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最終章 メロディアの最後の仕事
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しおりを挟む何はともあれ無事に戻ってきた十人は一息付くためにテーブルに腰掛け…ようとしたのだが、メロディアの指示で床に座らされた。何故食堂のど真ん中にいて床に座らなければならないのかと甚だ疑問だった。極寒のダンジョンに比べればマシであるが芯まで冷えきった勇者達にとって店内の温度はまだ寒い。食事が始まるまでどうにか暖を取りたいと思った矢先、早速メロディアの持て成しが始まった。
「なんか、緊張するな」
「そうですね。一国の賓客にでもなったみたいに力んでしまいます」
「…にしてもなんで床?」
「もしかして継母になることをあまりよく思われていないのでしょうか?」
「…いやまさか、そんな」
寒さが不安が入り交じり、自然と口数が減る。すると人の姿となったバトンとメトロノームの他、リトムが給仕となって品を運んでくる。
がさつ、老練、緊張と三者三様の給仕だったが、皆の関心はすぐに料理に移った。
「ほらよ、オードブルからだ。ありがたく食いやがれ」
まず出されたのは小皿に盛られたのは干し肉、ナッツ、蜂蜜菓子と旅の携帯食としてよく用いられる材料を使った酒肴が三種、そして暖かなグラスワインだ。熱すぎず温すぎもしないワインの温度は冷えきった十人を胃の腑から暖めていき、生きた心地を与える。
クリーチャー討伐後の程好い緊張の緩和も手伝ってぐいぐいとワインが入っていくようだった。
「美味しゅうございますが、初めて頂くワインですね」
「そうですね、なんというワインなんですか?」
ドロマーとドロモカは給仕の三人を見た。しかしまともな答えは返ってこなかった。
「バーロー。ソムリエでもねえ俺に分かるわけないだろ」
「ほっほっほ」
「すみません。アタシも運んでるだけで…」
すると比較的料理に明るいミリーが呟いた。
「これファンガス・ワインだよ。キノコで作るワインでさ、安くて美味いんだけど名前の通りカビが生えやすいんだ。そのカビも味わい深いって飲む冒険者もいるけどな」
「へえ」
「ともかく冷え切ったところに温かい酒は格別だ」
「ごっめん。アタイお代わりもらっていい?」
「ははっ。相当に寒かったからな」
と、それぞれが杯を傾けて温かみを胃の腑で実感する。出された肴も甘味と塩味の組み合わせとなっていて、劇的に美味な訳ではないがつい顔が綻ぶようなじんわりとした味わいだ。
十人は最初こそ寒さと緊張で体を強張らせていたが、どんどんと足を崩してリラックスしてきている。自然と会話も増え、笑みも見え隠れしてきた。
すると給仕の三人はメロディアに呼ばれた。次の料理が仕上がったのだ。
「次はコレをお願い」
そう言ってカウンターに並べられたのは『キャノンフォドー』と呼ばれるスープ料理だった。
冒険者にとっては常識的なスープであり、調理も簡単なために重宝される。キャノンフォドーは要するにごった煮の事を指す。その時に使える食材をぶちこんで作るのでその名が付いたと言う。
キャノンフォドーはパーティの数だけ種類と味付けがあると言われている。
パーティを構成している人数や種族、あるいは調理に当たっての場所や食材などで全く異なった料理として仕上がるからだ。
ところでこの世界には『キャノンフォドーが食べたい』という言葉がある。それは引退した冒険者達が町での整った食事に飽き、野営でのデタラメな食事を思い出すときに使われるのだが、転じて昔を懐かしんだり、過去の栄光にしがみついている者を揶揄する意味を持っていたりもする。
スープの温かさはホットワインよりも熱く、口にした途端に十人はふうっと一息をついた。段階的に体を暖められたことにより、ようやく料理を味わう姿勢が整えられていた。いの一番にコレを出されていたとしたら寒さを凌ぐことだけを考えて録に味わうことはなかっただろうと、誰しもが口にせずとも頭に過らせていた。
今しがた戦ったセブンシックスとダンジョンの事について思いを巡らせる。一段落がついた後に今しがたの戦闘の反省を行うのは勇者パーティのルーティンだった。
久しぶりの連携、各々が悪堕ちによって身に付けた新しい力、そしてトーノの加入と話題には事欠かない。本人達にその意識があったのかどうかは知らぬが、給仕に当たっていた三人には勇者達の雰囲気が一変していることに気がついた。
先ほどまで纏っていた魔性や淫猥なオーラはなくなり、それぞれが真剣に技巧について考えを巡らせている。ベテランパーティの小休止というに相応しい、砕けつつも隙を残していない様相だ。それだけで彼らのキャリアが推し量れるし、そこに交ざるトーノの純粋な瞳が印象的だった。最早魔王ではなく、本当に一介の冒険者の顔つきになっている。
腹がこなれるといよいよがっつりとしたものが食べたくなる。そう感じさせた矢先に次の料理が運ばれてくる。
「図ったようなタイミング」
シオーナは誰に言うでもなくぼそりと呟きながら目の前の料理を見た。
次に出て来たのは『イオンニアスのフライ』だ。
イオンニアスとはムジカ大陸に広く生息する淡水魚で、それこそその辺りの河川、池、沼、湖などに広く分布している。その繁殖力は凄まじく、この世の最後はイオンニアスかゴキブリの一騎打ちとまで言われる程だ。
どこでも手に入るということは当然ながら安価で手に入ると言うことで、やはり冒険者には重宝される。塩焼き、煮付け、干物とどう食べてもそこそこ美味しいところが尚魅力的なのだ。
フライは当たり前のように絶妙な火加減で衣もサクサクとした食感と中のイオンニアスのフワフワな舌触りが小気味よい。同じ食材でも料理人が違えば、味も変わると言うことを思い知らされる。
その時、スコアは何かを言おうとしたのだが立て続けに運ばれてきた料理に遮られてしまう。
出てきたのは今しがたパーティで討伐してきた『セブンシックスの甲鱗焼き』だった。
通常の蛇よりも数百倍も巨大なセブンシックスは鱗も大きく固い。事と次第によっては武器や防具の材料にされる場合もある。その甲鱗をフライパン代わりにしてステーキとするのがこの料理だ。軽く塩を振ってあるようだが付け合わせのソースとその隣のパンもまた食欲を唆る香りを放っていた。
冒険者ならではの料理のオンパレードだったが、タイミングと献立の妙のせいでレストランでコース料理でも食べているような気がしてくる。
しかし。
リトムが同じく給仕に当たっていたバトンとメトロノームに向かって呟くように言った。
「なんか出される料理が冒険者用じゃない? 饗す感じがしないっつーか」
「そもそもモノを食わねえ俺等に聞かれたって分かんねえよ」
「ほっほっほ」
なんとも身のない返事しか返ってこない。けれどリトムの疑問にはトーノが代わりに答えた。
「これはわっちへの計らいでありんす」
「え?」
「きっとメロディアはこうなる事を読んでいたのでござりんす」
「それは…スコアが私達全員の説得に成功するのを見越して、ということですか?」
トーノは力強く頷く。
「うむ。そして細やかな夢を叶えてもらいんした。いつだったかメロディアに溢した事がありんす。スコアの様にあちこちを巡り、仲間と共にダンジョンを踏破し、仲間と野営しながら飯を食らってみたいとな」
「…」
「現に床に座らせて一見ぞんざいでありんすが、主等もすっかり昔を思い出して語らっておりんした。お陰でわっちも車座に入れて嬉しかった」
「確かにね。ダンジョンが終われば、いつもこうしてたっけ」
「メロディアには寝る前の御伽噺代わりに聞かせてたからな、俺達がどんな事してきたかは知ってるはず」
「ふふ、すっかりメロディア君のペースというか、演出に乗せられていたのですね」
「ということはトーノ様は元より私達にもキャノンフォドーを飲ませたかったという事でございましょうか」
「あはっ! かもね。アタイなんか懐かしくって涙出そうだよ」
スコア達はふとこれまでの道程を思い起こすと神妙な心持ちになった。本当に紆余曲折があって再び相見える事ができたのだと実感する。
まるで雪の下で春を待つ種のように、ようやく冬を終えて暖かな日差しに包まれていることを再認識させらているのだ。
どこまで考えて料理を作っているのかと、勇者達は元よりリトムも厨房の奥にいるメロディアに思いを馳せていた。
そうしてメインディッシュを食べ終わると、和気あいあいとした雰囲気がしんみりとしてしまい申し訳が勝ってしまう。メロディアが折角ここまで心砕いて楽しませようしてくれているのに。
リトムに至ってはこのしんみりとしたムードの発端が自分のせいだと密かに悔いる有り様だ。
だが、ここまでもメロディアの予想の内であった。
とうとう最後の料理としてデザートが出される。ところがこのデザートが曲者であった。これまでの流れと打って変わり、冒険者の食事らしからぬ手の込んだ代物だ。その上それぞれケーキであったり、アイスであったりと全く別のデザートを出されている。更に不審なのはスコアにだけデザートが出されていないことだろう。
即座にこれもメロディアの仕掛けの一つだと理解したスコア達だったが、真相を聞こうにもメロディアは厨房の奥にいるし給仕の三人も料理を出すや否や引っ込んでしまっているので何も尋ねる事はできない。
十人はそのメッセージについてあれこれと思案を巡らせていると、まず初めにレイディアントに出されたダックワーズを見てスコアが口を開いた。
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