貸与術師と仕組まれたハーレムギルド ~モンスター娘たちのギルドマスターになりました~

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
35 / 86
エピソード2

貸与術師とギルド『マドゴン院』

しおりを挟む
「まず初めに。『マドゴン院』はヱデンキアの医療の大元を牛耳ってます」
「それは知ってる」
「元々『マドゴン院』は今の『アネルマ連』みたいに農耕に従事してたギルドだったんだけど、大昔に薬草の栽培が成功して以来、そっちの研究が盛んになってヱデンキアに医療機関として貢献するようになったの」

 鼻高々に胸を張りながら、張り切った声で説明が続く。

「その延長的な役割として、ゴミ処理とか下水処理、公共衛生を担う保健機関の役割も担うようになっていった。さっき言ったみたいに難民救助もやっているからね、端的に言えばヱデンキアの社会基盤の底を支えているのはアタシ達『マドゴン院』なんだよ! カッコいいでしょ?」
「そこら辺は社会科見学で見たことあるよ」

 数年前の記憶が反芻される。初等部の各ギルドの見学は花形イベントだったからよく覚えている。

 他にも介護福祉だったり、粗大ゴミを使ってアート作品ににするリサイクル・パフォーマンスを見たりもした。俺は当時からじっちゃんの影響で絵の他にも芸術全般に興味があったからワクワクしながら見ていた。

 確かに医療や社会福祉、災害復興に強いノウハウを持つギルドには違いない。けど何事にも表があれば裏もある。俺は子供の頃からよく聞く『マドゴン院』の噂の真相を思い切って訪ねてみることにした。

「一ついい?」
「なあに?」

 俺が興味を持って質問をしたのが余程嬉しかったのか、マルカは柔和でおっとりとした笑顔を向けてきた。束ねられた髪が尻尾のように揺れている。

「『マドゴン院』がやってる死体を使って怪しい実験をしてる、って言う噂は?」
「あ、それ? ホントだよ」

 …。

 信憑性が高いから本当だろうなとは思っていたけど、そこまで明け透けに認められると何とも妙な心持になってしまう。当のギルド員本人も、まるで何でもない様な顔と態度で追加説明してくる。

「そんなに怖い話じゃないよ。死ぬっていうのは生き物として当然のサイクルでしょ? そしてできる限り生きていたいっていう欲求も生物としては当たり前の感覚だし。生と死は別に相反する概念じゃなくて、二つで一つのもの。そのサイクルを適切に、効率的に世界に反映させるのがアタシ達の務めなんだよね。死体の研究と利用はその一環なだけ」
「…」
「医学の進歩の上で解剖は必須でしょ? ヲル君だって風邪を引くし、ご飯を食べている。けどその治し方はどうやって分かったと思う? この食べ物には毒はない、あったとしてこうすれば食べられるようになるって分かったと思う? これまでの膨大な死のデータを適切に解析してきたからこそ、あたし達は今を安全に生きて行けている。そして未来の子供たちの為に死体を研究する。それだけだよ」

 魔法や屍術が当たり前に存在しているこのヱデンキアという世界において、死体の研究をするというのは尋常ではない狂気を感じる。いや、魔法のない世界であったとしても死体の研究と言われたら、例えそれが医学的だったとしても生理的な嫌悪感を持つのが普通の感覚だろう。

 素直な感想を言ってしまえば少し怖い…けど、生と死が相反するものではないという考え方は同意だ。頭ごなしに否定はしたくないし、そもそも否定するほど非人道的な事は言っていない。

 思ったよりも心に刺さった言葉を落とし込もうとしていると、俺の耳にマルカの含み笑いが聞こえてきた。

「エヘヘ」
「なに?」
「ヲル君が今の話を聞いて、否定的な態度を取らなかったってだけで、お姉ちゃんは満足」

 マルカは滑るように俺の眼前に陣取る。お互いに息の掛かる距離にまで顔を近づけているというのに女性と対峙している緊張感も恥ずかしさも出てこないのは、俺が今、恐怖しているからだろう。

 何となくだが、マルカの目の光りが鈍くなったように思えた。何もしていないはずなのに、部屋が妙に寒く感じる。

 あれ? 知らない間に地雷踏んだりした?

 不吉な執着心が滲み出る。早い話がアレだ、このマルカというアウラウネはヤンデレっぽい何かを心に抱えている感じがしてならない。

 蛇に睨まれた蛙の心境だ。

「ヲルカとマルカって一文字違いだし、なんか運命感じない?」
「いえ、特に」
「…もう、いじわる」

 そしてマルカは自分の右手の人差し指を強引に俺の口の中にねじ込んできた。その瞬間、舌の上にトロリとした甘い何かが広がった。

「何これ…甘い」
「アタシの花の蜜。友愛の証に、ね?」

 それがアウラウネにとってどんな意味を持つ行動だったのか、俺は知る由もない。指を俺の口から抜いたマルカは何かのスイッチが切れたかのように淡白な態度になってしまい、それが殊更不気味さとなってしまった。

 しかし、それでも決してマルカに対して否定的な感情を持つことはない。それが花の蜜のせいなのかどうなのか、俺には判断が付けられない。

 病的な笑みに見送られるままに部屋を出ると、廊下で必死に呼吸を整えた。そこまでして俺はマルカの迫力も然ることながら、彼女自身にも見惚れていことに気が付く。メロドラマ的な表現だけど、あの瞳に吸い込まれそうになっていた。

 ふと懐中時計を見ると丁度昼食時となっていた。

 例によってアルルから弁当を受け取った俺は、それを携えてとある部屋に向かって歩き出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...