魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
41 / 347
Episode1

交渉する勇者

しおりを挟む
「メカーヒー様。やはりお止しになった方が…」



 亭主がオレ達のやり取りに初めて口出しをしてきた。が、メカーヒーは余裕綽々の態度を崩さない。



「いやいや。『煮えたぎる歌』と聞いて素性もはっきりとなった。尚の事この方に頼みたい」



「それで、依頼というのは?」



「ルクーサー地方のセムヘノという街はご存じで?」



 ルクーサー地方とセムヘノという二つの知名に思わずハッとなった。ルクーサー地方は『煮えたぎる歌』のギルドで聞いた妙な噂話の大元であることもそうだが、セムヘノという都市はかつての仲間だったササス族の女、フェトネックの故郷だったはずだ。



 が、そんな事はこの場においては関係のない話だ。オレは平静を装って返事をする。



「行った事はないが知ってはいるさ。有名な街だろ?」



 そう当たり障りのない返事をした。オレが生きていた時代であれば、町並みの風景と海が売りの観光都市だったはずだが、それは飲み込んでおいた。ギルドでの経験上、下手に墓穴を掘るよりも無知を装っていた方が面倒が少なそうだと判断したのだ。



「ええ。生涯で一度は訪れておくべき街の一つですからな」



 メカーヒーは猫の髭を抓むと、二、三度それをしごいた。



「ザートレ殿にお願いしたいのは、そのセムヘノまで私どもを護衛して頂きたいという事です」



 それを聞いて一瞬、懐かしくなった。商団や小金持ちの道すがらの護衛は駆け出しの頃によくやっていた仕事だ。目的地が被っていれば食事や寝床の心配をしなくてすむし、更に金を稼ぐことができたから重宝した。商人が護衛を雇って旅をするのは別に珍しいことではない。



 今回もルクーサー地方へ行けるのは渡りに舟といった案件であることは間違いない。魔王の城へ向かうは遠回りになることは当然だが、どうにも噂話が引っかかる。



 有難い話だが、安易に引き受けられない気掛かりもある。



「報酬は四十五万チキュ。前金で二十万チキュお支払いしましょう。如何です?」



 こちらが判断をあぐねいている隙に追い打ちをかけるようなタイミングで報酬の提示、しかもここからセムヘノへの護衛相場のおよそ三倍近い額を出してきた。商人らしい駆け引きだと思った。新米なら飛びついていただろうが、疑念はさらに強まった。



「返事はすぐにできん。旅程、護衛人数、道中の飲食費の持ち分なんかをはっきりさせないせいで何度も痛い目を見てきた」



「ふふふ。やはり護衛慣れしていましたね、私の思った通りだ」



 メカーヒーは商人らしい笑みを浮かべていた。商人たちの会話を巧みに操り一言一句から相手の情報を引き出す術は感心するし、同時に苦手でもある。これから先の旅に影響はないだろうが、こちらの素性などをあれこれ探られるのはいい気分ではないし、万が一という事もある。オレは剣を持って戦うが、こいつらが持つのは金だ。同じように金属でできているはずなのに、こうも勝手が違うものなのか。



 息をつくふりをして、オレは一目だけルージュを見た。こいつはきっと商人になっても似合いそうな気がした。



 しかし、今回に限ってだがオレはメカーヒーに一泡吹かせてやれるカードを持っている。出し惜しみなどするタイプではないので、気が付いた時にはそれを切っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...