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Episode1

興味持つ勇者

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 ルージュはぷいっとそっぽを向いて言った。



「欲しいものがある」



 どうやらオレの呆けた失言は聞こえなかったふりをしてくれるらしい。



「予定よりも実入りがよかった。遠慮なしに言ってくれて構わない」



「では、鉄工の職人を探したい。心当たりはあるか?」



「鉄工の職人?」



「ああ。もちろん腕は確かな方が良い」



 鉄工業ともなれば、やはりオレと同じフォルポス族を頼った方が確実だ。八十年前と変わっていないなら西側に組合があるはず。世界からしてみれば辺鄙なところにある街だが、地理的にフォルポス族が多く集まる街なので、武器や防具に関してはある程度は期待していい。



 オレ達は早速、街の西区を目指して歩き始めた。



「ところで具体的に何が欲しいんだ? モノによって頼る職人は微妙に変わってくるぞ?」



「鞘を作ってもらいたいのだ」



「鞘?」



「ああ。私を納めるための鞘が欲しい」



 言われて初めて気が付いた。



 使う時にだけ剣に姿を変えるので鞘を意識する機会が全くなかったのだ。



 鞘を作ることで悪くなりかけていた関係が修復されるなら安いものだと思う。元鞘なんて下らないジョークを思いついたが、それは口に出しはしなかった。





 ◇



 思った通り西区は今でも職人たちの地区となっていた。



 至る所から職人たちの気風のいい怒号にも似た声に乗って、かまどの熱を伴った槌や鞴の音が飛び交っている。



 ぶらりと歩きながら、目当ての品を作るか売ってくれそうな店を見繕う。フォルポスの職人たちは軒先に看板を出すのは邪道と考えている。その癖、商売人と違って客の機嫌を取ろうなどとは考えない連中が多く、おまけに自分の腕前には自信を持っているので、鞘を用立ててくれる店を尋ねたところでどやされるのがオチだろう。



 とは言えども、オレもフォルポス族の端くれだ。店構えや職人たちの身なりで大方のその店の親方が何を売りにしているかくらいは察しが付く。



 一先ず表通りを歩いて軒を連ねている店々の様子は伺った。他の品ならいざ知らず、鞘ともなれば勝手に店は絞られていく。戻り足で目星をつけた店に行こうかとした時に、ルージュに呼び止められた。



「どうした?」



「あの店・・・気にならんか?」



 そう言って指差した先に、なるほど確かに気になる店が一軒あった。



 裏通りとは言え、看板を嫌う職人街にあってこれ見よがしに看板を出している。そしてその肝心の看板には『鞘屋』と堂々とした文字で書いてあったのである。



 オレとルージュは顔を見合わせた。お互いに好奇心が芽生えているのは顔に出ているので、歩みを止める理由が見つからなかった。
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