魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
60 / 347
Episode1

からかう勇者

しおりを挟む
 置き去りにしていた荷物やグラフルの肉や毛皮などを回収し、ようやく森を出て町を目指し始めた。こんななりでは荷物は持てるはずもなく、ルージュとラスキャブには少々力仕事を任せることになってしまっていた。



 その頃にはすでに日が沈み、満天の星空が世界を支配している。



 狼の姿では火の魔法は使えなかったのだが、フォルポスの姿でいるよりも五感が利くようで歩く分には全く困らなかった。



 道すがらルージュは妖精から加護を受けたことを教えてくれた。



「なるほど。『触れられないモノに触れることができる』と『見たものの名前がわかる』という力か」



「お蔭でそこの奴を捕まえることができた訳だ。感謝しなければなるまい」



 ルージュは檻の中の小さな魔物を指差して言った。



「そう言えば、名前はなんていうんだ?」



「・・・」



 ふくれっ面のまま、口を聞こうとはしてくれない。オレはチラリとラスキャブを見た。



「アーコさんって言うそうです」



「へえ、名前は可愛らしいんだな」



「っけ」



 普段なら絶対に口にしない様な台詞が躊躇いなく出てきてしまう。それが自分でもおかしく、楽しいとも感じてしまう。尤も後ろを歩く二人には不評のようだが。



「狼の姿に変えられるとき、別の魔法も使っていたよな? 自分でも戸惑うくらい心持が変わっているのは、その魔法のせいなのか?」



「俺が使ったのは、変身術とお前の手綱を握ろうとかけた支配魔法だけだ。支配魔法の方はあっちの恐い女に無理矢理解除されたがな。内面を変えてしまうほどの魔法なんてそうそう使えるもんじゃない」



「じゃあ、この感覚はオレ本来のものなのか・・・」



「狼になった分、余計なたがが外れてんだろ」



「なるほどな」



 それから街の門の手前まで辿り着くと、一旦ルージュとラスキャブと別れることにした。二人は通行証があるから難なく通れるとは言え、流石に狼を街に連れ込むことは許されないだろうと判断したからだ。



 オレとアーコが二人きりになることにルージュは苦言を呈してきて、アーコと口論になりかけた。けれどもオレが、



「妬いてくれるのか?」



 と言うと、アーコがしたり顔で乗ってくる。



「そういうことか、気が付かなくて悪かった。けど安心してくれ。こいつは俺のタイプじゃない」



 ルージュは困ったような腹立たしいような、それでいて寂しいような、そんな顔になった。とうとう諦めて「もういい…」と手で追っ払うようなことをしたので、オレ達も壁沿いに回り、入れそうな場所を探すことにする。



「・・・やはり殺しておくべきだった」



 去り際に放ったルージュの一言はオレ達には届かなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...