魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode2

怯む剣

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 ◆



 翌日。



 主と私が泊まっていた部屋にラスキャブ達を呼び、朝食を取り始めた。主の気遣いが通じたのか、二人の顔からは疲れの色が取れいつにも増して溌剌としてる。きっとよく眠れたのだろう・・・という事は私が夜通し部屋を監視していた事にはきっと気が付いていない。主は二人を信用して部屋を宛がっていたし、私も数日前よりは二人を信用している。だが万が一という事もある。特にピオンスコは私の精神感応が効かないので、まだ完全に心を許す訳にはいかない。



 すると思い出したように主が声を出した。



「そう言えば、アーコはまだ戻ってきてないのか?」



「ああ、すまない。伝え忘れていた。奴は昨日の夜に一度だけ戻ってきた」



「それで?」



「逃げ出したわけではないという証明の為に戻ってきただけだ。またすぐに出ていった。少し話した限りでは、調べ物をしているらしい」



「調べ物・・・?」



「ああ。詳しくは語らなかった。まあ、奴の事だから良からぬことを調べているのだろう」



 相も変わらぬ速さで主は朝食を食べ終わる。すると、それを見ていたピオンスコが行儀悪く口をもごもごと動かしながら、主に聞いた。



「ねえねえ、今日はこれからどうするんだ?」



 始めの方は慎んだ口に利き方をしていたのに、喋れば喋るほど馴れ馴れしくなってくる。何度か注意したが、ピオンスコの性分にあっていないようだし、主も気にしなくていいと直接言ってきたので、もう目をつぶることにした。



「オレはこれから『煮えたぎる歌』のギルドの支部に顔を出す。先にも行ったが魔族連れだとトラブルになりかねんから、オレ一人で行ってくる」



「じゃあアタシ達は?」



「そこそこの長さの道のりだったし、規格外の魔獣退治もやったんだ。今日くらいはゆっくりしていていい」



 すると、主は「あ」と声を出して机の上に置いていた財布から少しばかりの金子を取り出した。



「今日は部屋にいようが観光しようが自由だ、任せるよ。もし出掛けるならこれで好きな物でも買うといい」



「い、いいんですか?」



「勿論だ。ただし、行動する時は三人一緒でな。昨日見た限りじゃ、セムヘノも魔族を寛容に受け入れている町らしいが、住民が全員そうだという保証はない。ルージュ、すまんが留守を頼む」



 腹ごなしの小休止を入れた後、主はいよいよ出掛けると言い出したので、私は自分の分身たる剣のレプリカを作ると、それを渡した。



「本来であれば私が剣に戻りついていくところだが、主の留守を預かるという命もある。これで許してくれ」



「ああ。有難く借りていくよ」



 そして三人で主を見送る。



 私としては出掛けようが、部屋に留まろうがどちらでも良かったので、決定権を二人に渡す。すると迷うことなく出掛けることが決まった。



 ラスキャブとピオンスコは出掛ける支度をすると言って嬉々としながら自室に戻っていった。ふとした合間に訪れた静寂に、私はそう言えば主と会ってから初めて一人になったと自覚した。



 あの城の奈落の底で無限とも思える時間を独りで過ごしてきたと言うのに、今更一人きりになったことを意識すると何とも妙な心持になる。たった数日の時間だが主と出会ってからの日々は、奈落での無限を容易く打ち消すほどに賑やかしいものだ。



 新しい我が主はあれでどうして中々に気難しい性分をしている。言葉にすらできない程の怒りと執念で私の心を奪ったかと思えば、取るに足らない様なことで頭を悩ませている。快刀乱麻な処断で私たちを導いてくれるかと見れば、糸よりも細い絆に情を感じては蹴躓く。



 慕ってくる者は庇護し、裏切ったり、刃を向ける者であれば切り捨てれば良いものを・・・。



 そう単純に考えてしまうのは、私には本当の血肉がないからだろう。所詮、剣である私は斬れるか斬れないかでしか判断をくだせないのだ。



 しかし、剣の立場から言わせれば柄を握りしめる時の感触が変わるのは心地よくもある。悩まず、躊躇わずに振るわれるのであれば、私は傀儡に握られているのと何ら変わらなくなるのだから。



 持ち主の心の変化を考えるなど、かつての私にはあり得ない事だ。



 そんな今まででは到底思わない事を考えたせいか、私は今までの自分が到底やらなかったであろうことを殆ど無意識にしていた。



 気が付けば鏡の前に立ち、髪を掻き上げては主に与えられた耳飾りをする自分の姿を眺めていたのだった。
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