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Episode2

輔ける勇者

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 どよめく商人たちの横をすり抜けて商隊の前に躍り出ると、バズバ達がすでに応戦していた。レイダァ達の動きに不審な点はなく、出没する場所以外におかしいところは見受けられない。強いて言えば、かつて戦った時よりも数が少ないことくらいだろうか。しかしオレの常識は八十年前のもの。今の常識と符合しなかったとしても何ら不思議はない。



 地理的な条件は決してひどくはないので、バズバ達も善戦が叶っている。オレ達は最前線を彼らに任せて、対処できずにすり抜けてきたレイダァを相手取ることに決めた。



 今回のレイダァとの戦いで目標としたいのは、ピオンスコと連携だった。ピオンスコのナイフを扱う技術と隠し持っている毒は、奇襲や一撃必殺を要する相手に特に効果的だ。もっと言えば、オレの考える防衛線に求められる二つの要素を容易く実現できる可能性を秘めている。



 このような護衛や警護を目的とした戦いの場合、求められる事は大きく分けて二つある。



 一つは敵単体を相手にする時間を一秒でも短くすること。防衛戦というのは、大抵の場合は少人数で大勢を相手にしなければならないので、一人が相手をする数を増やす事は必須の条件になる。現にバズバ達はそれが叶わなかったので、すでに数体のレイダァを守るべき商隊に接近させてしまっている。オレ達がいなかったら任務失敗に終わっていたという訳だ。



 そしてもう一つは、戦った相手を完全に戦闘不能にするということ。そうしなければ、気を配るべき敵の絶対数が減らないので、ジリ貧の戦いを迫られることになる。逃げる相手を追う必要はないが、敵の攻撃できる機会を減らすのは護衛をする上で成功率を上げるのに貢献する。



 昨晩、念のためにレイダァの特徴を説明するのと同時に模擬戦をしていた事が功を奏する。オレが何かを言わずともラスキャブとピオンスコは、きちんと陣形を整えた。



 まず俺とラスキャブとが並列になってピオンスコの存在を隠す。その間にピオンスコはミラーコートを活用し、身体に迷彩を施した。別に姿が完全に消え失せる訳ではないが、一瞬、敵の目をごまかすことは出来る。そしてその一瞬こそが命取りとなるのだ。



「ラスキャブ、ピオンスコ。焦らなくていいからな」



「はい!」



 という返事と共にレイダァとの戦いが始まった。当面の目標は三体。アーコが控えているとはいえ、一体とて逃さずにここで仕留めるつもりで臨む。



 レイダァは、かつてどこぞのパーティから奪ったであろう剣を袈裟切りに振るってきた。ラスキャブは槍でソレを防ごうと動いたが、腕力に乏しい為、オレが補助的にそれを支える。二人で息を合わせ、受け止めた剣を上に弾き上げると、一瞬遅れてレイダァの首から鮮血が噴き出した。



 反応すらしていない事をみると、ミラーコートを着たピオンスコに気が付きもしていない。コートの迷彩が上手くレイダァの目を誤魔化せたのか、はたまたピオンスコの戦闘センスがいいのか。いずれにしてもピオンスコにアレを着せたのは正解だったようだ。



 絶命した剣のレイダァの亡骸を蹴り飛ばすと、上手い具合に後ろから追撃を加えようとする別のレイダァの足止めとなってくれた。



 ピオンスコが右に抜けるのを確認したので、オレはラスキャブを引っ張り左側から次の相手を定める。蹴り飛ばした死体を躱せたレイダァの一匹はオレ達二人の姿を見ると、奇声を上げて威嚇してきた。が、その直後に無惨に倒れ込んでしまった。想像以上にピオンスコの動きが鋭い。



 仕方がないので左に抜けた勢いをそのままに、オレとラスキャブは攻撃に転じる。すると残っていたレイダァが、先程オレ達がやったのと同じように仲間の死体を蹴り返してきたのだ。タイミングが完璧だったので、両方の武器の切っ先が死体の肉に突き刺さり、動きが制限されてしまった。



 しかも目敏いことに、最後のレイダァはピオンスコの存在にも気が付いていた。華奢な二本の腕を手早く掴むと、鋭い牙を覗かせた口を大きく開き、ピオンスコを噛み殺そうとする。



 けれども、レイダァの牙は届かない。



 持ち上げられたピオンスコ自身の股の下を潜り抜け、いかなる魔法効果も反故にする猛毒の尻尾がレイダァの腹に突き刺さったからだ。
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