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Episode2
逸る勇者
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「魔王」という言葉に、俺達の心はいとも簡単にざわついた。
俺の動揺はアーコに伝わったし、アーコの狼狽はオレに伝わってきた。
どうするべきだ。詳しく問いただすか? だが下手に深入りしてしまうのは怪しまれる…。けれども、魔族であれば魔王の事情に興味を示すのは当然だし、アーコの質問に答えるために魔王を引き合いに出したのであれば、聞き返さない方が不自然だろうか。
思考の粒が頭の中を跳ねまわるのが分かる。
しかし、当のアーコは上手い具合に平静を装って、かつ本当に一介の無知な魔族の表情で問い返した。コイツはオレの想像以上に役者だと思った。
「魔王様のお考えって、どういう意味ですか?」
「あら、口を滑らしてしまったわ。今のは忘れて頂戴」
「そう言われてしまったら、余計に気になりますよ」
「ふふふ。まあ、そうでしょうね」
ノウレッジは、そこで一度足を組み直した。
「言葉の通り、『囲む大地の者』に魔族を使役させるように仕向けているのは魔王様なの。何故か、までは言えないけどね…けど、」
「けど?」
「私達魔族の為にやってることなのよ。魔王様は私達の事を慮ってくれている、それだけは私が保証する。今は多くの魔族にとって辛い時代になっているかも知れないけれど、必ず報われる時が来るから」
反吐が出るほどの自愛に満ち満ちた顔で、ノウレッジは言った。
オレは更に考えなければならない謎が増えて頭痛が起こりそうになる。
「あと、もう一つ聞いても良いですか?」
「ええ。どうぞ」
「俺にこの店教えてくれた魔族が、何年か前に魔王と戦った勇者との戦いの事を知ってる奴がいるって言ってたんだけど、それはノウレッジさんの事ですか?」
「…興味があるの?」
「興味って言うか…その勇者ってフォルポス族なんですよね? 俺を捕まえた奴もフォルポス族で凄い自慢げにしていたし、同じフォルポス族として仇を討つみたいなことを言っていたんで、つい」
よくもまあ、こんなポンポンと口から出まかせを言えるものだ、とオレは傍で感心してしまった。
「フォルポス族らしい考え方ねえ。きっと堅物で道理を曲げられない奴なんじゃないかしら?」
「その通りの女でしたね」
アーコの弁がオレの事を言っているのか、ルージュの事を言っているのかは知れない。それに笑ったノウレッジは昔の思い出話を噛みしめて語る老兵のような目で遠くを見ながら話を始めた。
「その勇者と魔王様の戦いの事を広めたのは、確かに私よ。勇者がフォルポス族だったって言うのも本当。少し感情的で突っ走ることもあったけど、強くて頼もしくて戦闘のセンスは飛びぬけてすごい人だった」
「…」
「こんな事を言ったら、魔王様や他の側近に笑われるかも知れないけれど、私は今でもあの人を殺してしまうのは間違いだったんじゃないかって思うくらいに強い戦士だった」
「何だか見ていたように言いますね」
その言葉にオレはまた耳が動く。これはアーコの釣り針だ。オレの為に何かの確証を掴もうとしてくれている。
「まあ、実際に見てきたからね。彼の事も、戦いの様も」
ノウレッジは食い付いた。
どういう心持なのかは不明だが、容易く情報を吐き出してくれる。少し欲張って見てもいいのではないか…?
アーコは更に追い込みをかけてくれる。だが、その時邪魔が入った。オレ達のいる部屋の戸が乱暴に開かれて、男の魔族が慌てた様子で入ってきたのだ。
「ノウレッジ様。ちょっと…トラブルが」
それだけで何かを悟ったノウレッジは、オレ達に少し待っていてほしいと告げて部屋を出て行った。
ここから、というタイミングで横槍が入ってしまいやきもきとした気分になったが、同時に冷静さを取り戻せる時間ができたと考えれば、寧ろありがたい気がしてきた。
俺の動揺はアーコに伝わったし、アーコの狼狽はオレに伝わってきた。
どうするべきだ。詳しく問いただすか? だが下手に深入りしてしまうのは怪しまれる…。けれども、魔族であれば魔王の事情に興味を示すのは当然だし、アーコの質問に答えるために魔王を引き合いに出したのであれば、聞き返さない方が不自然だろうか。
思考の粒が頭の中を跳ねまわるのが分かる。
しかし、当のアーコは上手い具合に平静を装って、かつ本当に一介の無知な魔族の表情で問い返した。コイツはオレの想像以上に役者だと思った。
「魔王様のお考えって、どういう意味ですか?」
「あら、口を滑らしてしまったわ。今のは忘れて頂戴」
「そう言われてしまったら、余計に気になりますよ」
「ふふふ。まあ、そうでしょうね」
ノウレッジは、そこで一度足を組み直した。
「言葉の通り、『囲む大地の者』に魔族を使役させるように仕向けているのは魔王様なの。何故か、までは言えないけどね…けど、」
「けど?」
「私達魔族の為にやってることなのよ。魔王様は私達の事を慮ってくれている、それだけは私が保証する。今は多くの魔族にとって辛い時代になっているかも知れないけれど、必ず報われる時が来るから」
反吐が出るほどの自愛に満ち満ちた顔で、ノウレッジは言った。
オレは更に考えなければならない謎が増えて頭痛が起こりそうになる。
「あと、もう一つ聞いても良いですか?」
「ええ。どうぞ」
「俺にこの店教えてくれた魔族が、何年か前に魔王と戦った勇者との戦いの事を知ってる奴がいるって言ってたんだけど、それはノウレッジさんの事ですか?」
「…興味があるの?」
「興味って言うか…その勇者ってフォルポス族なんですよね? 俺を捕まえた奴もフォルポス族で凄い自慢げにしていたし、同じフォルポス族として仇を討つみたいなことを言っていたんで、つい」
よくもまあ、こんなポンポンと口から出まかせを言えるものだ、とオレは傍で感心してしまった。
「フォルポス族らしい考え方ねえ。きっと堅物で道理を曲げられない奴なんじゃないかしら?」
「その通りの女でしたね」
アーコの弁がオレの事を言っているのか、ルージュの事を言っているのかは知れない。それに笑ったノウレッジは昔の思い出話を噛みしめて語る老兵のような目で遠くを見ながら話を始めた。
「その勇者と魔王様の戦いの事を広めたのは、確かに私よ。勇者がフォルポス族だったって言うのも本当。少し感情的で突っ走ることもあったけど、強くて頼もしくて戦闘のセンスは飛びぬけてすごい人だった」
「…」
「こんな事を言ったら、魔王様や他の側近に笑われるかも知れないけれど、私は今でもあの人を殺してしまうのは間違いだったんじゃないかって思うくらいに強い戦士だった」
「何だか見ていたように言いますね」
その言葉にオレはまた耳が動く。これはアーコの釣り針だ。オレの為に何かの確証を掴もうとしてくれている。
「まあ、実際に見てきたからね。彼の事も、戦いの様も」
ノウレッジは食い付いた。
どういう心持なのかは不明だが、容易く情報を吐き出してくれる。少し欲張って見てもいいのではないか…?
アーコは更に追い込みをかけてくれる。だが、その時邪魔が入った。オレ達のいる部屋の戸が乱暴に開かれて、男の魔族が慌てた様子で入ってきたのだ。
「ノウレッジ様。ちょっと…トラブルが」
それだけで何かを悟ったノウレッジは、オレ達に少し待っていてほしいと告げて部屋を出て行った。
ここから、というタイミングで横槍が入ってしまいやきもきとした気分になったが、同時に冷静さを取り戻せる時間ができたと考えれば、寧ろありがたい気がしてきた。
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