4 / 18
はぐれ農家は片田舎で世界を憂う
第四話
しおりを挟むラジェードたち勇者一行は、王宮で報告を受けた後すぐさま兵と共に王都を出発し、リアトレイ村を目指していた。
魔王討伐の要であることを考慮され、魔動車輪という乗り物に乗せられ移動している。天馬や翼竜、馬などに比べると少々遅いが、運転をする魔導士の魔力を消費するだけなので、余計な体力を使わなくて済むのだ。
車内に押し込まれた勇者たちは、魔王軍と衝突するまで出来ることは何一つない。だから、誰となく何故魔王が復活し、何故アリナミドに現れたのかを考察し合っていた。
「一体どうなってんだよ」
ラジェードはパーティの仲間だけになら構わないだろうと思い、自分の中で纏まっていた仮説を唱えてみた。
「・・・恐らくだが、僕たちが倒したのは肉体だけの魔王だったんだ。リーザレフの封印の力を逆に利用して思念だけの存在になるために、わざわざ派手な演出までつけてやられたふりをした」
「何の為に?」
その問いには、リーザレフが毅然と答える。
「魔王はあの城から出ることが出来ないから・・・そうですよね? 勇者様」
流石だな、と言わんばかりの表情でラジェードは思わせぶりに頷いた。
「ああ。あの地に湧き出る膨大な魔力の受け皿として自分の体を使っていたからね。そもそも魔王があの実力を持っているのなら、わざわざ魔王城に籠っている理由はないんだ。自分から出向いていって人間たちを滅ぼせばいい・・・それができないからこそ、魔物を作って間接的に侵略を繰り返していたんだから」
「思念だけで私たちについてきて、聖都アリナミドに溢れているエネルギーを使って復活した、という訳ですか?」
「何千年かぶりに外に出た記念と俺達への見せしめのために、この国を滅ぼそうって算段か。ふざけやがって」
その時、青い顔をしてテイトクが呟くように聞いた。
「なあ、ということはこれから戦う魔王の実力は・・・」
「あの時の魔王は僕たちにわざと倒された、そして今まで貯めていた魔力を加算している、そう仮定するならば・・・あの時の魔王よりもはるか強いということになる」
「「・・・」」
全員が言葉を失った。
それは無理からぬことである。魔王城での戦いで全霊を尽くさなかった者など一人もいない。全員が持てる力を全て出し切っていたのだ。それさえも魔王が芝居を打つためだけに利用されたとなると、全力の魔王と戦って勝てるヴィジョンなど浮かぶはずもなかった。
その沈黙は、まるで無限に続くかと思われた。
だが、それは案外あっさりと終わってしまった。クリスティーナが静寂を破ったのだ。
「ねえ、なんか妙じゃない?」
「何が?」
「魔王の一団が首都を目指して進行してるんだとしたら、とっくにかち合ってもおかしくないでしょ? このまま行ったらミデカー村に着いちゃうわよ?」
「確かに」
全員がはっとした。
警備隊や先行した王都の兵士たちがそこまで善戦をしているのか、と頭に過ぎったが、多少の善戦で食い止められる道理がない。魔王だけならいざ知らず、軍団を率いてやってきたと報告にあったはずだ。
そうこうしているうちに魔動車が止まった。森の中に入る道が狭すぎて、これ以上進むことが難しいらしかった。
「構わない。もう目と鼻の先だ、自分たちの足で行く」
ラジェードのその言葉にパーティ全員の表情が引き締まった。
いくら弱気になろうとも、どれだけ恐ろしかろうとも自分たちしか勝ち目のある戦いを出来る者などいないのだと、それぞれが口にこそしないが、そうやって自分を鼓舞していた。
(ザウルッ! お願いだから無事でいて)
そう願いながら、リーザレフは真っ先に駆け出したのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる