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Episode1

案ずる剣

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 主の食べる速さは相当のモノだった。噛まずに飲み込むと言っても差し支えない。



 いつかどこかで良い戦士ほど早食いになると聞いたことがある。食事は生きていく上で必要不可欠な要素であり、憩いとなる場合も多いだろう。けれども食事という行為はそれだけ隙を晒すことにもなる。だから、良い戦士というのは必然的に早食いになると聞いたことがある。もっとも狼の性質を色濃く持つフォルポスという部族柄もあるのかもしれないが。



 食べ終わった主は、私に構うことなく今後の動向についての考えを喋りはじめた。



 主は構わぬ様子で勧めたが、仮にも従者の立場からして共に食卓を囲んだり、主が物申している中で食事をするというのは気が引ける。宿を取る時も女の魔族を二人も連れているせいで、宿屋の主人が下世話な目を向けてきていたがそれを気に留めている様子はない。



 というよりも、そもそもどちらの事もきっと気がついてすらいないのだと思う。



 それに・・・先程のことも、早合点で主を切り捨てようとした私を多少なり咎めてもいいものを、まるで何事もなかったかのように振る舞っている。私が主を買っている分、私もまた主に買ってもらっているということだろうか。いや、それにしたって遺恨は少なからず残ったとしても不思議はないはだず

・・・。



 ほんの二日間、一緒にいただけだが主は戦闘に関わることであれば卓越で類稀なるセンスや知識を働かせる。しかし、他の事になるとだいぶ無精になるようだ。



 烏滸おこがましいとは思うが、その辺りのことは私が手綱を握らなければならぬかもしれない。



 ◇



「予定通り明日はギルドへの登録とやらをする」



「ということはアテは決まったのか?」



「ああ。というか、オレのいた時代から八十年経過しているといいう事実を受け止めたらアレコレ考えるのが馬鹿らしくなった。あの頃はそこそこ名の知れたパーティだと自負していたが、もう小細工をする必要は薄いだろう」



 ・・・それは些か早計な気もする。町の様子と新聞だけでは情報が足りなすぎるし、時間経過を除いたとしても私には主の自己評価が大分過小評価な気がしてならない。



 あの城での戦いの様子は見ていた訳ではないが、気配だけで大方の予想はできる。突然の裏切りがあった直後のあの立ち回りを鑑みると、元々かなり名の知れた戦士だったとしても何ら不思議はない。



 早計と言えば、ラスキャブの事も気になる。



 召喚士という職業の重要性は、まあ分からない話ではないが、それでもわざわざ魔族を共連れにするにはリスクの方が大きいはずだ。



 そう言えば、試練のことを引き合いに出していたが、それも気にかかる。かつて私があの男に振るわれていた頃にも試練の存在は知っていたが、紋章を授かった者は二度と同じ試練を受けることができないだけで、一度通過したら戻れないという話は聞いたことがない。



 どちらにせよ、やはり早計のような気がしてならない。



 さしもの私も本人が気が付いていない感情や記憶を読み取ることはできない。ともすれば主は、自分でも気づいていないほど焦っているのかも知れないと思った。
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