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はぐれ農家は片田舎で世界を憂う

第四話

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 ラジェードたち勇者一行は、王宮で報告を受けた後すぐさま兵と共に王都を出発し、リアトレイ村を目指していた。



 魔王討伐の要であることを考慮され、魔動車輪という乗り物に乗せられ移動している。天馬や翼竜、馬などに比べると少々遅いが、運転をする魔導士の魔力を消費するだけなので、余計な体力を使わなくて済むのだ。



 車内に押し込まれた勇者たちは、魔王軍と衝突するまで出来ることは何一つない。だから、誰となく何故魔王が復活し、何故アリナミドに現れたのかを考察し合っていた。



「一体どうなってんだよ」



 ラジェードはパーティの仲間だけになら構わないだろうと思い、自分の中で纏まっていた仮説を唱えてみた。



「・・・恐らくだが、僕たちが倒したのは肉体だけの魔王だったんだ。リーザレフの封印の力を逆に利用して思念だけの存在になるために、わざわざ派手な演出までつけてやられたふりをした」

「何の為に?」



 その問いには、リーザレフが毅然と答える。



「魔王はあの城から出ることが出来ないから・・・そうですよね? 勇者様」



 流石だな、と言わんばかりの表情でラジェードは思わせぶりに頷いた。



「ああ。あの地に湧き出る膨大な魔力の受け皿として自分の体を使っていたからね。そもそも魔王があの実力を持っているのなら、わざわざ魔王城に籠っている理由はないんだ。自分から出向いていって人間たちを滅ぼせばいい・・・それができないからこそ、魔物を作って間接的に侵略を繰り返していたんだから」

「思念だけで私たちについてきて、聖都アリナミドに溢れているエネルギーを使って復活した、という訳ですか?」

「何千年かぶりに外に出た記念と俺達への見せしめのために、この国を滅ぼそうって算段か。ふざけやがって」



 その時、青い顔をしてテイトクが呟くように聞いた。



「なあ、ということはこれから戦う魔王の実力は・・・」

「あの時の魔王は僕たちにわざと倒された、そして今まで貯めていた魔力を加算している、そう仮定するならば・・・あの時の魔王よりもはるか強いということになる」



「「・・・」」



 全員が言葉を失った。



 それは無理からぬことである。魔王城での戦いで全霊を尽くさなかった者など一人もいない。全員が持てる力を全て出し切っていたのだ。それさえも魔王が芝居を打つためだけに利用されたとなると、全力の魔王と戦って勝てるヴィジョンなど浮かぶはずもなかった。



 その沈黙は、まるで無限に続くかと思われた。



 だが、それは案外あっさりと終わってしまった。クリスティーナが静寂を破ったのだ。



「ねえ、なんか妙じゃない?」

「何が?」

「魔王の一団が首都を目指して進行してるんだとしたら、とっくにかち合ってもおかしくないでしょ? このまま行ったらミデカー村に着いちゃうわよ?」

「確かに」



 全員がはっとした。



 警備隊や先行した王都の兵士たちがそこまで善戦をしているのか、と頭に過ぎったが、多少の善戦で食い止められる道理がない。魔王だけならいざ知らず、軍団を率いてやってきたと報告にあったはずだ。



 そうこうしているうちに魔動車が止まった。森の中に入る道が狭すぎて、これ以上進むことが難しいらしかった。



「構わない。もう目と鼻の先だ、自分たちの足で行く」



 ラジェードのその言葉にパーティ全員の表情が引き締まった。



 いくら弱気になろうとも、どれだけ恐ろしかろうとも自分たちしか勝ち目のある戦いを出来る者などいないのだと、それぞれが口にこそしないが、そうやって自分を鼓舞していた。



(ザウルッ! お願いだから無事でいて)



 そう願いながら、リーザレフは真っ先に駆け出したのだった。

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