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Episode1
殴られる勇者
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たじろいで傍にあった木にもたれるようにアーコは脱力してしまった。その表情は心底困惑しているようだった。オレは狼の姿ではあったがルージュの傍らに身を寄せ、共に頭を下げた。
「・・・ザートレはともかくとして、何でお前はそこまで魔王に固執するんだよ?」
「馬車の上で主ははぐらかして話していたが、私は元々あの男に使われていた剣なのだ」
「…んだと?」
「長い間、私はあの男に振るわれて多くの敵を斬り裂いてきた。血を吸い、魔力を注がれているうちに、私の中に私という魂が目覚めた」
ルージュの昔語りに、オレはアーコに頭を下げている最中という事をすっかり失念してしまった。
「更に時が経つと、今の私のように姿そのものを変えられるだけの魔力を得た・・・そうしているうちに私は剣としてではなく、別の形であの男の寵愛を受けたくなった。だから私はあの男の手を通じて、こっそりとあの男の記憶を盗み見る業を会得した。そして魔王が心の深層で最も想うべき女の記憶を掠め取り、喜び勇んでこの肉体を作ったのだ」
ルージュの眼の中の炎の色が次第に黒く染まっていく。
「だが魔王は私の姿を見るや否や、私を拒んだ。理由は知らぬ。とにかく私すぐに押さえ付けられ、その日のうちにあの奈落の底へ投棄された。それから主に会うまでの数百年、ずっと復讐を待ち望んでいた」
ルージュは突っ伏したままで、もう一度アーコを見た。
「あの男を殺せるというのならば、私に他に望むモノはない。復讐を遂げた後で命を望むのなら喜んで差し出そう。だから、もう一度頼む。主の強さを引き出せるというのなら、力を貸してほしい」
「・・・」
アーコは息を荒くし、無性に頭を掻いている。そして、ずるずると木に体重を預けながら座り込んだ。そして、今まで見せた事もないような優しい目をして徐に語り始めた。
「ずっと昔、俺の仲間が同じことに気が付いた」
「え?」
「俺の変身術を活用すれば、二重で試練の加護を受けれるってことさ。実際、それは上手くいった」
オレは目を丸くした。この方法に前例があったのか。
記憶を反芻したアーコは誰かを思い出したのか、それとも自嘲したのかは知らないが小さい笑みを見せた。
「俺もな、魔王には腹に据えかねている事がある。ただ、昔のこと過ぎて俺自身も覚えちゃいない。ただムカつくって感覚だけが残っているのさ。だから俺は魔王を殺せる仲間を募った。丁度、お前と同じくフォルポス族の男だったよ。幾分お前よりも弱かったけどな・・・・・・試練の加護を重複させて、いよいよってところで俺は裏切られた。いや、そもそもアイツは魔族をハナっから信用してなかったんだろう。利用されてたのさ。そこからは知っての通り、あの盾の中に封じ込められて今に至るって訳だ」
なるほど。アーコがフォルポス族を目の敵にする理由が分かった。
アーコはまるで立場が変わり、まるで縋るような目でオレ達を見てきた。
「・・・本当に・・・・・・本当に、お前らはあの男を殺すつもりなのか?」
「「当然だ」」
自然と声が重なる。
その時オレはアーコの眼に、同じ色の火が灯ったのを見た様な気がした。
「わかった。お前らに力を貸す…いや、そうじゃない」
するとアーコはもごもごと口を動かした。動揺が手に取るように分かる。
「俺を・・・仲間にしてくれ」
その言葉にオレは牙を見せた。
「ああ。願ってもない、力を貸してくれ」
オレがそう言うと、アーコはすくっと立ち上がった。そして先ほどルージュがやったのと同じように襟に指を掛け、自分の服を破り捨ててしまった。
「「は?」」
一体、何をしているのかまるで分からない。
ルージュに比べ、あちこちの膨らみが落ちる身体が一糸まとわぬままになっている。
「おい、ルージュ。俺の顔を殴れ。同じように鼻血を吹き出すくらいな」
「な、何のために」
「それでおあいこだろうが。俺が欲しいのは仲間であって下僕じゃねえ、対等になるには同じことされるしかねえだろ」
「・・・心得た」
ルージュもまた一糸まとわぬ姿で立ち上がると、遠慮の欠片も感じられない様な一撃をアーコの顔面に入れた。正直、アーコの蹴りよりも威力があるような気がする。
「あああああああ」
と、叫びながらも顔を押さえ、のそのそとルージュの元に這いつくばってくる。そして宣言通りアーコはルージュの足に口づけした。
するとアーコの矛先はオレに向いた。再びフォルポスの姿に戻されるとオレまで顔面を殴られる流れになった。
「女二人が顔をやられてんだ、テメエだけ蚊帳の外には出さねえぞ。本当なら服を脱げと言いたいが、別に粗末なもんは見たくねえからそれは許してやる」
と、分かるようで全く理解不能な理屈をこねてアーコはオレの顔を殴った。しかも鼻血が中々でなかったので、殴られる回数が二発余計に多かった。
「・・・ザートレはともかくとして、何でお前はそこまで魔王に固執するんだよ?」
「馬車の上で主ははぐらかして話していたが、私は元々あの男に使われていた剣なのだ」
「…んだと?」
「長い間、私はあの男に振るわれて多くの敵を斬り裂いてきた。血を吸い、魔力を注がれているうちに、私の中に私という魂が目覚めた」
ルージュの昔語りに、オレはアーコに頭を下げている最中という事をすっかり失念してしまった。
「更に時が経つと、今の私のように姿そのものを変えられるだけの魔力を得た・・・そうしているうちに私は剣としてではなく、別の形であの男の寵愛を受けたくなった。だから私はあの男の手を通じて、こっそりとあの男の記憶を盗み見る業を会得した。そして魔王が心の深層で最も想うべき女の記憶を掠め取り、喜び勇んでこの肉体を作ったのだ」
ルージュの眼の中の炎の色が次第に黒く染まっていく。
「だが魔王は私の姿を見るや否や、私を拒んだ。理由は知らぬ。とにかく私すぐに押さえ付けられ、その日のうちにあの奈落の底へ投棄された。それから主に会うまでの数百年、ずっと復讐を待ち望んでいた」
ルージュは突っ伏したままで、もう一度アーコを見た。
「あの男を殺せるというのならば、私に他に望むモノはない。復讐を遂げた後で命を望むのなら喜んで差し出そう。だから、もう一度頼む。主の強さを引き出せるというのなら、力を貸してほしい」
「・・・」
アーコは息を荒くし、無性に頭を掻いている。そして、ずるずると木に体重を預けながら座り込んだ。そして、今まで見せた事もないような優しい目をして徐に語り始めた。
「ずっと昔、俺の仲間が同じことに気が付いた」
「え?」
「俺の変身術を活用すれば、二重で試練の加護を受けれるってことさ。実際、それは上手くいった」
オレは目を丸くした。この方法に前例があったのか。
記憶を反芻したアーコは誰かを思い出したのか、それとも自嘲したのかは知らないが小さい笑みを見せた。
「俺もな、魔王には腹に据えかねている事がある。ただ、昔のこと過ぎて俺自身も覚えちゃいない。ただムカつくって感覚だけが残っているのさ。だから俺は魔王を殺せる仲間を募った。丁度、お前と同じくフォルポス族の男だったよ。幾分お前よりも弱かったけどな・・・・・・試練の加護を重複させて、いよいよってところで俺は裏切られた。いや、そもそもアイツは魔族をハナっから信用してなかったんだろう。利用されてたのさ。そこからは知っての通り、あの盾の中に封じ込められて今に至るって訳だ」
なるほど。アーコがフォルポス族を目の敵にする理由が分かった。
アーコはまるで立場が変わり、まるで縋るような目でオレ達を見てきた。
「・・・本当に・・・・・・本当に、お前らはあの男を殺すつもりなのか?」
「「当然だ」」
自然と声が重なる。
その時オレはアーコの眼に、同じ色の火が灯ったのを見た様な気がした。
「わかった。お前らに力を貸す…いや、そうじゃない」
するとアーコはもごもごと口を動かした。動揺が手に取るように分かる。
「俺を・・・仲間にしてくれ」
その言葉にオレは牙を見せた。
「ああ。願ってもない、力を貸してくれ」
オレがそう言うと、アーコはすくっと立ち上がった。そして先ほどルージュがやったのと同じように襟に指を掛け、自分の服を破り捨ててしまった。
「「は?」」
一体、何をしているのかまるで分からない。
ルージュに比べ、あちこちの膨らみが落ちる身体が一糸まとわぬままになっている。
「おい、ルージュ。俺の顔を殴れ。同じように鼻血を吹き出すくらいな」
「な、何のために」
「それでおあいこだろうが。俺が欲しいのは仲間であって下僕じゃねえ、対等になるには同じことされるしかねえだろ」
「・・・心得た」
ルージュもまた一糸まとわぬ姿で立ち上がると、遠慮の欠片も感じられない様な一撃をアーコの顔面に入れた。正直、アーコの蹴りよりも威力があるような気がする。
「あああああああ」
と、叫びながらも顔を押さえ、のそのそとルージュの元に這いつくばってくる。そして宣言通りアーコはルージュの足に口づけした。
するとアーコの矛先はオレに向いた。再びフォルポスの姿に戻されるとオレまで顔面を殴られる流れになった。
「女二人が顔をやられてんだ、テメエだけ蚊帳の外には出さねえぞ。本当なら服を脱げと言いたいが、別に粗末なもんは見たくねえからそれは許してやる」
と、分かるようで全く理解不能な理屈をこねてアーコはオレの顔を殴った。しかも鼻血が中々でなかったので、殴られる回数が二発余計に多かった。
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