魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
36 / 347
Episode1

戸惑う勇者

しおりを挟む

 不完全燃焼のもやもやを抱えながらも、宿へと戻っていった。



「何を話していたんだ?」



「今後の事についてだ。今なら無条件で解放してやるから、逃げたければ逃げろ、とな」



 やはりそうか。どう伝えるべきか思案あぐねいているところに助け舟を出してくれるのは本当にありがたい。そしてつくづく闘う以外に能のない男だなと実感する。



「ラスキャブの反応は?」



「私はラスキャブの怯えるか驚く以外の反応を見た事がない」



「まあ、出会って三日も立っていないんだから無理もない」



「・・・ここで別れることを思い立つのならば、何故ラスキャブを引き入れたのだ? 召喚士という職の戦術的価値だけだとは到底思えないのだが?」



「それは…」



 結局、自問自答も正解が出ず仕舞いだった。だからオレには正直に胸の内をいう他ない。



「それはオレも自分に聞きたい質問だな」



 ◇



 部屋へ戻ると青い顔をしたラスキャブが待っていた。まるで刑を執行される手前の死刑囚のような出で立ちだった。



「ルージュから大まかな話は聞いた。オレも同じ意見と思ってくれていい。オレの思い付きに付き合わせて悪かった。これからの事はお前の判断に委ねる」



 そういうとラスキャブはきっとオレ達二人を見据えた。その瞳に宿っている確かな気迫に少々驚いてしまった。そして言った。



「ワタシは…お二人について行きたいです」



「「…え?」」



 思わず二人で声を重ねてしまった。あり得ないと思っていた答えだったからだ。



「き、記憶がぼんやりとしたまま、あの森にいるのは怖かったですし、不安でしたし、寂しかったです…お二人と一緒にいるのも怖いですし、不安な事も多いですけど、でも、ずっと一人でいるよりも安心しましたし、楽しいなとも思ってました」



「・・・」



「い、今すぐというのはむ、む、難しいですけど、絶対にお役に立って見せます。だから、お願いします。ワタシも連れて行ってください。もう、一人ぼっちは嫌です・・・」



 危険が伴うとか、魔王に挑むというような脅し文句がいくつも頭に浮かんだが、それを口にすることはしなかった。覚悟ある申し出には、こっちも覚悟をもって応えなければ無礼だ。



 チラリと目を合わせたルージュも黙って頷き、ラスキャブに近づいた。



「よく分かった。それならばお前は我らの正式なパーティだ。我らに従う者には絶対の庇護を約束しよう」



「あ、ありがとうございます・・・」



 こうして新生したパーティに一番目の仲間が加わった。正直、このまま分かれてもいいと強がりを通していたが、実際問題彼女の持つ召喚術は旅の序盤ではとても頼りになる。戦闘においては問題はないとはいえ、それだけでは立ち行かない問題は数が多い。



 話が上手く纏まろうとしていた。だが、そうは行かなかった。



 恐る恐る手を挙げたラスキャブが、いかにも申し訳なさそうに言う。



「と、ところで。言い忘れていたと言いますか、言うタイミングがなかったことがありまして・・・」



「なんだ?」



「あの、ワタシ・・・『召喚士』というヤツではないんです、多分・・・」



 オレは耳を疑った。前に戦ったクローグレは幻覚などではないし、実物を操作していた訳でもないはずだ。召喚したのでないのなら一体何だったというのか。



「どういう事だ?」



 ラスキャブはやはり申し訳なさそうに答えた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...