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Episode2
安堵する勇者
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オレ達はセムヘノの西側にある適当な宿屋を見つけると二部屋を取る。片方はオレとルージュが使い、もう片方をラスキャブとピオンスコに宛がった。
金に余裕はあったし、ラスキャブ達もオレやルージュと同じ部屋ではまだ緊張が残るだろうと思ったからだ。これは今更逃げ出すとは思っていないという信頼の表れでもある。それにオレ自身がルージュと二人になりたかったという理由もある。何というか、もう一度原点回帰したいような気分になっていたのだ。
アーコはオレ達の泊まる部屋を確認すると、先に言った通りに別行動に出た。何をするか、どこに行くのかも答えなかったことから察するに、多分悪だくみだろう。
「あまり大事を起こすなよ」
と、釘を刺すと、アーコはしたり顔を向けてくるだけだった。
◇
部屋に入る前に、ラスキャブとピオンスコに30分程度経ったら夕食に行く旨を伝えておいた。オレはゆっくりと腰を落ち着ける気にはなれず、荷を下ろすとルージュを連れて少し外の空気を吸いに行った。
その宿屋には二階にバルコニーがあった。宿屋自体がセムヘノの中は比較的高地に建っているため、中々の展望だった。すでに日は落ちているので海は見えなかったが、代わりに家々や店の窓から灯りが漏れ、これはこれで味わいのある景観となっていた。
幸いにも他の宿泊客は一人もいなかったので、オレはルージュに言った。
「悪いが、一度剣に戻ってくれるか?」
「ん? ああ、わかった」
さしたる疑問も抱くことはなく、ルージュは素直に一振りの剣に戻りオレの掌に収まった。それをわざわざ一度鞘に納めると、オレはバルコニーを端から端まで、歩いて一往復した。何か物思いに耽っている雰囲気だけを出し、その実何も考えてはいない。何をしたいのか、自分でもよく分かっていないのだ。
ニドル峠で抱いた感情と感覚がどうにも引っかかっていて、もやもやしている。
オレは立ち止まり、一回だけ深呼吸をすると仮想敵を目の前に思い描き、一人稽古として剣を振るい始めた。闘う相手の様相はオレと瓜二つ。始めはお互いにスローモーションで、徐々にスピードが増していく。やがて本域の速さで最後の一撃を振り下ろすと、オレは隠れて見ていた二人に言う。
「出てきていいぞ。というか、何故隠れている?」
それを聞いたラスキャブとピオンスコは、ぴょこりとバルコニーの出入り口から顔を覗かせる。
「いや、何か凄い剣幕だったから邪魔しちゃ悪いかなって」
「そうか? 昔から剣を振りながら考え事をしてたから、癖になってるんだ。何か急ぎの用があったりしたなら、声を掛けてくれていい」
「わ、わかりました」
オレはルージュから手を離す。人の形を取ったルージュはまじまじとオレの顔を見てきた。握って素振りをしながら、あれこれと考えを巡らせていたのだ。ルージュにはオレの悩みの正体も、これからどうしたいのかも筒抜けなのだろう。それがオレ自身気が付いているか、いないかに関わらず。
ルージュは何も言わず、ただ笑みを向けてきた。すると、すぐに踵を返してラスキャブ達の元へ歩み寄って行く。
その笑顔の意味はまるでわからなかった。
けれども、それは妙な安心感を与えてくれた。あり得ない事だが、オレはルージュの背中に在りし日の母親の面影を一瞬だけ見た気がした。ほんの一瞬だけ。
金に余裕はあったし、ラスキャブ達もオレやルージュと同じ部屋ではまだ緊張が残るだろうと思ったからだ。これは今更逃げ出すとは思っていないという信頼の表れでもある。それにオレ自身がルージュと二人になりたかったという理由もある。何というか、もう一度原点回帰したいような気分になっていたのだ。
アーコはオレ達の泊まる部屋を確認すると、先に言った通りに別行動に出た。何をするか、どこに行くのかも答えなかったことから察するに、多分悪だくみだろう。
「あまり大事を起こすなよ」
と、釘を刺すと、アーコはしたり顔を向けてくるだけだった。
◇
部屋に入る前に、ラスキャブとピオンスコに30分程度経ったら夕食に行く旨を伝えておいた。オレはゆっくりと腰を落ち着ける気にはなれず、荷を下ろすとルージュを連れて少し外の空気を吸いに行った。
その宿屋には二階にバルコニーがあった。宿屋自体がセムヘノの中は比較的高地に建っているため、中々の展望だった。すでに日は落ちているので海は見えなかったが、代わりに家々や店の窓から灯りが漏れ、これはこれで味わいのある景観となっていた。
幸いにも他の宿泊客は一人もいなかったので、オレはルージュに言った。
「悪いが、一度剣に戻ってくれるか?」
「ん? ああ、わかった」
さしたる疑問も抱くことはなく、ルージュは素直に一振りの剣に戻りオレの掌に収まった。それをわざわざ一度鞘に納めると、オレはバルコニーを端から端まで、歩いて一往復した。何か物思いに耽っている雰囲気だけを出し、その実何も考えてはいない。何をしたいのか、自分でもよく分かっていないのだ。
ニドル峠で抱いた感情と感覚がどうにも引っかかっていて、もやもやしている。
オレは立ち止まり、一回だけ深呼吸をすると仮想敵を目の前に思い描き、一人稽古として剣を振るい始めた。闘う相手の様相はオレと瓜二つ。始めはお互いにスローモーションで、徐々にスピードが増していく。やがて本域の速さで最後の一撃を振り下ろすと、オレは隠れて見ていた二人に言う。
「出てきていいぞ。というか、何故隠れている?」
それを聞いたラスキャブとピオンスコは、ぴょこりとバルコニーの出入り口から顔を覗かせる。
「いや、何か凄い剣幕だったから邪魔しちゃ悪いかなって」
「そうか? 昔から剣を振りながら考え事をしてたから、癖になってるんだ。何か急ぎの用があったりしたなら、声を掛けてくれていい」
「わ、わかりました」
オレはルージュから手を離す。人の形を取ったルージュはまじまじとオレの顔を見てきた。握って素振りをしながら、あれこれと考えを巡らせていたのだ。ルージュにはオレの悩みの正体も、これからどうしたいのかも筒抜けなのだろう。それがオレ自身気が付いているか、いないかに関わらず。
ルージュは何も言わず、ただ笑みを向けてきた。すると、すぐに踵を返してラスキャブ達の元へ歩み寄って行く。
その笑顔の意味はまるでわからなかった。
けれども、それは妙な安心感を与えてくれた。あり得ない事だが、オレはルージュの背中に在りし日の母親の面影を一瞬だけ見た気がした。ほんの一瞬だけ。
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