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Episode1
圧倒する勇者
しおりを挟むオレが剣を握ったことで、ギルド内の全員がオレと闘う大義名分を得た。
戦闘態勢を取った敵は八人。
武器を持っている奴が四人。ギルド従事者が二人。手ぶらでいるのが二人。残りの数名は非戦闘員の様で壁際に退避した。
不安材料はこの手ぶらの二人と一体誰がパーティを組んでいるのかが不明なところ。単独か連携か、戦闘スタイルがパッと見た現状では分からない。
「魔族を飼い慣らす術が発見されたせいで、少し力のある魔族を手に入れただけで調子に乗る阿呆が多いんだよ。魔族の力をさも自分の実力だと勘違いして、由緒ある『煮えたぎる歌』にやってくる・・・テメエみてえな奴を見てると反吐が出る」
オレの一番近くにいたササス族の男がそう言った。
「・・・」
なるほど。どうやら魔族を使役するのが万人に認められている訳ではない様だ。その事実にオレは少し嬉しくなった。
◇
獣がじゃれて噛みついたり引っ掻いたりするのと同じように、『煮えたぎる歌』では乱闘や小競り合いは日常茶飯事だ。だから各所にある『煮えたぎる歌』のギルドは一階の天井が高く作られたり、机が頑丈だったり固定されていたりと他のギルドと些いささか異なる造りになっている。
オレに悪態をついたササスの男はこちらの真上へと飛んだ。ササス族は隼の特色を色濃く持っている。室内とは言え、飛行力は健在であり最も脅威だ。
そうして一瞬、上に気を取られた隙をついて下からは、残っていた内の四人が攻撃を仕掛けてきた。という事は、この五人が一つのパーティなのだろう。
連携が大分慣れている。昨日今日に組んだ連中ではない様だ。
そして。
奇しくも、かつてのオレと同じく五部族が一人ずつ組んでいるパーティだった。懐かしさやら、行き場のない憤りやら、色々な感情がごちゃ混ぜになったような感覚に陥る。
が、戦士の性か、敵の動きに体は反応してくれた。
◇
先陣を切る二人は得物は槍だ。流石に殺すつもりはないようで刃は鞘に収まっている。けれども勢いも闘気も本気であるのは間違いない。
二人のコンビネーションは上々。息のあったタイミングで引いた槍を突き出すその刹那、先んじて一歩だけ前に出た。そしてまるで二人を抱擁するかのように両腕を広げた。
まさか前に出てくるとは想定していなかったのか、一人は腕に勝手にぶつかって、のけ反るように倒れてしまった。辛うじて寸でのところで躱した方も体勢は見るからにに崩れていたので、刃を当てないように剣を立てて押してやると簡単に吹っ飛んでいった。
オレはそこから身体を半回転させると、地上に残っていた二人に向かってわざと背中を向けたまま軽く飛んで距離を詰めた。
「え」
と、漏れるような相手の息遣いが耳に届いた。
あからさまな隙を作る不可解な行動は、こういうある程度戦い慣れた連中には特に効果的だ。経験則が通用しない事で思考が止まり、防御も回避も間に合わなくなる。
飛んだ勢いを殺さず剣の柄を右側にいた男の腹に入れる。蹲った男を目の端で捕らえてから、最後に残った女を見る。彼女は未だ思考停止から抜け出せていない。
オレは剣を諸手で握り、逆袈裟に斬り上げた。切っ先が女の前髪を撫でる。無防備な精神に斬られていたかもしれないという事実と恐怖が急に襲ってきたので、女は自重を足だけでは支えられなくなってしまい、その場にへなへなと座り込んでしまった。
最後に俺は剣を上に向かって放り投げた。ササスの男は飛んでくる剣を辛うじて躱したが、それは元々当てるつもりがないから問題ない。剣に気を取られている隙に、オレはテーブルを足掛かりにして跳躍する。そして男の足首を掴み、それを床をめがけて叩きつけた。
放った剣を取って着地を決めると、呆然としていた残りの三人を見た。
一間あけてから全ての状況を飲み込んだ三人は、武器を投げ捨て無言のまま降参する。
◇
物語や歌劇のように歓声が上がることはなく、しばらくは静寂だけがギルドの中を我が物顔で闊歩していた。
とりあえず、名誉回復はできただろうか?
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