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エピソード2

貸与術師と『スライム族』のラトネッカリ

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「ところで、他の『ランプラー組』が何処でどんな実験をしてるかは把握してる?」
「仲のいい奴らなら知ってるけど、流石に末端や反りの合わない連中の間では分からないなぁ」
「なら今、第14地区のディキャンで頻繁に起こっている落雷事件は『ランプラー組』のモノかどうかはわかるか?」
「あー、ディキャンの『サンダーボルト』事件かい?」
「そう」
「…何とも言えないね。ボクらのギルドかも知れないし、そうじゃないかも知れない」
「そっか」
「けど、そう聞くって事は落雷に関するウィアードがいるって事かな、少年」
「ああ」
「ラトネッカリが『ランプラー組』の実験だと断言してくれたなら調査に行く必要はないと思ってたけど、こうなると一度現地調査が必要だな。明日の予定に入れて…」

 と、明日からの活動予定を考えようと思った矢先、ラトネッカリに止められた。

「ちょっと待った」
「なに?」
「今から行ってみないか、少年。二人でね」
「は?」

 なんでそんな事を言い出したのか、真意が分からない。ひょっとして俺の事をからかって反応を楽しんでいるのか、何てことも考えたが始めてみるラトネッカリの真剣な表情にすぐ考えを改めて、話を聞いた。

「仮に『ランプラー組』の仕業だとしたら、全員で行くのは少々不安でね。まあ、ボク以外にはどんな実験なのか見ただけじゃわからないにしろ、研究者としてデータを横取りされたくないから妨害をしてくるかもしれない。それに、それとは別にサーシャ君とナグワー君は特に連れていきたくない」
「…なんで?」
「二人が『サモン議会』と『ナゴルデム団』だからさ。少年に付き従っているボクら十人は所属しているギルドと己の理念に反するような事が中立の家の中で起こったとしても、多少は目をつぶるだろう。少年の反感を買いたくないからね。けど外部のギルド員は違う。もしも『ランプラー組』の誰かの実験が「サンダーボルト」事件を引き起こしているのなら、彼女らは間違いなく制圧に動く。そうなったならボクは…多分二人と戦う」
「そっか。ウィアードの仕業じゃなかったらって事も考えないといけないのか…」

 そりゃそうだ。ギルド間の諍いは中立の家の活動だけで起こる訳じゃない。街中やウィアード関連の事件で外にいる方が可能性は上なんだから。

「ああ。突発的に出会ったんなら諦めもつくけど、今回みたいに可能性を示唆されてしまったら、やはりギルド員として衝突の懸念は潰しておきたい。だから、頼むよ。少年」
「…色々考えてるんだな、ラトネッカリ」
「当たり前じゃないか! 何て言ったってボクだからね。それに『ランプラー組』の実験だったらそれまででいいし、ウィアードだったら他の皆を出し抜いてデータを取れるしね」
「…」

 見直しかけてたのに、結局は自分の知識欲のせいかよ。

 けど、何となく安心感も抱いた。コイツはこういう奴なんだと。

「特に落雷に関するウィアードかも知れないんだろ? この機を逃しちゃ雷電の申し子たる、ラトネッカリ・ラトンウロンの名が廃るのだよ」

 雷電の申し子云々はこの際置いておいて、確かに全員を連れて行くのはリスキーだという事は同意見だ。俺はみんなの事をまだ全然知らない。いざという時に連携や意思の疎通がうまく行かない組織の儘で動くくらいなら、少数精鋭でいた方が都合がいい場面が多そうだ。特にウィアードが本当に居るかどうかすらわからないのなら尚更だろう。

「んじゃ、二人で行ってみるか。けど、あくまでも下見だからな」
「わかっているよ、少年」
「あ、そうだ」
「どうしたの?」

 勇んで準備をしようとした俺の出鼻をくじくように、ラトネッカリが俺の腕を掴んで足を止めた。無防備に振り向くと、何故か目の前にラトネッカリの顔があり、何の脈絡もないまま唇を重ねてきた。

 みずみずしいくず餅のような感触が脳みそにまで届いた瞬間、反射的にのけ反って童貞まるだしのリアクションで応えた。

「な、なな何してんの!?」
「だってワドワーレ君とはしたんだろ? ギルドの中で差別したらいけないよ、少年」

 そう言って微笑むラトネッカリに年上の余裕というか魅力のようなものを見て、俺は固まってしまった。

 あれ? よく見ると、このスライム可愛い…?

「さ、こっそりと出て行こう」

 そう言うとラトネッカリはオレを寝室へと案内した。キスをされた後に寝室へ案内されるとどうしたって色々と妄想が膨らんでしまう。スライム族の体質のせいでベットがビニールプールのような形をしていた事も青い欲情をかきたてる要因になっていた。ところがそんなピンク色な妄想はすぐに吹っ飛ばされてしまった。壁に隠していたボタンを押すと、重苦しいベットが移動して、外へと通じる穴というか通路のようなものが現れたからだった。

「まさか…作ったの?」
「そんな訳ないだろう、これは備え付けだよ。前の住人だって『ランプラー組』だったという事を考えれば何も不思議じゃない」

 妙に説得力のある説明を飲み込むと、他のメンバーには覚られぬように外へと出た。二人でこっそりと塀を乗り越えて表の通りに出た時、俺はそもそもな事を思い出して聞いた。

「でも勢いで出てきちゃったけど、ディキャンって遠くない?」
「それについて心配はいらないよ、少年。いいものがある」

 得意気に返事をしたラトネッカリは空間収納魔法を解除して畳一畳分もある板を一枚取り出した。機械的な光沢や電光を放っており、下には車輪が付いている。何これ? エンジン付きスケボー?

「この天才、ラトネッカリの発明した電磁推進装置だよ。中々のスピードが出るからね、ディキャンなんて5分で着く。幸いにもこの道を真っすぐだしね」

 なるほど。『ランプラー組』の発明品という事か。少なくとも自分らの作ったメカの効果性能に関して誇大表現はしないだろう。ラトネッカリも含め、経緯と結果に対しては忠実さを持つのが『ランプラー組』なのだから。

 とは言え、ここから5分で着くというのは俄かには信じられない。ひょっとしたらワープみたいな事も出来る機械なのかもしれないと思った。

 しかしながら、実際の移動方法はハイテクを用いた実にアナログな方法だったのである。
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