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Episode1

地図見る勇者

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 明朝。



 オレは目を覚ますと宿屋の店主に紙とペン、そして地図を貰おうと思いたった。



 ベットには誰も横になっていない。



 オレはいつしか横になると眠れなくなる癖がついていて、昨日の夜に座ったまま寝るからと言ってベットをルージュとラスキャブに譲った。するとルージュは、



「主を床に寝かせて、私がベットで横になるなどあり得ぬ」



 と言い出して、ラスキャブにベットを譲るとオレの隣に腰かけた。すると今度はラスキャブが、



「お、お二人を差し置いて私だけがベットだなんて怖くて眠れません」



 と言ってオレ達とは対面の壁を背にして床に横になってしまった。



 だから部屋を取っておいて誰一人としてベットを使わないという寸劇のような状況になってしまっていた。



 ◇



 オレは隣にいるルージュを起こさぬようにそうっと立ち上がったが、無駄な気遣いだったようだ。目をつぶっていただけだ、と言わんばかりに覚醒するとすくっと立ち上がった。オレに従う者としての矜恃なのか、それとも剣の化身は睡眠を必要としないのかは分からなかった。



「どこかへ行くのか?」



「ああ。宿屋の主に言って紙とペンと地図を買ってくる」



「心得た。ラスキャブはどうする? 起こしておくか?」



「いや、その必要はない。話し合いはするが、その前に支度がある。お前ももう少し休んでいていいぞ?」



「もう十分だ」



 オレは下に降りると昨日とは違う男が受付に立っていた。



 念のためにもう一泊、同じ部屋を取ると本命の今朝の新聞と近隣の地図と、それに付け加えて世界地図を買った。八十年の空白期間があるのだ。情勢が変動していても何ら不思議はない。ひょっとすると、予定してたかつてのルートを辿ることはできなくなっているかも知れない。



 部屋に戻るとラスキャブが目を覚ましていた。ルージュが起こす訳も無いので、勝手に起きたんだろう。



「お、お早うございます・・・」



 自分が最後に起きた事を落ち目に感じているのか元気がない。まあ、仮にオレがラスキャブの立場だったらと考えると、それも無理からぬことだろう。だからまるで気にしてはいないという態度を見せた。



「ああ、お早う」



 ◇



 こうなっては仕方ないので早速話し合いを始めることにした。まず机の上に世界地図を広げると、三人でそれを覗き込むように見た。



 オレ達の世界は大きく分けて「螺旋の大地ヴォルート」と「囲む大地エンカーズ」の二つがある。螺旋の大地ヴォルートを中心にその周りを巨大湖が囲み、更にその湖を囲む大地エンカーズが覆っている。囲む大地エンカーズの更に外側には今のところ小さな島々を除いては海しかなく、大陸と呼べるような陸地は見つかっていない。



 ラスキャブは元より、ルージュも世界地図は初めて見たようで、感嘆の息を漏らしていた。



「・・・まるでドーナツのようだな」



「ドーナツ?」



 耳慣れない言葉だった。



 するとルージュは一瞬だけしまった、という表情を浮かべた後すぐに苦虫を噛み潰した様な顔をして言った。



「魔王が好んで食べていた菓子の名だ。丁度こんな具合に輪になっていたから思い出した」



「・・・そうか」



 オレは地図に目を戻した。やはりというべきか、知らない国の名がいくつかあったし、逆に消えてしまった国の名もあった。とは言え、それは別段二人に伝えても詮無い情報だ。オレは今自分たちのいる町のところへ指を置いた。



「ここが現在地だ。大雑把な説明になるがここからまずは湖を渡るために港を目指す。航路によりけりだが島をいくつか経由して螺旋の大地ヴォルートに入る。それからは五つの試練を突破し螺旋の中心にある魔王の城へと至るわけだ」



「船で行くと言う事か? 螺旋の大地ヴォルートに踏み込んだら戻れないという話ではなかったか?」



「正確に言えば第一の試練の先からが戻れないんだ。その手前の・・・この辺りには街がある。ここまでだったらギリギリ後戻りは可能だ」



「あの~」



 と、ラスキャブが恐る恐る手を上げて質問してきた。



「どうした? 見覚えのある地名でもあったか?」



「い、いえ。残念ながら記憶に関わるようなことではないんですけど・・・この囲む大地で一周するのにどれくらいかかるんですか? 目安なんですけど、道程の参考に」



「この地図だって尺度が合っているかは不明だが、確かリホウド族の男が乗り物を使わずに歩いて半年で一周して、世界記録になったという話をどこかで聞いたことがあったな。もっとも八十年前の話だが」



「はえ~」



 と、素直に関心するラスキャブの性格が今一読みきれない。見た目だけの年相応さにはうなずけるが、とても猛者には思えない。



 しかし、今考えることではないと自問自答して話を元に戻した。



「というわけで、ここの港町を目指すことになるが単純な見積もりでも一ヶ月かかる計算だ。ギルドへの登録を済ませた後は、旅支度を整えて一泊。明日の朝一番で出発することにしよう」



 そう結論付け、後片付けをした後、オレ達三人は目当てのギルド登録所を目指して外へと出た。

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