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Episode2
傍観する勇者
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の事を詳しく教えなさい」 フェトネックは飽くまで朗らかな笑みを浮かべている。姿形は元より、一瞬の躊躇いなくここまでの殺気を放っている事実に、過去のフェトネックしか知らない俺も思わずたじろいでしまう。オレでさえ、圧を感じるオーラなのだ。メカーヒーは圧し掛かる気に逆らうことは出来ず、二、三歩後ずさりをした。
「ノウレッジ様。な、何かお気に障りましたでしょうか?」
「私は護衛についたフォルポス族について聞いているの。次にくだらない前置きをしたら殺すわよ」
最も入り口に近い位置にいた客が辛うじて竦む足を動かして店から逃げ出して行った。それ以外の客や魔族は動けないまま、固唾をのんで事の成り行きを見守っている。
メカーヒーは上手く息ができていないかのような息づかいで返事をした。
「ブ、ブリーオブの町から品を運ぶ際に、雇った男です。名は、ザートレと言いました。未だ、見た事がない程に、腕の立つ男でしたが、セムヘノについて任務が、終わり別れたのです。まだこの街にいる、可能性はありますが、所在は、わかりません」
「そいつの得物は?」
「け、剣です。それと炎の魔法も扱うのを一度見ました」
「炎の魔法…腕が立つというのはどの程度?」
「申した通り、私の知る中では最高と言っても過言ではなく…道中でドリックスを一撃で倒したばかりか、スピリッタメーバなる怪物をも討ったのです」
「…」
フェトネックは沸いた湯が冷めるように、徐々に落ち着き、殺気を散らしていった。それを見て、店内の全員が一先ずの嵐が過ぎ去ったと安堵の表情を浮かべた。
オレはテレパシーでアーコに一体何を考えているのかを問いただそうとした。だが、それよりも早く、アーコは次の一手を投じてしまった。
「ザートレって事はやっぱり…」
などと意味深な事を言い、周囲の者の関心を引く。案の定フェトネックは食い付いてきた。
「何か知っているの? そもそも何故、そのフォルポス族の名を気にするのかしら?」
「俺を捕らえたフォルポス族の女、名前をスカーレットと言うのですが…セムヘノには待ち合わせの為にやってきてたんです」
「待ち合わせ?」
「はい。それがザートレという男のフォルポスと会うと言っていまして…その、申し上げにくくて」
はぐらかすようわざと言葉に詰まり、聞いている者に気を持たせる。
「構わないから知っている事を教えなさい」
「…その、ザートレという男は魔王と戦ったことがある。だから情報を聞くだとか仲間に入れてもらうだとか零していました」
ふうっと、フェトネックの息づかいが静まり返った店の中に響いた。
そしてアーコはトドメを刺しにかかる。
「スカーレットとザートレは、この町の『チャジャー』という宿屋で会う手筈だったみたいです」
「それはいつの事?」
「今日です。ひょっとしたら、今まさに会っているのかもしれません」
そう告げると、再び沈黙が蔓延った。フェトネックは鋭い目つきになり、何かに思いを巡らせている。そして自らその沈黙を破り捨て、控えていた魔族の男に命令を出す。
「アボン、この店にいる兵隊を全て集めなさい。気になることがあるから、そのザートレというフォルポス族を捕らえに行くわ」
アボンと呼ばれた男は返事をすると、速やかに奥の部屋に消えていった。そしてフェトネックは客たちに粗相を働いた事を詫びるとともに、今日の全ての会計を店で持つと申し出て、ご機嫌を取った。
「メカーヒー。聞いての通り、急な用ができたわ。あの品物についてはそれが片付いてから話しましょう」
「か、畏まりました」
そして改めてオレの上に居座るアーコを見て、フェトネックは言う。
「あなたの適性を見るのも少し後回しにさせてもらうわね。それともついてくる?」
「俺はあの女に簡単な支配魔法をかけられていますから…足手まといになると思います」
「そう。ならさっきの部屋で待っていてくれるかしら? すぐに戻ってくるから」
「分かりました」
そう言ってオレ達は踵を返して元の部屋へ戻って行く。
オレはアーコの下になっているせいで、アーコが全てが手中に収まった事で見せるしたり顔に気が付いてはいなかった。
「ノウレッジ様。な、何かお気に障りましたでしょうか?」
「私は護衛についたフォルポス族について聞いているの。次にくだらない前置きをしたら殺すわよ」
最も入り口に近い位置にいた客が辛うじて竦む足を動かして店から逃げ出して行った。それ以外の客や魔族は動けないまま、固唾をのんで事の成り行きを見守っている。
メカーヒーは上手く息ができていないかのような息づかいで返事をした。
「ブ、ブリーオブの町から品を運ぶ際に、雇った男です。名は、ザートレと言いました。未だ、見た事がない程に、腕の立つ男でしたが、セムヘノについて任務が、終わり別れたのです。まだこの街にいる、可能性はありますが、所在は、わかりません」
「そいつの得物は?」
「け、剣です。それと炎の魔法も扱うのを一度見ました」
「炎の魔法…腕が立つというのはどの程度?」
「申した通り、私の知る中では最高と言っても過言ではなく…道中でドリックスを一撃で倒したばかりか、スピリッタメーバなる怪物をも討ったのです」
「…」
フェトネックは沸いた湯が冷めるように、徐々に落ち着き、殺気を散らしていった。それを見て、店内の全員が一先ずの嵐が過ぎ去ったと安堵の表情を浮かべた。
オレはテレパシーでアーコに一体何を考えているのかを問いただそうとした。だが、それよりも早く、アーコは次の一手を投じてしまった。
「ザートレって事はやっぱり…」
などと意味深な事を言い、周囲の者の関心を引く。案の定フェトネックは食い付いてきた。
「何か知っているの? そもそも何故、そのフォルポス族の名を気にするのかしら?」
「俺を捕らえたフォルポス族の女、名前をスカーレットと言うのですが…セムヘノには待ち合わせの為にやってきてたんです」
「待ち合わせ?」
「はい。それがザートレという男のフォルポスと会うと言っていまして…その、申し上げにくくて」
はぐらかすようわざと言葉に詰まり、聞いている者に気を持たせる。
「構わないから知っている事を教えなさい」
「…その、ザートレという男は魔王と戦ったことがある。だから情報を聞くだとか仲間に入れてもらうだとか零していました」
ふうっと、フェトネックの息づかいが静まり返った店の中に響いた。
そしてアーコはトドメを刺しにかかる。
「スカーレットとザートレは、この町の『チャジャー』という宿屋で会う手筈だったみたいです」
「それはいつの事?」
「今日です。ひょっとしたら、今まさに会っているのかもしれません」
そう告げると、再び沈黙が蔓延った。フェトネックは鋭い目つきになり、何かに思いを巡らせている。そして自らその沈黙を破り捨て、控えていた魔族の男に命令を出す。
「アボン、この店にいる兵隊を全て集めなさい。気になることがあるから、そのザートレというフォルポス族を捕らえに行くわ」
アボンと呼ばれた男は返事をすると、速やかに奥の部屋に消えていった。そしてフェトネックは客たちに粗相を働いた事を詫びるとともに、今日の全ての会計を店で持つと申し出て、ご機嫌を取った。
「メカーヒー。聞いての通り、急な用ができたわ。あの品物についてはそれが片付いてから話しましょう」
「か、畏まりました」
そして改めてオレの上に居座るアーコを見て、フェトネックは言う。
「あなたの適性を見るのも少し後回しにさせてもらうわね。それともついてくる?」
「俺はあの女に簡単な支配魔法をかけられていますから…足手まといになると思います」
「そう。ならさっきの部屋で待っていてくれるかしら? すぐに戻ってくるから」
「分かりました」
そう言ってオレ達は踵を返して元の部屋へ戻って行く。
オレはアーコの下になっているせいで、アーコが全てが手中に収まった事で見せるしたり顔に気が付いてはいなかった。
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