魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode2

変ずる剣

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 ノウレッジという女の反応を鑑みるに、やはり魔族だけで出歩くというのは中々に異質なものらしい。注してみてみれば、確かにどの魔族の傍らにも『囲む大地の者』がおり、単独で動いている魔族は漏れなく荷を運んだり、何かを配っていたりと仕事を宛がわれていた。



 私は人目がない事を確認すると、いつか主に見せた時のようにフォルポス族の女へと変じた。主の為にも余計なトラブルはなるたけ回避すべきだと判断したからだ。だが、思えばこの術は主の前でしか使ったことがなかったから、二人には大層驚かれてしまった。



「時にラスキャブ」



「な、何でしょうか」



「こうして姿を変えた私を見ても、名前は分かるのか?」



「え? あ、はい。ルージュさんと名前が出てきます」



 ふむ。やはり私の仮説通り変身術を使っていたとしてもそれを見破れるらしい。魔法で姿を変えても能力は適応されるところをみると、物理的な変装であったとしても効果があるだろう。



 ならば次は・・・。



「ピオンスコ、そのミラーコートを発動させてみろ」



「え? なんで?」



「ラスキャブの能力の検証だ。名前が分かる条件を確認しておきたい。全身を覆って動かずにいてみろ」



「わかった」



 ピオンスコがミラーコートへと魔力を込めると、すぐにコートの色彩が風景と同化していく。動けば違和感を持つが、じっとその場に留まっているとカモフラージュの精度も上がる。透明になったと言っても差し支えない程にピオンスコが路地裏の景色に溶け込んでしまった。



「どうだ、ラスキャブ。このままでピオンスコの名前は分かるか?」



「・・・あ、ダメです。ピオンスコの名前が消えちゃいました」



「そうか」



 やはりラスキャブ自身が認識できないモノは能力の適用外になるのだな。私がそう結論付けようとした時、ラスキャブが「ただ・・・」と意味あり気に言葉を続けた。



「ただ、どうした?」



「ただ・・・ミラーコートって名前は出てきます」



「ほう?」



 これは面白い発見だった。つまりは「見る」という行動が伴えば、それが意識下にないとしても名前を判断する能力は有効という事。主にこれを伝えて、ミラーコート以外にも姿を暗ませたり、隠したりするツールの名を覚えさせておけばラスキャブ本人の驚異的な防御力と相まって奇襲潰しに大いに期待が持てる。



 折角だ。もう少し確認しておこう。



「ピオンスコ、なるべく顔を隠したまま手足や身体を外に見せられるか?」



「こう?」



「そうだ。できるだけゆっくりと出してみてくれ」



「難しいなぁ」



 面妖な光景だが、ラスキャブは至って真剣にピオンスコの姿を見ていた。



「あ、今くらいになってピオンスコだって分かりました」



「なるほど。身体の半分程度が見えれば全容が掴めなくとも能力が効くのだな。ならば次は・・・」



「え~まだやるの?」



「次で最後だ、我慢しろ。今の状態とは真逆に身体を隠して顔だけを見せてみろ」



 もぞもぞと景色が動くと、手足が引っ込んでピオンスコの顔だけが空中に現れた。



「こんな感じ?」



「これはすぐにピオンスコだって分かります」



「・・・そうか」



 という事は相手の顔、もしくは身体の半分以上を何にも覆われていない状態で目視できれば、ラスキャブは相手の名を理解できるとみてよさそうだな。



「もういいの? ルージュさん」



「ああ、助かった。どれ、主が宿に戻ってくるまでまた散策をするか?」



「うん!」



 それから一気に明るさを取り戻した二人の動向を監督しながら、セムヘノの町を歩いて回った。いつかの町で服屋に入って着せ替え人形にされた時もそうだったが、私はどうにもこういった時間の過ごし方が分からない。何かと戦っている時間の方が、余程気持ちの置き所が分かって良い。



 しかし、楽しくないと言えばそれは嘘になる。



 ピオンスコ達も『囲む大地』の街を回るなどは経験がないだろうに、それでも臆さないのは楽しみ方を知っているからだろう。



 主に報告したい事が山ほどあるから早く時間が過ぎてほしかったが、いざ日暮れが近づくともう少しだけ街を見て周りたいと感じている自分がいることに驚きながら、私達は宿へと戻って行った。
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