74 / 347
Episode1
霊感持つ勇者
しおりを挟む
それから夜までの間は大きな問題も起こらず、オレはあれこれと考えを巡らせることができた。
ルージュもラスキャブもアーコも気を使ってくれているのか、それともオレの顔が無意識に話しかけるなという雰囲気を出していたのかは知らないが、いずれにしても長い長い沈黙があった。
野宿をするための野営準備を終え、昼と同じくパンと干し肉が配られる。配膳にきた商人の小間使いの男が「こんものばかりですみません」と一言詫びを入れてきた。どうやらドリックスを討ったことは殊の外オレの株を上げてくれたらしい。
「こんなものも何もそういう契約を結んでいるだけだ、アンタの気にするところじゃない。気を使わなくても、この旅程の間は仕事はきっちりとするさ」
食事の間もオレ達のパーティだけは無言であった。特にラスキャブには悪い事をしてしまったと思う。ただでさえ気を使う奴なのだ、今頃は休んでいる心地すらしていないだろう。オレは無理にでも話を振ろうと思って、丁度良く手に入れたドリックスを使うことにした。
「せっかくだ。こいつも少し食べてみるか?」
「え?」
突然話しかけたものだからラスキャブは動転してしまった。
その様子にオレは微かに笑いながら、ドリックスの可食部の肉を少し削いで焼いてみることにした。ルージュも気を利かせて先日のように装飾を変形させた串を差し出してきてくれたので、有難く使わせてもらう。
「悪いな、気を使わせてしまって」
「い、いえ。そんな・・・わたしなんかは別に」
そういうとまた沈黙が流れてしまった。こういう時、気の利いた言葉の出てこない自分が嫌になる。アーコに狼の姿に変えて貰えれば、少しは口が回ってマシになるかも知れないが流石にこの場所で変身する訳にも行かない。
・・・。
・・・・・・。
狼の姿に変われば口が回る・・・?
なんだ?
この言葉がやけに頭に引っかかる。パズルのピースは見つけたたが、どこにハメるのかが分からない様な、そんな感覚に陥る。
その時、ルージュの窘めるような声が聞こえた。
「主よ。焼き過ぎではないか?」
「ん? ああ、すまん」
物思いに耽り過ぎて、肉が焦げ付かせる一歩手前の状態だった。ラスキャブはオレが差し出した串を遠慮しがちに受け取ると、恐る恐るリスのようにかじって食べた。オレも食文化が違う地域で初めての物を食べる時は同じようにしていた事を思い出す。
「あ、美味しい」
「食肉としての味だけを考慮すればドリックスは世界でも五本の指に入るほど美味いからな」
「何と言いますか、不思議な食感ですね。獣肉なのは確かなんですが、どことなく魚っぽいような感じもします」
「ドリックスは昔のいかれた魔導士が兎と魚を融合させようとしたが、それが失敗して生まれた魔物と言われいるからな。あながち間違ってはいない」
ラスキャブにそう説明をするとオレの頭の中で小さな音がした。それはさっきのパズルのピースが収まるべき場所にきちんと収まった時の音だった。
オレはにわかに立ち上がる。その様子にラスキャブだけでなく、ルージュとアーコも驚いた。
「主よ、どうした?」
「ラスキャブ。すまないがルージュとアーコと話がしたい。少し、ここで留守番を頼む」
「あ?」
アーコは怪訝な顔になる。話があるなら、またテレパシーを使えばいいだろうと思っていたのかも知れない。けれど、試さなければならないことがある。会話だけでは不十分だ。
「ルージュ、行くぞ」
「わ、わかった」
オレはルージュを連れ、アーコの入った檻を持つとその場を離れた。なるたけ人目に付きたくはなかったので、すぐそばに小さな林があったのは幸いだった。
オレ達は林の闇に溶けるように消えていった。
ルージュもラスキャブもアーコも気を使ってくれているのか、それともオレの顔が無意識に話しかけるなという雰囲気を出していたのかは知らないが、いずれにしても長い長い沈黙があった。
野宿をするための野営準備を終え、昼と同じくパンと干し肉が配られる。配膳にきた商人の小間使いの男が「こんものばかりですみません」と一言詫びを入れてきた。どうやらドリックスを討ったことは殊の外オレの株を上げてくれたらしい。
「こんなものも何もそういう契約を結んでいるだけだ、アンタの気にするところじゃない。気を使わなくても、この旅程の間は仕事はきっちりとするさ」
食事の間もオレ達のパーティだけは無言であった。特にラスキャブには悪い事をしてしまったと思う。ただでさえ気を使う奴なのだ、今頃は休んでいる心地すらしていないだろう。オレは無理にでも話を振ろうと思って、丁度良く手に入れたドリックスを使うことにした。
「せっかくだ。こいつも少し食べてみるか?」
「え?」
突然話しかけたものだからラスキャブは動転してしまった。
その様子にオレは微かに笑いながら、ドリックスの可食部の肉を少し削いで焼いてみることにした。ルージュも気を利かせて先日のように装飾を変形させた串を差し出してきてくれたので、有難く使わせてもらう。
「悪いな、気を使わせてしまって」
「い、いえ。そんな・・・わたしなんかは別に」
そういうとまた沈黙が流れてしまった。こういう時、気の利いた言葉の出てこない自分が嫌になる。アーコに狼の姿に変えて貰えれば、少しは口が回ってマシになるかも知れないが流石にこの場所で変身する訳にも行かない。
・・・。
・・・・・・。
狼の姿に変われば口が回る・・・?
なんだ?
この言葉がやけに頭に引っかかる。パズルのピースは見つけたたが、どこにハメるのかが分からない様な、そんな感覚に陥る。
その時、ルージュの窘めるような声が聞こえた。
「主よ。焼き過ぎではないか?」
「ん? ああ、すまん」
物思いに耽り過ぎて、肉が焦げ付かせる一歩手前の状態だった。ラスキャブはオレが差し出した串を遠慮しがちに受け取ると、恐る恐るリスのようにかじって食べた。オレも食文化が違う地域で初めての物を食べる時は同じようにしていた事を思い出す。
「あ、美味しい」
「食肉としての味だけを考慮すればドリックスは世界でも五本の指に入るほど美味いからな」
「何と言いますか、不思議な食感ですね。獣肉なのは確かなんですが、どことなく魚っぽいような感じもします」
「ドリックスは昔のいかれた魔導士が兎と魚を融合させようとしたが、それが失敗して生まれた魔物と言われいるからな。あながち間違ってはいない」
ラスキャブにそう説明をするとオレの頭の中で小さな音がした。それはさっきのパズルのピースが収まるべき場所にきちんと収まった時の音だった。
オレはにわかに立ち上がる。その様子にラスキャブだけでなく、ルージュとアーコも驚いた。
「主よ、どうした?」
「ラスキャブ。すまないがルージュとアーコと話がしたい。少し、ここで留守番を頼む」
「あ?」
アーコは怪訝な顔になる。話があるなら、またテレパシーを使えばいいだろうと思っていたのかも知れない。けれど、試さなければならないことがある。会話だけでは不十分だ。
「ルージュ、行くぞ」
「わ、わかった」
オレはルージュを連れ、アーコの入った檻を持つとその場を離れた。なるたけ人目に付きたくはなかったので、すぐそばに小さな林があったのは幸いだった。
オレ達は林の闇に溶けるように消えていった。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる