魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode2

追及する勇者

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「そう言えば、名前は?」



 どこか食事がとれるような場所を目指す道中で、オレは少女に尋ねた。



「・・・ピオンスコ」



 と、少し躊躇いながらも素直に返事をしてくれる。危害を加えるつもりはないことは理解してくれたようだし、戦いのセンスはかなり鋭いようだから、オレの実力も何となくは察して大人しくなったのだろう。



「オレはザートレ、そっちの浮かんでいるのはアーコという」



「・・・確かもう一人、魔族の女がいなかったか?」



「ああ。ルージュ、出て来い」



 そう言うと腰の鞘に収まっていた剣が微かに光り出し、すぐさま形を成した。ところが、ルージュは無言のまま冷ややかな視線と程よく絞った殺気をピオンスコに向けている。



ルージュのその様子にピオンスコのみならず、ラスキャブまでもが「ひぃ」と小さな悲鳴を上げ、オレを盾にするように隠れてしまう。



「おいおい、ルージュ。そんな脅さなくたっていいだろ」



「黙れ、アーコ。誰にどんな理由が有れど、主に刃を向けるならそれは私の敵だ」



 しまった・・・。



 ピオンスコの攻撃は一切当たらなかったとはいえ、ルージュの性格を思えばこうなるのは予想できたはずなのに、それを失念してしまっていた。



 折角、丸く収まりそうだったが・・・と、嫌な予感を感じつつ、オレは後ろにいるピオンスコを見る。当の本人はラスキャブと一緒に、助けを乞うような目を向けてきていた。すぐに目配せしてルージュを宥める。わざと不服そうな態度を出しつつも、ルージュは数歩下がり、アーコと並んで殺気を収めてくれた。



 けれども、ラスキャブとピオンスコは互いに手を固く繋いで一向に離そうとはしなかった。



 ◇



 先の道行きでドリックスを討伐し、その謝礼として臨時の収入を手に入れていた事もあり、オレ達はこの町の中ではかなり高級な店に入ることができた。とは言っても、贅沢がしたい訳ではなく人目を避け、個室で食事のできる店が必然的に高級店しかなかっただけである。



 内陸部の町なので魚は乏しかったが、代わりに肉と酒は中々の品が揃えてあった。一通りの料理を頼むと、念のためルージュとアーコにも声を掛ける。ルージュはやはり断ってきたが、アーコは図々しくこの店で一番高値の酒を注文していた。



 六人掛けのテーブルを使うのは実質三人だけなので、かなり広々と使える。アーコは行儀悪く机の上にあぐらをかき、ルージュは戸を背もたれにすると腕組みをしてオレ達を見守った。



 マントを脱いだピオンスコの身体には尻尾が巻き付いており、服の隙間から見える肌はまさしく蠍を思わせる外皮に覆われていた。ようやく見えた顔の全貌は、ラスキャブと同年代と言った具合か。赤みがかった髪は短いので、人によっては少年に見えるかも知れない。



 やがて全員の腹が多少なり満たされて余裕ができた頃合いで、オレから話題を振る。



「まず、オレ達の事から話すが・・・」



 その声にアーコ以外の手が止まる。ピオンスコはまじまじとオレの顔を見てきた。



「とは言っても、大した事はないだがな。元々はそこにいるルージュと二人旅だったんだが、とある森でラスキャブに襲われたんだ。お前と同じく、オレが魔族を隷従させていると思ってルージュを救い出そうとした」



「うぅ」



 と、ラスキャブはそんな息を漏らした。別に責めている訳でないが、ピオンスコに事実を語るならば、そう説明する他ない。



「まあ、結果としてみれば返り討ちにあったんだが、その時にラスキャブの能力の有用性に気が付いた。だから、オレ達と一緒に来ないかと誘ったんだ」



 本当は召喚術だと勘違いしていたり、ルージュの恫喝紛いの勧誘などがあったのだが、そこは説明する必要はないだろう。話がややこしくなるだけだ。



「それと、ラスキャブの記憶はオレ達と会う前から無かった。自分の名前以外の事を、ろくに覚えていないというのは本当なんだ。その不安もあってか、オレ達と共に行動している。記憶はないかもしれないが、これはラスキャブの意思だ。無理矢理従えているんじゃない事は分かってくれ」



 ピオンスコは横にいたラスキャブの顔を見た。真意を尋ねたいのだろう。それはラスキャブも分かっているので、嘘ではないと頷いた。



「じゃあ、なんでアタシの名前が分かったんだ?」



「えと、旅の途中で『見たものの名前が分かる』っていう魔法を使えるようになったの。あなたの顔を見て、ピオンスコって分かったのはそれのせいなんです。ごめんなさい」



「・・・そっか」



 離れ離れになっていた知人とようやく再会が叶ったのに、相手が記憶を失っているというのは気の毒だったが、仕方がないことだ。だが、ピオンスコの存在はラスキャブにとっても有難い物であることも確かだ。



「今度はお前の話を聞かせてくれ。ラスキャブの事は多少わかるんだろ? お前たちはどういう関係なんだ?」



「アタシ達は幼馴染だ。もう一人、トスクルって子と三人でいつも一緒にいた」



「そのトスクルって奴は?」



「・・・分からない。多分、こっちに来るときにはぐれてんだと思う」



「こっちに来るとき? お前ら、元々はどこにいたんだ」



 ピオンスコは明らかに動揺した。しかし、恐る恐る真実を語ってくれた。



「『螺旋の大地ヴォルート』だよ。信じてもらえないかも知れないけど、アタシ達は魔王のところにいいたんだ」



 その言葉に一瞬の間が空いた。



 そしてすぐさま、オレとルージュとアーコの大声が重なり、ピオンスコを追及する。



「「「それは、どういう事だ!?」」」
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