上 下
155 / 163
勇者と魔王の帰還

13-7

しおりを挟む
 ◇

「…俺はそう言って剣を下ろしたんだけど、それが母さんのハートを射止めたらしくてな。次に口を開いたかと思えば、『全てを失った者同士、わっちと傷の舐め合いをせんかや?』とか何とか言われて気がついたら結婚してた」
「昔話を装って惚気んのやめてくれる?」
 
 鼻の下を指で擦る少女に向かって、メロディアは視線すら送らず冷ややかに言う。

「それでも最初は拒絶していたさ。今にして思えば酷く罵った事もあるし、嫌われたって仕方のない事もしてきた」
「…」
「でも今を以ってして好きなのも本当だ」
「ったく、ホントにさ…こっちは多感な年頃だっての分かってる?」

 今度のそれはとても優しい口調で冗談のように言った。

 両親の事も八英女のことも、自分が生まれるよりも前に何があったかなんて考えてもどうしようもない。少なくとも勇者と魔王と八英女は再び会うことができたんだから。

 後は父の姿を見られるようにしてやって、全員が何処かしらに感じている蟠りを取り払ってしまえばいい。ただし、それは大人の問題であって子供の自分はこれ以上首を突っ込むつもりはなかった。

 それよりもメロディアは自分にしかできぬ方法で和解した勇者と魔王と八英女の十人を祝福してあげたいと思っている。

 けれども。まだ全員の蟠りが解かれた訳でもない。それに父の姿が元に戻れば下の八英女が黙ってはいないだろう。それでも父は、勇者スコアは必ず八英女と魔王を救ってくれると信じていた。

「よし、出来た」

 話のタイミングがいいところで魔法陣の改良が終わった。

 床にそれを敷き、少女姿のスコアを乗せると魔法を発動させた。しかしうっかりと服を脱がし忘れたので、女児用の白ワンピースをピチピチに着た変態が出来上がってしまった。

 しかも、その上に。

「あれ? 何で父さんが若返ってるんだ?」
「え?」

 男の姿にスコアは鏡を見る。すると確かに四十代の渋さは消え失せ、二十代の若々しい姿になっていたのだ。

 メロディアは急いで魔法陣を確認した。すると年齢を操作する式が気付かれないようこっそりと書き足されていた。恐らくは魔法陣を持ってくる際にファリカが先読みしては自分たちが封印されていた二十年分の歳月の帳尻を合わせたかったのだろう。

 要するにファリカはスコアと二十年越しに決着をつける事を望んでいる。そしてファリカがそう願っているということは他の七人も勇者スコアに対してケジメをつけたいのだ。

 二人は八英女の心情をそう理解した。

 続いてメロディアは見苦しい父の格好を魔法にて整えてやった。そこには在りし日の勇者スコアそのものの姿が出来上がった。

「格好つかないから服は用意していくよ」
「え?」
「後は戦うなり話し合うなりご自由に。店は傷つけないでね」

 この後はどうせノクターンノベルでしか書けないような展開になるだろうけれど。メロディアは自分が想像した未来を空手を振って払い除けた。

 しかし部屋を出ていく前にスコアに服の裾を引っ張って止められた。

「何で!? 一緒にいてくれメロディア」
「えー、やだよ」
「何で!?」
「勇者スコアと魔王ソルディダと悪堕ちした八英女がいるんだよ? 絶対面倒くさいことなるじゃん」
「だからこそ居てほしいんだよ。それに今更みんなに会うの恥ずかしいし…」
「さっき顔を合わせたでしょ」
「女の子になってから平気だったけど、今は元の俺じゃないか!」
「まあ、何とかなるでしょ。伝説の勇者なら。それに僕は用事があるし」
「用事って!?」
「えーと、ほら、図書館に行く」
「絶対に今思いついただろ!」

 喚き騒ぐ父親をどうにか退けると、いよいよメロディアは廊下へ出た。扉が閉まる前に親指を立てて父を鼓舞する。

「頑張って。あ、せめてもの情けに聖剣バトンは渡しておくから」

 そしてバタンと戸が閉まると聖剣バトンを部屋のドアの横に立て掛けて、トテトテと階段を下に降りて行ったのだ。

 食堂に戻ると神妙な面持ちの魔王と悪堕ち八英女が佇んでいた。彼女らからはそこはかとなく黒いオーラが滲んでいて、まるで巣の真ん中で獲物を待つ蜘蛛のようだ。つまりメロディア達の予感通り八英女はやる気に満ち溢れているらしい。

 一応話し合いで解決して欲しいという一縷の望みを示すために簡単なティーセットを用意してメロディアはちらりとファリカに視線を送った。

「やってくれましたね、ファリカさん。すっかり元通りですよ」
「うふふ」
「僕はちょっと図書館に行くんで。母さんと皆さんは店と近隣に迷惑の掛からないように決着ください」
「…そうじゃな。出掛けるのが良かろう。何なら友人の家に泊まってくるといい、青少年の健全な育成の為には帰らぬ方が無難でありんす」
「…どういう家だよ」

 言ってて悲しくなってきた。

 とにかく自分の出る幕はないと粛々とお茶の用意はしている。その最中にドロマーに声を掛けられた。

「先に謝っておきますね、メロディア君」
「はい?」
「もうメロディア君の知っているスコアには会えないと思いますので」
「ふっふっふ」
「いや、八英女はともかく何で母さんもその気になってんの? どういう感情?」
「いやなに、わっちも自ら魔道に引きずり込んだ手下を見ていたら昔の血が騒いできたでありんす。折角この顔ぶれが揃ったのだから勇者と魔王に戻ってみるのも一興であろう?」
「…」

 ま、父さんはともかく八英女は引くに引けないよな。きっと悪堕ちしてもらって自分と同じ場所に来てほしいと切に願っているだろうから。

 けどね、あなた達全員が気付いてないですよ。

 九人とも勇者を狙う目を装っているけど…その奥で期待をしてますよ。勇者スコアが世界だけでなくて自分たちのことを救ってくれるだろう、ってね。

 口にしたら拗れることは口にせずメロディアは店を出て行った。

 それが丁度よく正午の事。

 ぐぅっとお腹を鳴らしたメロディアは久しく一人でクラッシコ王国の城下町を歩き出したのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【下品·胸糞注意】異世界召喚されたけどもらったスキルがクソだった件

まにゅまにゅ
ファンタジー
便秘症の草井一人者(くさいそろもん)は今日もトイレに籠もっていた。 「ちくしょう、なかなか出ねぇ!」 彼は今日もトイレで踏ん張っていたが、なかなか出ない。しかし努力(?)の甲斐ありようやく5日ぶりのお通じがあるとスッキリした気分になった。しかしその瞬間彼の足元に魔法陣が現れ、彼は異世界に召喚されてしまう。 一人者(そろもん)を召喚し者は一人者(そろもん)を含む他の召喚された者達に世界の窮状を訴えられ、力を貸してほしいとせがむ。しかし一人者(そろもん)の得たスキルがクソ魔法というふざけたスキルであったため城を追い出してしまうのであった。 「はーっ、しょうがない。冒険者にでもなるか」 異世界で生きることになった一人者(ソロモン)は冒険者となり生き抜くことにする。しかし一人者(ソロモン)のスキルがゴミ過ぎて魔物相手には通じなかった。しかし魔王の腹心であるホルヌスに見い出され彼は魔王軍へと誘われる。 「お前の能力は魔物相手にはゴミだが人間相手なら凄い性能を発揮するだろう」 「俺、別にこの世界の人間に義理なんかねーし別に構わんぞ」 一人者(ソロモン)は己の欲望に従い魔王の下につくことを決意する。そして一人者(ソロモン)は人類の敵として立ちはだかるのであった。彼の運命やいかに!? ※下品なネタや胸糞展開が多いため苦手な方は閲覧しないことをオススメします。

3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一
ファンタジー
高校生3年F組28人が全員、召喚魔法に捕まった! 放り出されたのは闘技場。武器は一人に一つだけ与えられた特殊スキルがあるのみ!何万人もの観衆が見つめる中、召喚した魔法使いにざまぁし、王都から大脱出! 3年F組は一年から同じメンバーで結束力は固い。中心は陰で「キングとプリンス」と呼ばれる二人の男子と、家業のスーパーを経営する計算高きJK姫野美姫。 逃げた深い森の中で見つけたエルフの廃墟。そこには太古の樹「菩提樹の精霊」が今にも枯れ果てそうになっていた。追いかけてくる魔法使いを退け、のんびりスローライフをするつもりが古代ローマを滅ぼした疫病「天然痘」が異世界でも流行りだした! 原住民「森の民」とともに立ち上がる28人。圧政の帝国を打ち破ることができるのか? ちょっぴり淡い恋愛と友情で切り開く、異世界冒険サバイバル群像劇、ここに開幕! ※カクヨムにも掲載あり

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

処理中です...