれは破られたのだが、その笑い声を出したのは意外にもラスキャブだった。



「す、すみません。何だかルージュさんが可愛くて」



「か、可愛いだと!? 侮辱する気か、ラスキャブ」



「ひぃっ。すみません。そんなつもりじゃ」



 と、仲睦まじいやり取りが繰り広げられた。ラスキャブはピオンスコの影に隠れ、アーコが仲裁に入って、ルージュを宥める。



「まあまあ、可愛いんだったらいいじゃないか」



「いい訳ないだろう。私の忠誠を浮ついたモノのように…」



「お前の忠誠を笑ったんじゃなくて、ザートレに跨るのを躊躇ってるお前の様子が可愛らしいって言っただけだろ」



「眷属従者が主人の上に乗るような事を後ろめたく思うのは当然だろう。むしろ貴様らもまずはそう思え」



「だったら次の街で罪滅ぼしのためにザートレに跨って貰うか、ベットの上でみんな一緒によ」



「貴様という奴は…」



 ルージュがアーコの言葉で怒りを呆れに変えた。悪戯に笑うアーコの声が勝利宣言のように森を通って行く。



「ザートレさんに跨って貰うの? 潰れちゃわない?」



「「………」」



 ピオンスコの発言に、全員が何と言えばいいのかを考えているうちに時間だけが過ぎた。



「え? 何? アタシ変なこと言った?」



「…いや、変な事を言ったのは俺だ。許してくれ」



 何が悪かったのかわからないピオンスコは、ただ首を傾げるだけだった。ピオンスコの言動はルージュとアーコのペースを絶妙に乱す。計算でやっているなら二人も躱しようがあろうが、素である以上中々に太刀打ちするのは難しいだろう。



 パーティが恐怖や利害関係でなく、別の何かで繋がってきている様な気がした。



 それはさておき、いい加減に出発したい。時間を無駄には出来ないし、何より巨大化の反作用のせいか血肉が滾って仕方がないのだ。思いきり野を駆けまわってエネルギーを発散できないのなら、本当にアーコの言う通り全員にのしかかりかねない。



 オレは痺れを切らせて言った。



「だったら命令だ。全員、オレに乗れ」



 そう言ってルージュたちに大義名分を与えると最後の理性を振り絞って身体を伏せた。毛を引っ張りながら全員が登山でもするかのように俺の身体によじ登ってくる。なんだが蚤が這っているみたいだと思った。



 全員に毛をしっかりと持って振り落とされないように注意を促す。一度走り始めたならもう止まれない様な気がしたからだ。



 事実、一度走り出したらもう自分でも足を止められなくなった。広大な森をモノの数十秒で抜けて夜の草原へと出る。月が出ているので、昼間と比べて遜色がない程に明るい。一歩一歩が軽やかで、風よりも速く走れそうな気になった。



 ただ走るだけの事がこんなに楽しいと思ったのはいつからだろうか。



 そんな事を考えていたのだが、草原を駆け抜けているうちに余計な思考さえもどこかに置き去りにしていった。
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