魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
25 / 347
Episode1

説明する勇者

しおりを挟む

 再び掴んだ剣は、先日よりも手に馴染んだ気がした。



 つい衝動を抑えきれず、上段に構えてから一撃だけ素振りをする。空を切っただけなのに、一つの戦闘を終えたかのような満足感で満たされてしまう。それはすぐにルージュにも伝わったようで、また人の姿に戻った。



 雨降って地固まるとはよく言ったもので、蓋を開けてみればオレとルージュの絆みたいな何かがより強くなったようで安心する。



 まるで恋仲の男女のようだな。



 と、自分で思い立って可笑しかった。そしてそんな考えを思いついたのが、ルージュから手を離した後で良かったとも思った。



 それからはお互いに黙ったままで部屋に戻っていった。何となく謝ろうかとも思ったが、結局どちらからも謝罪などはしない。沈黙だけで十分だったからだ。剣と剣士の関係など、本来は黙して語らずで成り立つ。口にするのはむしろ礼を欠くと言ってもいいだろう。



 それにしても、オレを見限った時と再び信頼を得た時のルージュの眼光の差には驚かされる。今は春の日差しのような暖かさを帯びていて、さっきの氷河の冷たさは面影も残っていない。女というものの恐さは種族の垣根を超えるのかも知れない。



 ◇



 部屋に入る前に、ふと気が付いたことがある。どうすべきか、ルージュの手を取って相談してみることにした。



(ラスキャブには伝えるべきか? オレ達のことは)



(難しいところだな。少なくとも八十年の時間が過ぎているなどという事を言い出したのだ。何かしらのフォローはすべきだと思うが・・・妙案は思い付かん)





 オレも上手い言い訳などは思い付かなかったが、いつまでも廊下に突っ立っている訳にもいかない。



 部屋に入ると律儀にもラスキャブは起きていた。



「お、おかえりなさい」



「ああ。メシは食べたか?」



「はい。頂きました」



 ラスキャブはそそくさと立ち上がり、オレとルージュの分の食事を簡単に並べてくれた。従者に食事の支度をさせるなんてことは慣れていないので、何ともくすぐったい気持ちになったが、有難く礼を言って食べ始めた。



「なあ、ラスキャブ」



「うわあ! は、はい、お水ですかっ?」



「いや、そうじゃない。話しておこうとおもってな」



「な、何をでしょうか?」



「この期に及んで真相を全て話すことができないのは心苦しいが、理解してくれ。とにかくさっきの新聞を見て驚いたのはオレの記憶している最後の年から八十年が過ぎていた事に対してだ。とある理由でオレとルージュは八十年間眠っていたらしくてな、つい二日前にあの森の手前の草原で目を覚ましたところという訳だ」



「はあ・・・なるほ、ど?」



 あからさまに全部を飲み込めていないという顔をしているが、ラスキャブはラスキャブで記憶喪失なのだから仕方がない。ひょっとすると八十年の時間の差異よりも、そっちの方が深刻な問題かも知れないと感じた。



「ともあれ、八十年の空白があるとは言え、ずっと閉じ込められていた私と記憶のないラスキャブに比べれば、はるかに主様のが役に立つ場面は多いだろう。これからどうやって歩を進めていくのか、それを決めるのが主様の役目であり、我らがそれに従うという肝心なところは何も変わってはおらん」



「まあ、その通りだな。メシが終わったら寝る前にもう一度だけ今後について相談することにしよう」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...