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Episode2
整える勇者
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食事をすませたオレ達は、店を出ると装備を整えるために服屋を探した。整えると言っても、オレ達は護衛の仕事を引き受けた時に揃えており、買い物は主にピオンスコのモノを買い求めるつもりだ。
チラリとピオンスコに目をやると、安堵の色を浮かべてラスキャブと話している。
「また一緒いられるな、ラスキャブ」
「・・・ご、ごめんね。あなたの事を覚えていなくって」
「しょうがないさ、全部あの野郎の仕業なんだから。アタシ達をこんな目に遭わせて・・・絶対許さない」
ピオンスコはオレ達の知らない情報や毒という特殊能力など、多くのプラス要素を持っているが、オレが一番有難いと思っているのが魔王を怨んでいるという点だった。
パーティの目的は揃っているに越したことはない。
そうでなくとも二人の能力は替えが効かない貴重なモノばかり。オレ達と一緒にいる限り食事や安全はある程度保証されると打算的な目的であったとしても、道連れになってくれるのなら非常に助かる。
◇
「なあ、これからどこに行くの?」
ラスキャブの手を引きつつ、ピオンスコが無邪気な質問をしてくる。さっきまでの殺気が嘘のように消し去ってここまで人懐っこくなれるのは、単純に凄い素質だと思う。こういう性格のやつは、大抵どのパーティにおいても精神面の要になってくれる。だがルージュは少々不服そうに、注意を促した。
「ピオンスコ、主に何かを尋ねたいならもう少し畏まった物言いをしろ」
「え~」
そういうルージュも気配や物言いが柔らかくなっているので、オレは安心した。少なくとも仲間の一員として認めたなら面倒見がよくなってくれるのはラスキャブの一件で証明済みだ。
「けど、アーコだって畏まってないじゃん」
「俺? ・・・何なら畏まった方がよろしいでしょうか、ザートレ様?」
「・・・二度と敬語を使わないでくれ」
そういうとアーコはゲラゲラ笑った。オレもオレで丁度いい機会だと思ったので、全員に告げた。
「ルージュには悪いが、別にオレに対して畏まる必要はない。様付けで呼ばれると、どうも毛穴が痒くなって仕方がない。そもそも、オレはお前らの誰一人として主従の関係になったとは思っていないんだからな」
「むう」
と、ルージュは珍しく不貞腐れた様な息を漏らした。それに引きかえ、ピオンスコは「ほらね」と喜んでラスキャブにじゃれついている。ところがそのラスキャブは困惑の表情だ。オレ達との出会いを考えれば無理からぬことではある。けれども、オレが望むのはやはり仲間という関係性なのだ。
それを伝えると、ラスキャブは相変わらずおどおどしながら、
「分かりました。ザートレ・・・さん」
と言った。葛藤と恐怖の中で生まれた最大限の譲歩なのだろう。それでも様で呼ばれるよりもよっぽどマシだった。
そんな会話が終わったところで、オレは改めてピオンスコの質問に答える。
「今から簡単にお前の装備を整えるんだ。これから4,5日はまた馬車に乗って草原を進むからな」
「アタシは別にこのまんまでもいいけど?」
そう言ってボロボロの布きれを精一杯に広げて見せてきた。
「そういう訳にもいかん。奴隷を連れているみたいで差別的な目で見られる可能性もあるし、何よりもお前には戦闘面での期待が大きいんだからな。最大限にお前の強みを活かせるように整えて損はないだろう?」
問題はオレの目当ての品がこの街にあるかどうかという事だ。貴重で珍しいようななモノではないが、大体が高価なので小さな町には置いていない事の方が多い。仮に置いていなかったとしても、セムヘノまでの道中にはおえるようなマントの一枚くらいは買っておかないと可哀相だった。
町人に尋ね、とりあえずこの町で一番大きな服飾屋に辿り着く。
アレが置いてあることを祈って、オレ達は店の中に入って行った。
チラリとピオンスコに目をやると、安堵の色を浮かべてラスキャブと話している。
「また一緒いられるな、ラスキャブ」
「・・・ご、ごめんね。あなたの事を覚えていなくって」
「しょうがないさ、全部あの野郎の仕業なんだから。アタシ達をこんな目に遭わせて・・・絶対許さない」
ピオンスコはオレ達の知らない情報や毒という特殊能力など、多くのプラス要素を持っているが、オレが一番有難いと思っているのが魔王を怨んでいるという点だった。
パーティの目的は揃っているに越したことはない。
そうでなくとも二人の能力は替えが効かない貴重なモノばかり。オレ達と一緒にいる限り食事や安全はある程度保証されると打算的な目的であったとしても、道連れになってくれるのなら非常に助かる。
◇
「なあ、これからどこに行くの?」
ラスキャブの手を引きつつ、ピオンスコが無邪気な質問をしてくる。さっきまでの殺気が嘘のように消し去ってここまで人懐っこくなれるのは、単純に凄い素質だと思う。こういう性格のやつは、大抵どのパーティにおいても精神面の要になってくれる。だがルージュは少々不服そうに、注意を促した。
「ピオンスコ、主に何かを尋ねたいならもう少し畏まった物言いをしろ」
「え~」
そういうルージュも気配や物言いが柔らかくなっているので、オレは安心した。少なくとも仲間の一員として認めたなら面倒見がよくなってくれるのはラスキャブの一件で証明済みだ。
「けど、アーコだって畏まってないじゃん」
「俺? ・・・何なら畏まった方がよろしいでしょうか、ザートレ様?」
「・・・二度と敬語を使わないでくれ」
そういうとアーコはゲラゲラ笑った。オレもオレで丁度いい機会だと思ったので、全員に告げた。
「ルージュには悪いが、別にオレに対して畏まる必要はない。様付けで呼ばれると、どうも毛穴が痒くなって仕方がない。そもそも、オレはお前らの誰一人として主従の関係になったとは思っていないんだからな」
「むう」
と、ルージュは珍しく不貞腐れた様な息を漏らした。それに引きかえ、ピオンスコは「ほらね」と喜んでラスキャブにじゃれついている。ところがそのラスキャブは困惑の表情だ。オレ達との出会いを考えれば無理からぬことではある。けれども、オレが望むのはやはり仲間という関係性なのだ。
それを伝えると、ラスキャブは相変わらずおどおどしながら、
「分かりました。ザートレ・・・さん」
と言った。葛藤と恐怖の中で生まれた最大限の譲歩なのだろう。それでも様で呼ばれるよりもよっぽどマシだった。
そんな会話が終わったところで、オレは改めてピオンスコの質問に答える。
「今から簡単にお前の装備を整えるんだ。これから4,5日はまた馬車に乗って草原を進むからな」
「アタシは別にこのまんまでもいいけど?」
そう言ってボロボロの布きれを精一杯に広げて見せてきた。
「そういう訳にもいかん。奴隷を連れているみたいで差別的な目で見られる可能性もあるし、何よりもお前には戦闘面での期待が大きいんだからな。最大限にお前の強みを活かせるように整えて損はないだろう?」
問題はオレの目当ての品がこの街にあるかどうかという事だ。貴重で珍しいようななモノではないが、大体が高価なので小さな町には置いていない事の方が多い。仮に置いていなかったとしても、セムヘノまでの道中にはおえるようなマントの一枚くらいは買っておかないと可哀相だった。
町人に尋ね、とりあえずこの町で一番大きな服飾屋に辿り着く。
アレが置いてあることを祈って、オレ達は店の中に入って行った。
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