魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
39 / 347
Episode1

考察する勇者

しおりを挟む
 正体不明の魔獣が出たが無事に退治されたということで、騒動は一旦は収まった。



 しかし、今度はその魔獣の出現について言及される事態になった。真っ先にオレ達が疑われることになったのは仕方のないことだ。というよりも事実そうなのだから。



 オレ達三人は物置のような部屋に一時的に拘留されていた。下手に抵抗しては逆効果だと思い、ルージュにもラスキャブにも抵抗するなと言い聞かせている。



 念のため周囲には自分たちの身の危険になるような事をわざわざする理由がない、と言い訳をしはしたが効果は薄いだろう。



 宿の破損の弁償くらいで済めばよいが、自警団や警備兵などに引き渡されるようなことになると些か面倒が過ぎる。色々と心配事は募っていたが、今は何よりも件の蝿の強さについて考察しなければならないと思った。



 ◇



「あの蝿は一体なんだったんだ?」



 ラスキャブに直球の疑問を投げかける。



「わ、わかりません。自由に動いていいよ、と念じたら勝手に動き始めて・・・」



「いや、問題は行動ではなくて、あの蝿自身の強靭さであろう」



「ああ。まさかルージュが弾き飛ばされるとは夢にも思わなかった。全力だったんだろう?」



「全力だった・・・正確には魔法を使わないレベルでの全力だがな」



「それにしたって異常過ぎる」



 何をどう考えても一匹の蝿があれ程までの力を得たことの説明ができない。すると、ぼそりとルージュが言った。



「・・・ラスキャブと出会った時に戦った熊がいただろう」



「あ、あの時は、その必死で…」



「責めている訳ではない。あの蝿の個としてのポテンシャルは、大よそだがあの熊くらいあったと感じる」



「クローグレと同じくらいの強さがあったと?」



「ああ。たかだか蝿と思って侮って立ち向かったのが、あの失態の原因だな」



 ルージュは唇を噛んだ。



 そう聞いた時、オレの中に一つの仮説が思い浮かんだ。あの蝿と森で戦ったクローグレの強さの程度が同じくらいであったとするなら、他に考えようもない。



「ラスキャブ」



「は、はい。何でしょうか?」



「オレ達と戦った時も、あのクローグレを蘇らせていたのか?」



「そうです。とは言っても私の魔法で操れるようにしてましたが・・・」



「となると、あの蝿の出鱈目な強さについて一つ仮説がある」



「聞こう」



 ルージュは関心顔を向けてきた。オレは頭に過ぎった内容を上手くまとめながら徐に語り始める。



「確証はないがラスキャブは蘇らせた死体の強さは全て一定になるんじゃないのか。ともすればクローグレとポテンシャルが同程度だったというもの頷ける」



「なるほど。確かにそう考えれば納得だ。しかし…」



「何か引っかかるか?」



「それは屍術そのものの性質なのか?」



「どういう意味だ?」



「この世界にはアンデットが存在しているが、奴らの強さは別々だ。術師の力量に応じて蘇生された者の強さが決まるというような理屈だと多数の屍術師がいることになるが、屍術というのは希少な部類に入る魔術なのだろう?」



 ルージュの指摘はもっともだ。とはいえオレ自身も屍術について言うほどの見分がある訳じゃない。強さを振り分けることができるかもしれないし、時間経過などで強さが劣化するなど、いくつかの考えは浮かぶ。



 だがそれを言う前にラスキャブが口を挟んできた。



「き、基本的に皆さんが遭遇するアンデットというのは、あくまで自然発生するものです。魔力の乱れなどで生まれた膿のようなものが偶々死体に入って動いているだけですので」



 まるで子供でも知っている常識を諭すかのように言われてしまった。アンデットの発生については高位の魔術師たちが結論を出せずにいる事なのに。そしてそれ以上にラスキャブがそれを口にしたことに驚いた。



「お前、記憶があるのか?」



「今ふと頭の中に出てきたんです。何だかその手の知識がぐわんぐわんと…」



 ラスキャブは立ちくらみを起こしたようにへたり込んでしまった。



「混乱しているようだな。一先ずラスキャブの術の一端は知れた。危険な術だが、そもそも危険でない術などない、使い方をこれから考えればいいだけだ」



 オレは頷いて答えた。



「その通りだな。ルージュもラスキャブは少し休んでいろ。とにかく今はこの拘留が一早く解かれるのを祈るしかない」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...