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Episode2
聴く勇者
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(落ち着け、アホ。大局を見失ってどうすんだ)
アーコのテレパシーが頭の中に突き刺さると、寸でのところで取り乱さずに済んだ。オレは感謝の言葉を伝えて、これ以上の下手を打たないようにアーコに舵取りを任せることにする。
「…アンタは?」
「私はノウレッジ。この店のオーナーを任せているの。よろしくね」
「魔族を助けてくれるって聞いてきたんだ。俺達も助けてくれますか?」
「ええ、もちろんよ。奥で詳しく話を聞かせてもらえるかしら」
そう導かれるままに、オレ達は店の奥へと進んで行った。
ノウレッジは終始、作り物の笑顔を崩すことはなかった。冷静に観察し直すと、この女が本当にフェトネックなのかどうか、自信が無くなってくる。何らかの魔法で魔族に姿を変え、偽名を名乗っていると仮定しても、オレのよく知る臆病で奥手で身持ちの固い性格のフェトネックがこれほど煽情的なオーラを放つのが信じられない。
やがて小さな個室に通されると、お付きの男がオレとアーコを繋ぐ鎖を外してくれた。
優雅に椅子に腰かけたノウレッジはアーコにもソファに座るように促してきたが、それを断りオレの背中の上に居座り続けた。いざという時にオレの手綱を握ろうと考えているのだろう。前科のあるオレは、大人しくそれに従う事にした。
「それで、あなたのお名前は?」
「トリック。こっちの狼はズィアルって言うんだ」
「…そもそも、何で狼と一緒なの?」
ここに来るまで触れられていなかったから、てっきり受け入れられていたと思ったが、やはりそこは気になるらしい。
「俺を捕まえた奴が、ズィアルを先に連れ歩いてたんだ。こいつも酷い扱いを受けてたから一緒に逃げてきた」
「そう…可哀相に。辛かったでしょうね」
「本当に酷い女だった。剣で脅すわ、檻に閉じ込めるわ、殺さないだけ有難いと思えみたいな目つきで見てくるわ…」
などと、アーコの愚痴はどんどんエスカレートしていった。どさくさに紛れて言いたい放題だな。とは言え、本当の事を言っているからオレが聞いていてもリアリティがある。
やがて怒涛の文句が終わると、ノウレッジはおっとりとした笑顔をもってアーコを慰めてきた。
「大変だったのね。けど、もう平気よ、安心して」
「…助けてくれるのは嬉しいですけど、具体的には俺達はこの後どうするんですか?」
「そうね、大きく分けて二つあるわ」
「二つ?」
「ええ。一つは今見てもらったように、この店で『囲む大地の者エンカニアン』に奉仕して引き取ってもらう。ここの店の客は私たちが審査した上での会員制にしているから、信用してもらっていいわ」
「ならもう一つは?」
「その前に聞きたいのだけれど、あなた戦うのは得意?」
その質問に、オレの耳がピクリと動いた。
「どういう事ですか?」
「変な意味はないの。言葉通り武器が使えるとか、戦闘向きの魔法や能力がある?」
「い、一応は」
「ならそれを試さしてもらうけど、合格に値する力だったら魔族を使役することに理解のあるパーティやギルドに直接紹介することもできるわ。ここに残っている子はそういう技能がないから、仕方なくああしているのよ」
「けど、痩せても枯れても魔族だろ。そりゃ鍛えられた冒険者には勝てない奴もいるかもだけど…って言うかそれだけの魔族を集められるなら、『囲む大地の者』を相手に戦えばいいんじゃ?」
そう、オレもそれが最も気になっていた。
オレの生きていた時代にも、『囲む大地エンカーズ』に魔族はある程度存在していた。だが時代が下り、あれから繁殖したとしたって数があまりにも多すぎる。アーコの言う通り、魔族同士が結託してしまえば魔族特有のポテンシャルも相まって、相当な脅威になることは確実だ。
じっとノウレッジの返事を待つ。
すると、予想外の単語が飛び出して来た。
「まあ、それは魔王様のお考えだからね」
アーコのテレパシーが頭の中に突き刺さると、寸でのところで取り乱さずに済んだ。オレは感謝の言葉を伝えて、これ以上の下手を打たないようにアーコに舵取りを任せることにする。
「…アンタは?」
「私はノウレッジ。この店のオーナーを任せているの。よろしくね」
「魔族を助けてくれるって聞いてきたんだ。俺達も助けてくれますか?」
「ええ、もちろんよ。奥で詳しく話を聞かせてもらえるかしら」
そう導かれるままに、オレ達は店の奥へと進んで行った。
ノウレッジは終始、作り物の笑顔を崩すことはなかった。冷静に観察し直すと、この女が本当にフェトネックなのかどうか、自信が無くなってくる。何らかの魔法で魔族に姿を変え、偽名を名乗っていると仮定しても、オレのよく知る臆病で奥手で身持ちの固い性格のフェトネックがこれほど煽情的なオーラを放つのが信じられない。
やがて小さな個室に通されると、お付きの男がオレとアーコを繋ぐ鎖を外してくれた。
優雅に椅子に腰かけたノウレッジはアーコにもソファに座るように促してきたが、それを断りオレの背中の上に居座り続けた。いざという時にオレの手綱を握ろうと考えているのだろう。前科のあるオレは、大人しくそれに従う事にした。
「それで、あなたのお名前は?」
「トリック。こっちの狼はズィアルって言うんだ」
「…そもそも、何で狼と一緒なの?」
ここに来るまで触れられていなかったから、てっきり受け入れられていたと思ったが、やはりそこは気になるらしい。
「俺を捕まえた奴が、ズィアルを先に連れ歩いてたんだ。こいつも酷い扱いを受けてたから一緒に逃げてきた」
「そう…可哀相に。辛かったでしょうね」
「本当に酷い女だった。剣で脅すわ、檻に閉じ込めるわ、殺さないだけ有難いと思えみたいな目つきで見てくるわ…」
などと、アーコの愚痴はどんどんエスカレートしていった。どさくさに紛れて言いたい放題だな。とは言え、本当の事を言っているからオレが聞いていてもリアリティがある。
やがて怒涛の文句が終わると、ノウレッジはおっとりとした笑顔をもってアーコを慰めてきた。
「大変だったのね。けど、もう平気よ、安心して」
「…助けてくれるのは嬉しいですけど、具体的には俺達はこの後どうするんですか?」
「そうね、大きく分けて二つあるわ」
「二つ?」
「ええ。一つは今見てもらったように、この店で『囲む大地の者エンカニアン』に奉仕して引き取ってもらう。ここの店の客は私たちが審査した上での会員制にしているから、信用してもらっていいわ」
「ならもう一つは?」
「その前に聞きたいのだけれど、あなた戦うのは得意?」
その質問に、オレの耳がピクリと動いた。
「どういう事ですか?」
「変な意味はないの。言葉通り武器が使えるとか、戦闘向きの魔法や能力がある?」
「い、一応は」
「ならそれを試さしてもらうけど、合格に値する力だったら魔族を使役することに理解のあるパーティやギルドに直接紹介することもできるわ。ここに残っている子はそういう技能がないから、仕方なくああしているのよ」
「けど、痩せても枯れても魔族だろ。そりゃ鍛えられた冒険者には勝てない奴もいるかもだけど…って言うかそれだけの魔族を集められるなら、『囲む大地の者』を相手に戦えばいいんじゃ?」
そう、オレもそれが最も気になっていた。
オレの生きていた時代にも、『囲む大地エンカーズ』に魔族はある程度存在していた。だが時代が下り、あれから繁殖したとしたって数があまりにも多すぎる。アーコの言う通り、魔族同士が結託してしまえば魔族特有のポテンシャルも相まって、相当な脅威になることは確実だ。
じっとノウレッジの返事を待つ。
すると、予想外の単語が飛び出して来た。
「まあ、それは魔王様のお考えだからね」
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