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エピソード2
貸与術師と密かな企て
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「ひとまずはこのような具合でしょうか?」
「おお、事務所っぽい」
昼食を食べ終わった後、再び全員が集まる。そして持ってきた荷物を整理しつつ、一階の応接間を模様替えする要領で事務所に仕立て上げていった。今後、ウィアードに関する相談や依頼はここで受けることになる。この部屋だけでも今までの事務所よりも広いので、何となく落ち着かなかった。
サーシャやハヴァは情報や機密を取り扱うギルドの従事者ということで、書類整理や保管、管理のノウハウを活かして機能的な事務室を作ってくれた。
他にも掃除は行き届いているし、花なんかも活けてあるし、運び込まれた調度品からは気品が溢れていた。
こうして見ると中々のチームワークを発揮しているかのように見えるのだが、注して見てみると確かに所々ぎこちないような気がした。やはり俺がいる手前、気を使ってはいるが全員が不発弾を持ちながら行動している様に見受けられる。その証拠に事務的な事を除いて、まるで会話がない。下手に喋れば爆発するという事を全員が承知しているのだ。
仲が良くなればいいな、とは思っていたが、このままだと俺としても居心地が悪い。やっぱりどうにかしてしまいたく思ってしまう…しかし所属ギルドや種族や年齢が違えども、彼女らには共通している事もある。
そう、性別だ。
短絡的な思考かも知れないが、女子なら共通の話題さえ提供することができれば案外打ち解けてくれるんじゃないだろうか。
問題は俺がそう言ったことに疎すぎて話題を振ることができないという点だろう。
女の人ってどんなことに興味があるの?
甘い物、ファッション、化粧、旅行、恋バナ…。
思い付きはするが、俺から切り出すのは不自然すぎるワードが並ぶばかりだ。
なら仕事の話は…ダメか。ギルドの話とかし出した日にゃ、火災現場にニトログリセリンを投入するような事になりかねない。
ならば発想の転換で俺の得意な話や、俺が振っても怪しくない話題を考えてみては?
例えばウィアード。
もしくはウィアード。
裏をかいてウィアード。
意外さを狙ってウィアード。
ここは素直にウィアード。
…いや、ありだな。
だって全員がウィアードについての見聞は広めたいと思っているはずだ。各ギルドからウィアードに対処するために集まっているんだから。きっとその点に関して全員の意思は揃っている…が、じっちゃんの話をするのは何故か俺の勘が引き留めてくる。
けれどどの道、今後の仕事を円滑にするためにはある程度の情報共有は必要だ。今は事務所の準備が片付いてキリがいいし、問題ないだろう。
「そしたら本格的な仕事に入って行く前に、『ウィアード』について俺が知ってることを教えるよ」
俺がそういうと、俄かに全員がざわめきだし、目の色を変えて聞き入る姿勢を取った。ひとまずは目論見通りだろうか。
「まず、何で俺がウィアードに接触ができるのかって事だけど。それは同じくウィアードの力を使ってるからなんだよね」
これは一昨日の鎌鼬の事件についてきてくれたメンバーは知っている。だから、あの時いなかった五人に向けて改めて説明している形だ。若干説明不足なので案の定、今一つ理解の及ばなかったナグワーが手を上げて質問してきた。
「どういう事でしょうか?」
「俺は撃破したウィアードの核を封じ込めて、それに自分の身体を貸し与えることで操ってるんだ」
実際に百聞は一見に如かずと言わんばかりに、俺は自分の右腕を鎌鼬の鎌に貸与した。途端に右腕が鋭い鎌にすり替わる。これは昨日の濡れ女子事件に居合わせた三人にも見せた。だから、この場で初めて見ることになったカウォンとマルカだけが、目を丸くして驚いている。
「貸与術はわかるだろ? アレのウィアード版だと思えばいい。この部分はウィアードだから、当然ウィアードに対して物理的な干渉ができる。それはカウォンとマルカ以外には見てもらったとは思うけど」
「…なるほどのぅ」
すると、真剣な面差しのカウォンがごくごく当たり前で根本的な疑問を投げかけてきた。
「理屈は分かるが、ならば初めのウィアードはどうやって対処したのじゃ?」
「ウィアードの中には特定の条件を満たせば、触ったりしなくても退治できる奴がいる。俺が初めて遭遇したのが、たまたまその類だったってだけさ。ヤーリンは中学の卒業試験の時に出てきたウィアードを覚えているだろ? あいつだよ」
「あの時の、黒いモヤモヤ?」
「そう。あれは『蟹坊主』ってウィアードだ」
「なら、坊やは退治したウィアードは全部そうやって使えるのか? 一昨日、オレ達が見た女と車輪のやつと大きな頭の奴も?」
ワドワーレの指摘を、俺は「いや、そう言う訳じゃない」と一言否定してから補足する。
「ウィアードを倒すと、偶に核みたいなのが残ってそれを封じ込めてるんだけど、ウィアード全部がそれを残す訳じゃない。何か条件があるのか、個体差なのかは俺もまるで掴んでいない」
「なら、今の君が封じているウィアードはどのくらい?」
「三体。今見せた『鎌鼬』の他に、『槍毛長』と『蟹坊主』っていうのを封じ込めてる」
腕を元に戻すと皆一様に黙り込んでしまった。疑問があるのか、理解に時間がかかっているのか、感心しているのかは知れない。
その内に、ハヴァさんがこれまた当然で本質的な質問を飛ばしてきた。
「ヲルカ様は、一体どこからウィアードについての見識を得ているのでしょうか?」
…来た。
この質問がぶっちゃけ一番困るのだ。じっちゃんの描いた画集の中の怪物が突如として具現化して来ており、暗記したまんまの対応をしているというのが真実なのだが、それを包み隠さず離していいものか、俺は踏ん切りがついていない。
隠す必要もないが、正直になる必要もない気がしているのだ。というか、最初に嘘をついたせいで言い出しにくくなっている節もあったりするのだけど。
だから少々心苦しいが、嘘をついてごまかしてしまった。
「それは…俺もよく分かっていない」
「と言いますと?」
「何故か頭の中にある、としか言いようがないんだよ」
「では、現段階ではどのくらいの数のウィアードについての知識をお持ちなのでしょうか?」
ああ、その質問なら本当の事を教えられる。最も正式に数えた事はないという前置きはあるが。
「正式な数は分かんないけど、ざっと五、六百体くらいは…」
「「ご、五、六百!?」」
しまった。そりゃ驚くに決まっている。
「そ、そんなにいるの!?」
「俺が知っている奴が、全部いるかどうかはわからないけど」
などと、中途半端なフォローを入れて見たものの、皆は言葉を失っている。
ウィアード一匹すら正体が掴めず、また既存の魔法の一切が通用せずに手を拱いているのだ。そんな存在が五百体以上もいるかもしれないとなったら、俺だって困惑していたに違いない。
全員をまとめて、コミュニケーションを取らせるばかりか変な不安を与えるだけの結果になってしまった。自分の不器用さが憎い…本当に俺なんかにギルドマスターが務まるのかしら。
「で、明日からの活動についてはちょっと待ってくれる? 考えておきたいことがあるから」
俺がそう取り繕って話題を終わらせると、今日の活動はそれで終了となった。
やはり、いきなり全員をまとめ上げようというのが無謀な話だったのだ。やはりまずは俺が全員の事を知らなければならないと思う。個々に話を聞いていては時間はかかるとは思うが、それでもそれが一番の近道であり、確実な方法に思えてならない。
そう感じた俺は、再び夕食を一人で取った後、行動に出ることにした。
「おお、事務所っぽい」
昼食を食べ終わった後、再び全員が集まる。そして持ってきた荷物を整理しつつ、一階の応接間を模様替えする要領で事務所に仕立て上げていった。今後、ウィアードに関する相談や依頼はここで受けることになる。この部屋だけでも今までの事務所よりも広いので、何となく落ち着かなかった。
サーシャやハヴァは情報や機密を取り扱うギルドの従事者ということで、書類整理や保管、管理のノウハウを活かして機能的な事務室を作ってくれた。
他にも掃除は行き届いているし、花なんかも活けてあるし、運び込まれた調度品からは気品が溢れていた。
こうして見ると中々のチームワークを発揮しているかのように見えるのだが、注して見てみると確かに所々ぎこちないような気がした。やはり俺がいる手前、気を使ってはいるが全員が不発弾を持ちながら行動している様に見受けられる。その証拠に事務的な事を除いて、まるで会話がない。下手に喋れば爆発するという事を全員が承知しているのだ。
仲が良くなればいいな、とは思っていたが、このままだと俺としても居心地が悪い。やっぱりどうにかしてしまいたく思ってしまう…しかし所属ギルドや種族や年齢が違えども、彼女らには共通している事もある。
そう、性別だ。
短絡的な思考かも知れないが、女子なら共通の話題さえ提供することができれば案外打ち解けてくれるんじゃないだろうか。
問題は俺がそう言ったことに疎すぎて話題を振ることができないという点だろう。
女の人ってどんなことに興味があるの?
甘い物、ファッション、化粧、旅行、恋バナ…。
思い付きはするが、俺から切り出すのは不自然すぎるワードが並ぶばかりだ。
なら仕事の話は…ダメか。ギルドの話とかし出した日にゃ、火災現場にニトログリセリンを投入するような事になりかねない。
ならば発想の転換で俺の得意な話や、俺が振っても怪しくない話題を考えてみては?
例えばウィアード。
もしくはウィアード。
裏をかいてウィアード。
意外さを狙ってウィアード。
ここは素直にウィアード。
…いや、ありだな。
だって全員がウィアードについての見聞は広めたいと思っているはずだ。各ギルドからウィアードに対処するために集まっているんだから。きっとその点に関して全員の意思は揃っている…が、じっちゃんの話をするのは何故か俺の勘が引き留めてくる。
けれどどの道、今後の仕事を円滑にするためにはある程度の情報共有は必要だ。今は事務所の準備が片付いてキリがいいし、問題ないだろう。
「そしたら本格的な仕事に入って行く前に、『ウィアード』について俺が知ってることを教えるよ」
俺がそういうと、俄かに全員がざわめきだし、目の色を変えて聞き入る姿勢を取った。ひとまずは目論見通りだろうか。
「まず、何で俺がウィアードに接触ができるのかって事だけど。それは同じくウィアードの力を使ってるからなんだよね」
これは一昨日の鎌鼬の事件についてきてくれたメンバーは知っている。だから、あの時いなかった五人に向けて改めて説明している形だ。若干説明不足なので案の定、今一つ理解の及ばなかったナグワーが手を上げて質問してきた。
「どういう事でしょうか?」
「俺は撃破したウィアードの核を封じ込めて、それに自分の身体を貸し与えることで操ってるんだ」
実際に百聞は一見に如かずと言わんばかりに、俺は自分の右腕を鎌鼬の鎌に貸与した。途端に右腕が鋭い鎌にすり替わる。これは昨日の濡れ女子事件に居合わせた三人にも見せた。だから、この場で初めて見ることになったカウォンとマルカだけが、目を丸くして驚いている。
「貸与術はわかるだろ? アレのウィアード版だと思えばいい。この部分はウィアードだから、当然ウィアードに対して物理的な干渉ができる。それはカウォンとマルカ以外には見てもらったとは思うけど」
「…なるほどのぅ」
すると、真剣な面差しのカウォンがごくごく当たり前で根本的な疑問を投げかけてきた。
「理屈は分かるが、ならば初めのウィアードはどうやって対処したのじゃ?」
「ウィアードの中には特定の条件を満たせば、触ったりしなくても退治できる奴がいる。俺が初めて遭遇したのが、たまたまその類だったってだけさ。ヤーリンは中学の卒業試験の時に出てきたウィアードを覚えているだろ? あいつだよ」
「あの時の、黒いモヤモヤ?」
「そう。あれは『蟹坊主』ってウィアードだ」
「なら、坊やは退治したウィアードは全部そうやって使えるのか? 一昨日、オレ達が見た女と車輪のやつと大きな頭の奴も?」
ワドワーレの指摘を、俺は「いや、そう言う訳じゃない」と一言否定してから補足する。
「ウィアードを倒すと、偶に核みたいなのが残ってそれを封じ込めてるんだけど、ウィアード全部がそれを残す訳じゃない。何か条件があるのか、個体差なのかは俺もまるで掴んでいない」
「なら、今の君が封じているウィアードはどのくらい?」
「三体。今見せた『鎌鼬』の他に、『槍毛長』と『蟹坊主』っていうのを封じ込めてる」
腕を元に戻すと皆一様に黙り込んでしまった。疑問があるのか、理解に時間がかかっているのか、感心しているのかは知れない。
その内に、ハヴァさんがこれまた当然で本質的な質問を飛ばしてきた。
「ヲルカ様は、一体どこからウィアードについての見識を得ているのでしょうか?」
…来た。
この質問がぶっちゃけ一番困るのだ。じっちゃんの描いた画集の中の怪物が突如として具現化して来ており、暗記したまんまの対応をしているというのが真実なのだが、それを包み隠さず離していいものか、俺は踏ん切りがついていない。
隠す必要もないが、正直になる必要もない気がしているのだ。というか、最初に嘘をついたせいで言い出しにくくなっている節もあったりするのだけど。
だから少々心苦しいが、嘘をついてごまかしてしまった。
「それは…俺もよく分かっていない」
「と言いますと?」
「何故か頭の中にある、としか言いようがないんだよ」
「では、現段階ではどのくらいの数のウィアードについての知識をお持ちなのでしょうか?」
ああ、その質問なら本当の事を教えられる。最も正式に数えた事はないという前置きはあるが。
「正式な数は分かんないけど、ざっと五、六百体くらいは…」
「「ご、五、六百!?」」
しまった。そりゃ驚くに決まっている。
「そ、そんなにいるの!?」
「俺が知っている奴が、全部いるかどうかはわからないけど」
などと、中途半端なフォローを入れて見たものの、皆は言葉を失っている。
ウィアード一匹すら正体が掴めず、また既存の魔法の一切が通用せずに手を拱いているのだ。そんな存在が五百体以上もいるかもしれないとなったら、俺だって困惑していたに違いない。
全員をまとめて、コミュニケーションを取らせるばかりか変な不安を与えるだけの結果になってしまった。自分の不器用さが憎い…本当に俺なんかにギルドマスターが務まるのかしら。
「で、明日からの活動についてはちょっと待ってくれる? 考えておきたいことがあるから」
俺がそう取り繕って話題を終わらせると、今日の活動はそれで終了となった。
やはり、いきなり全員をまとめ上げようというのが無謀な話だったのだ。やはりまずは俺が全員の事を知らなければならないと思う。個々に話を聞いていては時間はかかるとは思うが、それでもそれが一番の近道であり、確実な方法に思えてならない。
そう感じた俺は、再び夕食を一人で取った後、行動に出ることにした。
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