魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
124 / 347
Episode2

巨大化する勇者

しおりを挟む
 カルトーシュを出たオレ達はいち早くセムヘノの街を抜け出した。今日の今日で逃げ出すことは算段に入れていなかったものの、事態はそうでもしないと身に危険の及ぶところまで発展してしまったので仕方がない。



 流石だったのはルージュがこういう事を予測して宿屋を引き払った上、別の宿屋を前払いで押さえていてくれた点だった。ギルドにも迷惑をかけることもないし、追跡に混乱の一手を投じることもできる。正に好手と言える思い付きだった。



 街を出たオレ達はまずは北へと向かい、街が見えなくなったところで進行方向を西へと変えた。



 西にはニドル峠の麓の広陵とした森が広がっており、万が一に放たれた追っ手を躱すために一度そこに入って一呼吸を入れた。夜の森に吹く風が、心地よく熱を冷ましていってくれる。今のこの状況を臆病だと笑う奴もいるかも知れないが、優秀な戦士ほど戦わないというかつての師の教えを思い出してオレは自分を納得させ、同時に鼓舞させた。



 そこで次なる問題の解決のために相談をし始めた。



「セムヘノを無事に出られけどよ…ここからどうする?」



「カルトーシュで見聞きした情報の確認もしたいところだが、それは急いでやることじゃない、安全が確保されてからで十分間に合う――大きな目的で言えば、やはり魔王を殺すために『螺旋の大地』を目指すのと、ピオンスコとラスキャブの仲間とか言うトスクルを探す事の二つがある」



 アーコの質問にオレが返すと、ピオンスコの顔がにわかに明るくなった。



「ともすれば、その両方を達成できるダブデチカに向かうのがベターだろう…問題はその道のりだ」



「道のりですか?」



「ああ。ここからダブデチカはどう考えても十日以上はかかる。その上、直線状には大きな街や村がないから、セムヘノに戻って準備を整えられない以上、迂回しなけりゃならない」



「主よ」



「どうした?」



「迂回する理由は水と食料の問題外にあるのか?」



「いや、主だった理由はそれだな」



「ならば最短のルートで行くことは叶わないのか? 食べ物は魔獣を狩ればいいし、水ならばいつか見せたように私が供給できる」



 そう言われてルージュの特技の一つを思い出した。確かにその二つの問題をカバーできるのなら、最短ルートで向かうのは一つの手だ。無理から理由をつけるなら、最短ルートを通る場合、遮るもののない平原を通ることになる事だろうか。



 迂回をすれば常時森の中に身を隠して進むことができる。フェトネックもそうだが、手下の魔族も翼を有している奴らが散見された。平野を通ることは避けたいとオレの勘が告げていたのだ。



 すると今度はアーコが意味深な笑いと共に提案してきた。



「そういう事なら、一つ面白い手立てがあるぜ」



「面白い手立て、だと?」



「ああ。一度狼の姿になってくれ」



 疑問符を頭に浮かべながら、俺は言われるがままに狼の姿へと転じた。これが一体何を解決させてくれるのかを見定めていると、アーコがオレに一つの魔法をかけた。



 すると、見る見るうちに周りの風景が一変した。



 てっきりルージュ達が縮んでしまったのかと勘違いしたが、そうではなかった。周囲の木々も幾分小さくなってしまっていた。とどのつまり、オレは狼の姿のままに普段の何倍も巨大化していたという事だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...