58 / 347
Episode1
確認する勇者
しおりを挟む
夢を見ていた。
どんな夢だったのかは覚えていないが、心に残っている印象はとても安らかで温かいものだった。
目が覚めると体の違和感が先に押し寄せ、先程までの出来事がフラッシュバックした。狼の姿に変えられてしまったことは、どうやら夢ではないらしい。それでも四肢を動かしむくりと身体を起こして、のそのそと歩き出した。
焚火を囲んでいたラスキャブの傍らに、あの小さい魔族が捕らえられているのを見て、少し安心した。恐らくはルージュの仕業だろう。元の姿に戻る術を探るには、こいつに聞くのが手っ取り早いからな。
肝心のルージュの姿が見えなかったが、少し離れたところにあいつの匂いを感じ取った。この姿の影響か、嗅覚が今まで以上に働いている。その上、こんな事態になっているというのに、やけに頭がすっきりして冷静な自分が怖かった。
ルージュは身を隠している様子だったので、そこには触れない事にした。
「ル、ルージュさんっ! ザートレ様が目を覚ましました!」
ラスキャブが嬉しそうに叫び、ルージュを探しに森の方へと駆けていく。
オレは檻の前に座り、小さな魔族をまじまじと見た。そして夢か現か分からない事を確かめた。
「お前も魔王に浅からぬ因縁があるんだな」
「へえ。起きてからの第一声がそれか。気取ってのんか? それともまだ頭がこんがらがっているのか?」
そんな恨み節を飛ばしてきたが、無視して話を続ける。
「お前を閉じ込めた女も精神感応系の魔法を使う奴でな。何度も何度もテレパシーを体験するうちに、慣れが出たんだろう。若干だがお前の記憶もオレの中に入ってきた」
「・・・」
「だが・・・お前の頭の中のアレは本当に魔王なのか?」
「…そんな疑問が浮かぶって事は、余程古い記憶を見たんだな」
小さい魔族はそんな意味深な事を言った。その顔はどこか悲しげに見えてしまった。
「そうそう、朗報があるぜ。ラスキャブとかいう娘がお前の身代わりを買って出た。フォルポスはムカつくが、あの女はちっとばかし厄介だ。元の姿に戻してやる代わりに、俺とラスキャブを開放してくれ。それで取りあえず丸く収まるだろ?」
「・・・」
ラスキャブがルージュを連れて戻ってくる。二人には話が聞こえていたようで、神妙な面持ちだ。ルージュの眼は何やら腑に落ちない何かを孕んでいるように見えるが、やはりオレを第一に考えてくれている事は分かった。
「何を黙ってるんだよ。狼の姿が気に入っちまったか?」
「ああ。中々悪くない」
小さな魔族は、そんなブラックジョークを平然と飛ばしてくる。だからこっちも悪戯心を持って応じてやる。すると少し驚いたようだが、すぐに愉快そうに笑った。
「はっはっは。案外、冗談が通じるんだな、見直したぜ。ならこうしよう、元に戻すんじゃなくて、その変身能力をプレゼントしてやるよ。お前の意思でフォルポスの姿にも狼の姿にもなれるようにしてやるってのはどうだ? それなら俺とラスキャブを見逃してくれてもまるっきりの損にはならないだろ?」
「二つ聞きたいことがある」
「あん?」
「オレの記憶を読んだって事は、オレ達の目的も理解しているのか?」
「ああ。魔王を倒しに行くんだろ? こいつはラスキャブから聞いた話だがな」
「そうか…なら、もう一つ。オレ達と離れた後の目的はあるのか? 何をするつもりだ?」
「まだ決めちゃいないが、適当にブラブラして世の中の変化を見たい。封じられている間、外の様子は何となく見れたが、ピクシーズの武器にされていたってのが余計だった。ここから動くことはなかったし、知っての通り戦うことすら稀だったからな。退屈してた分の時間を取り戻したいのさ」
意外にも素直にべらべらと喋ってくれる。逃げられるのなら取り繕う必要もないという事か。
「そうか。わかった」
「! なら、俺とラスキャブを逃がしてくれよ」
「悪いがそれはできない」
その言葉にオレ以外の三人が、驚き目を丸くしてしまった。
どんな夢だったのかは覚えていないが、心に残っている印象はとても安らかで温かいものだった。
目が覚めると体の違和感が先に押し寄せ、先程までの出来事がフラッシュバックした。狼の姿に変えられてしまったことは、どうやら夢ではないらしい。それでも四肢を動かしむくりと身体を起こして、のそのそと歩き出した。
焚火を囲んでいたラスキャブの傍らに、あの小さい魔族が捕らえられているのを見て、少し安心した。恐らくはルージュの仕業だろう。元の姿に戻る術を探るには、こいつに聞くのが手っ取り早いからな。
肝心のルージュの姿が見えなかったが、少し離れたところにあいつの匂いを感じ取った。この姿の影響か、嗅覚が今まで以上に働いている。その上、こんな事態になっているというのに、やけに頭がすっきりして冷静な自分が怖かった。
ルージュは身を隠している様子だったので、そこには触れない事にした。
「ル、ルージュさんっ! ザートレ様が目を覚ましました!」
ラスキャブが嬉しそうに叫び、ルージュを探しに森の方へと駆けていく。
オレは檻の前に座り、小さな魔族をまじまじと見た。そして夢か現か分からない事を確かめた。
「お前も魔王に浅からぬ因縁があるんだな」
「へえ。起きてからの第一声がそれか。気取ってのんか? それともまだ頭がこんがらがっているのか?」
そんな恨み節を飛ばしてきたが、無視して話を続ける。
「お前を閉じ込めた女も精神感応系の魔法を使う奴でな。何度も何度もテレパシーを体験するうちに、慣れが出たんだろう。若干だがお前の記憶もオレの中に入ってきた」
「・・・」
「だが・・・お前の頭の中のアレは本当に魔王なのか?」
「…そんな疑問が浮かぶって事は、余程古い記憶を見たんだな」
小さい魔族はそんな意味深な事を言った。その顔はどこか悲しげに見えてしまった。
「そうそう、朗報があるぜ。ラスキャブとかいう娘がお前の身代わりを買って出た。フォルポスはムカつくが、あの女はちっとばかし厄介だ。元の姿に戻してやる代わりに、俺とラスキャブを開放してくれ。それで取りあえず丸く収まるだろ?」
「・・・」
ラスキャブがルージュを連れて戻ってくる。二人には話が聞こえていたようで、神妙な面持ちだ。ルージュの眼は何やら腑に落ちない何かを孕んでいるように見えるが、やはりオレを第一に考えてくれている事は分かった。
「何を黙ってるんだよ。狼の姿が気に入っちまったか?」
「ああ。中々悪くない」
小さな魔族は、そんなブラックジョークを平然と飛ばしてくる。だからこっちも悪戯心を持って応じてやる。すると少し驚いたようだが、すぐに愉快そうに笑った。
「はっはっは。案外、冗談が通じるんだな、見直したぜ。ならこうしよう、元に戻すんじゃなくて、その変身能力をプレゼントしてやるよ。お前の意思でフォルポスの姿にも狼の姿にもなれるようにしてやるってのはどうだ? それなら俺とラスキャブを見逃してくれてもまるっきりの損にはならないだろ?」
「二つ聞きたいことがある」
「あん?」
「オレの記憶を読んだって事は、オレ達の目的も理解しているのか?」
「ああ。魔王を倒しに行くんだろ? こいつはラスキャブから聞いた話だがな」
「そうか…なら、もう一つ。オレ達と離れた後の目的はあるのか? 何をするつもりだ?」
「まだ決めちゃいないが、適当にブラブラして世の中の変化を見たい。封じられている間、外の様子は何となく見れたが、ピクシーズの武器にされていたってのが余計だった。ここから動くことはなかったし、知っての通り戦うことすら稀だったからな。退屈してた分の時間を取り戻したいのさ」
意外にも素直にべらべらと喋ってくれる。逃げられるのなら取り繕う必要もないという事か。
「そうか。わかった」
「! なら、俺とラスキャブを逃がしてくれよ」
「悪いがそれはできない」
その言葉にオレ以外の三人が、驚き目を丸くしてしまった。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる