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Episode2
緩む勇者
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「…すまん、調子に乗った」
店を出たルージュは開口一番に謝罪を入れてきた。とは言えども、オレもアーコも何も気にしていないので問題はない。だからそれをそのまま素直に伝えた。
「いいさ。面白かったから」
「あーあ俺も手懐けられちまうのかぁ」
「いやいや、お前はどうやったって無理だろう」
妙なセールスは受けたが、予定通りルージュとアーコの隠れ蓑は手に入れた。
ルージュのあの態度も印象を植え付けるという意味では、寧ろファインプレーだったかも知れない。それに、登録印の事を色々と聞けたのは嬉しい収穫でもあった。『煮えたぎる歌』は魔族を使役することに否定的なギルドだから登録印も最も簡素なモノしか用意されてなかったからな。
次にオレ達は今の拠点とは別の宿屋を確保しに向かった。ルージュは街の反対側の宿屋を取ろうと提案してきたが、オレは今の宿の目と鼻の先の宿屋を取ることにした。
そう考えた理由は色々とある。灯台下暗しという言葉もあるし、万が一にカルトーシュの関係者らが探りを入れてきたとしたら、ごく自然に観察ができるのも利点だ。あと、そうなったら面白そうだという理由もあったのだが、それを口にするのは止めておいた。また困ったようにため息を漏らされるだけだろうから。尤も、オレの思考はこの二人には筒抜けなのだから余計な気遣いかも知れない。
結局は今いる部屋から見渡せる、斜め三軒先の宿屋を取った。幸いにも老々たるフォルポス族の営む宿屋で狼のオレについての文句が飛んでくることはなかった。
◇
やがて夜になる。
街の酒屋や食い物を売る露店が賑わいを見せ始めたのを確認すると、オレ達はいよいよ本格的に動き始めた。大量に酒を注文し寝入った主人を後に残し、先行してオレとアーコがこっそりと逃げ出したように見せかけて宿屋を抜ける。しばらく後にルージュがラスキャブ達と合流してカルトーシュ付近に待機する計画だ。一度冷静に立ち返ってみると。正直ここまでやる必要があるのかどうか疑問であったが、なんだかやっているうちに凝り始めてしまったのだから仕方がない。
するとアーコが酒を頼んだなら肴もないと怪しまれるに違いないと言い、近くの飯屋から肉や魚を届けさせて半ば豪遊状態になった。メカーヒーから渡された報酬がかなりいいのでどうにも金銭感覚が狂っている。加えて狼の時のオレは本能的というか刹那主義な性格になってしまうので殊更財布の紐が緩んでいた。
いくらなんでも騒がしくするのはまずいと、そこは自制が働いた。
散々に飲み食いをし終わり、腹も膨れるとオレはアーコを背負い外に出る支度を済ませた。こういう時、狼の姿は良い。何も持たずに済むからな。
「それじゃラスキャブ達の事を頼むぞ、ルージュ」
「ああ、くれぐれも気をつけてくれ。何かあればすぐに合図を頼む」
ルージュがレプリカとして出してくれた剣は、そのような連絡用のツールにもなっている。本当に汎用性が高い奴だ。そう言えば狼の姿になっている時に剣や鎧の類は消えているが、どうなってるんだ? まあ、魔法を理屈で捉えるだけ阿呆というものか。
「アーコ。主の事を頼むぞ、本当に」
「おうよ。大船に乗ったつもりで待ってろよ」
「実際、偵察と情報収集が目的だ。荒事にはならんさ」
ルージュは、「そうだといいのだがな」という言葉を飲み込んだような顔になっていた。
そんなルージュに見送られ、オレ達は窓から外へ出てカルトーシュを目指し裏通りに消えていった。
店を出たルージュは開口一番に謝罪を入れてきた。とは言えども、オレもアーコも何も気にしていないので問題はない。だからそれをそのまま素直に伝えた。
「いいさ。面白かったから」
「あーあ俺も手懐けられちまうのかぁ」
「いやいや、お前はどうやったって無理だろう」
妙なセールスは受けたが、予定通りルージュとアーコの隠れ蓑は手に入れた。
ルージュのあの態度も印象を植え付けるという意味では、寧ろファインプレーだったかも知れない。それに、登録印の事を色々と聞けたのは嬉しい収穫でもあった。『煮えたぎる歌』は魔族を使役することに否定的なギルドだから登録印も最も簡素なモノしか用意されてなかったからな。
次にオレ達は今の拠点とは別の宿屋を確保しに向かった。ルージュは街の反対側の宿屋を取ろうと提案してきたが、オレは今の宿の目と鼻の先の宿屋を取ることにした。
そう考えた理由は色々とある。灯台下暗しという言葉もあるし、万が一にカルトーシュの関係者らが探りを入れてきたとしたら、ごく自然に観察ができるのも利点だ。あと、そうなったら面白そうだという理由もあったのだが、それを口にするのは止めておいた。また困ったようにため息を漏らされるだけだろうから。尤も、オレの思考はこの二人には筒抜けなのだから余計な気遣いかも知れない。
結局は今いる部屋から見渡せる、斜め三軒先の宿屋を取った。幸いにも老々たるフォルポス族の営む宿屋で狼のオレについての文句が飛んでくることはなかった。
◇
やがて夜になる。
街の酒屋や食い物を売る露店が賑わいを見せ始めたのを確認すると、オレ達はいよいよ本格的に動き始めた。大量に酒を注文し寝入った主人を後に残し、先行してオレとアーコがこっそりと逃げ出したように見せかけて宿屋を抜ける。しばらく後にルージュがラスキャブ達と合流してカルトーシュ付近に待機する計画だ。一度冷静に立ち返ってみると。正直ここまでやる必要があるのかどうか疑問であったが、なんだかやっているうちに凝り始めてしまったのだから仕方がない。
するとアーコが酒を頼んだなら肴もないと怪しまれるに違いないと言い、近くの飯屋から肉や魚を届けさせて半ば豪遊状態になった。メカーヒーから渡された報酬がかなりいいのでどうにも金銭感覚が狂っている。加えて狼の時のオレは本能的というか刹那主義な性格になってしまうので殊更財布の紐が緩んでいた。
いくらなんでも騒がしくするのはまずいと、そこは自制が働いた。
散々に飲み食いをし終わり、腹も膨れるとオレはアーコを背負い外に出る支度を済ませた。こういう時、狼の姿は良い。何も持たずに済むからな。
「それじゃラスキャブ達の事を頼むぞ、ルージュ」
「ああ、くれぐれも気をつけてくれ。何かあればすぐに合図を頼む」
ルージュがレプリカとして出してくれた剣は、そのような連絡用のツールにもなっている。本当に汎用性が高い奴だ。そう言えば狼の姿になっている時に剣や鎧の類は消えているが、どうなってるんだ? まあ、魔法を理屈で捉えるだけ阿呆というものか。
「アーコ。主の事を頼むぞ、本当に」
「おうよ。大船に乗ったつもりで待ってろよ」
「実際、偵察と情報収集が目的だ。荒事にはならんさ」
ルージュは、「そうだといいのだがな」という言葉を飲み込んだような顔になっていた。
そんなルージュに見送られ、オレ達は窓から外へ出てカルトーシュを目指し裏通りに消えていった。
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