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Episode1
説明する勇者
しおりを挟む再び掴んだ剣は、先日よりも手に馴染んだ気がした。
つい衝動を抑えきれず、上段に構えてから一撃だけ素振りをする。空を切っただけなのに、一つの戦闘を終えたかのような満足感で満たされてしまう。それはすぐにルージュにも伝わったようで、また人の姿に戻った。
雨降って地固まるとはよく言ったもので、蓋を開けてみればオレとルージュの絆みたいな何かがより強くなったようで安心する。
まるで恋仲の男女のようだな。
と、自分で思い立って可笑しかった。そしてそんな考えを思いついたのが、ルージュから手を離した後で良かったとも思った。
それからはお互いに黙ったままで部屋に戻っていった。何となく謝ろうかとも思ったが、結局どちらからも謝罪などはしない。沈黙だけで十分だったからだ。剣と剣士の関係など、本来は黙して語らずで成り立つ。口にするのはむしろ礼を欠くと言ってもいいだろう。
それにしても、オレを見限った時と再び信頼を得た時のルージュの眼光の差には驚かされる。今は春の日差しのような暖かさを帯びていて、さっきの氷河の冷たさは面影も残っていない。女というものの恐さは種族の垣根を超えるのかも知れない。
◇
部屋に入る前に、ふと気が付いたことがある。どうすべきか、ルージュの手を取って相談してみることにした。
(ラスキャブには伝えるべきか? オレ達のことは)
(難しいところだな。少なくとも八十年の時間が過ぎているなどという事を言い出したのだ。何かしらのフォローはすべきだと思うが・・・妙案は思い付かん)
オレも上手い言い訳などは思い付かなかったが、いつまでも廊下に突っ立っている訳にもいかない。
部屋に入ると律儀にもラスキャブは起きていた。
「お、おかえりなさい」
「ああ。メシは食べたか?」
「はい。頂きました」
ラスキャブはそそくさと立ち上がり、オレとルージュの分の食事を簡単に並べてくれた。従者に食事の支度をさせるなんてことは慣れていないので、何ともくすぐったい気持ちになったが、有難く礼を言って食べ始めた。
「なあ、ラスキャブ」
「うわあ! は、はい、お水ですかっ?」
「いや、そうじゃない。話しておこうとおもってな」
「な、何をでしょうか?」
「この期に及んで真相を全て話すことができないのは心苦しいが、理解してくれ。とにかくさっきの新聞を見て驚いたのはオレの記憶している最後の年から八十年が過ぎていた事に対してだ。とある理由でオレとルージュは八十年間眠っていたらしくてな、つい二日前にあの森の手前の草原で目を覚ましたところという訳だ」
「はあ・・・なるほ、ど?」
あからさまに全部を飲み込めていないという顔をしているが、ラスキャブはラスキャブで記憶喪失なのだから仕方がない。ひょっとすると八十年の時間の差異よりも、そっちの方が深刻な問題かも知れないと感じた。
「ともあれ、八十年の空白があるとは言え、ずっと閉じ込められていた私と記憶のないラスキャブに比べれば、はるかに主様のが役に立つ場面は多いだろう。これからどうやって歩を進めていくのか、それを決めるのが主様の役目であり、我らがそれに従うという肝心なところは何も変わってはおらん」
「まあ、その通りだな。メシが終わったら寝る前にもう一度だけ今後について相談することにしよう」
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