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勇者と魔王の帰還

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「あ痛っ!」
「中途半端な所で話を区切るな、どアホ!」

 少女の発した「どアホ」と言う言葉にメロディア達はピクリと心の奥の琴線が揺らされた。

 それは勇者スコアが口喧嘩の時に必ずと言っていい程に使う口癖だったからだ。しかも間というか、テンポのようなものが彼と瓜二つだった。

 そう。言ってしまえば勇者スコアが少女になったとしたら、こんな声で喧嘩を売るだろうという具合だったのだ。

「これから言うところでありんした」
「嘘つけ! 口元で笑ってんだろ」
「むう…」

 魔王は口を尖らせると、さっきまでの物々しい雰囲気を一気に脱ぎ去った。

 そしてその後に何があったかを話し始めた…始めたのだが、魔王は勇者スコアが死んだということよりも衝撃的な事実をぶっ込んで来たのだ。

「スコアは確かに死んだ。しかしな、わっちもかつては魔界を治めていた魔王。ありったけの魔力を使い、サキュバスに伝わる古の蘇生法を施した」
「蘇生法…?」

 メロディアは言葉の響きに少なくない希望を捉えた。蘇生ということはつまり、生き返っていると言い換えても差し支えないからだ。

「咄嗟に亡骸から魂魄が離れるのを魔術で食い止め、スコアの肉体を分解した上で回収した。そこからわっちの中に取り込んで再び魂魄と肉体をくっつけた直したのじゃ。結果、見事に蘇った」
「母さんの中に取り込んで? しかもくっつけ直した?」
「うむ」
「ど、どうやって?」
「簡単じゃ。あまねく女には命を宿し、育む臓器があるじゃろう」

 ドヤ顔を見せつつ、魔王は自分の腹部をポンっと叩いた。

 それだけでピンと閃きがあった。しかしメロディアは導き出された推論の持つ諸々の凄まじさに倫理的な重圧を感じて仕方がない。

 自らに浮かんだ推論を口に出すのを本能的に拒否っていると、代わりにドロマーが簡潔にまとめてくれた。

「つまり魔王様はスコアを胎児化させ妊娠し、その後出産することで復活させた、と?」
「分かりやすく言うとそうなる!」

 かはっ! 

 と、そんな変な咳が飛び出した。いくら常識外れの元魔王と言えども無茶苦茶だ。

 しかしその事実を聞かされた後だと再び疑問が生ずる。

『再び生まれ落ちた勇者スコアはどこにいるのか』。

 尤もその疑問さえ、真隣に解答がぶら下がってはいたのだが。この場において唯一、正体が不明の少女へ視線が集まる。

 声をまともに出せないメロディアに変わって少女がメロディアと八英女を見て語る。

「その…いつ言えばいいかがずっと分からなかったんだけど…俺だ。スコアだ」
「…」

 ガツン! と、メロディアが力尽きテーブルに顔面を叩きつける音が聞こえた。キャパシティの限界値を軽くオーバーしてショートした脳髄に打撲の衝撃が突き刺さっている。

 いくらなんでも予想を乗り超え過ぎだ。どれだけ察しのいい人間だって父親が自分よりも年下の女の子になっているだなんて分かる訳ねーだろ!

 受け入れがたい現実に打ちひしがれている中、その他の疑問を八英女が矢継ぎ早に捲し立てる。

「な、何故男のまま蘇生しないのだ!?」
「子は天からの授かりもの。わっちとて性別の産み分けはできんせん」
「それにしては成長し過ぎじゃねーか? 今の話を聞けば産んで間もないんだろ?」
「流石に歩けんと不便じゃろ。生まれた後にどうにか魔術で成長させた」
「では…もう少し大きくしても良かったのでは?」
「蘇生法を施し、パンクー帝国を抜けて産むところまで一人じゃぞ? いくらなんでもそこまでの無理難題はいいなんすな」
「分かるぜ、魔王様。自分の腹の中に何がいるってだけで相当な気力を持ってかれるからな」
「おお、そう言えばお主も似たような事情がありんしたな」
「でも涎が出る程度には可愛いね、旦那ぁ」
「そうじゃろう。メロディアも可愛いが娘も欲しいと思っていたところでありんした。それがまさかこんな形で叶うとは!」
「おお勇者よ、少女になってしまうとはなにごとだ! ふたたびこのようなことがないようにワシはいのっている」
「当然でありんす。にしてもあの国王がマシに見えるくらいの暴君でじゃった!」
「娘にして夫、妹にして父親。主人公がTSさせただけで、色々と新たな扉を開けてしまったかも知れません」
「サキュバスの女王として、如何なる性癖も受け入れる覚悟を持っているから安心せい」
「何も安心できねーよ!!」

 メロディアがそう叫んだ。悲しみと怒りと虚無感を一度に表したような複雑な顔だった。

 顔色も悪く、今にも卒倒してしまいそうだ。

「再三言ってるけどなぁ!? こっちは思春期真っ只中の十四歳だぞ! いい大人なら青少年の健全な育成に支障を来す事くらい考えてから言動を取れ! 父親が死んだかと聞かされて舌の根も乾かぬ内に今度は年下の女の子になってるとか! グレるぞ、マジで!!」

 息急きながら捲し立てたメロディアに向かって、少女スコアはポンと肩に手を置いた。

 そして曇りなき眼で告げる。

「大丈夫だ、メロディア。俺も母さんのお腹の中でせめてもの男の尊厳は保とうと意識を集中していた。だから父さんの…男のシンボルだけは何とか保てた」
「「ふたなり!!??」」
「これ以上、余計な性癖をぶち込んでくるなぁぁぁ!!!!!」
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