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メロディアの仕事5
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「御姉様方! やはり見ていらしたんですね」
「ふふ。楽しく拝見させていただきましたよ」
「こんだけ痛め付ければ二度と生意気なことはできねーだろ」
「どうだかね。そんな賢そうには見えねえけど」
「その時は再び調教してしまえばよろしいかと存じます」
「うふふ。そうなるとお兄様には是非とも反抗して頂きたいですわ」
旧演習場の中に邪悪な笑い声がこだまする。
そして今回の首謀者であるドロマーが機嫌良く言った。
「それにしても、ここまで成長するのは予想外でした」
「本当ですね。ボクもビックリですよ、武芸や魔術はは元よりボクの薬学やドロモカさんの防鱗術にシオーナさんの巫術にまで才能を開花させる人もいましたし」
「やはり悪堕ちは素晴らしい文化」
シオーナのその一声に全員が力強く頷いた。
「ドロマー姉様。こうなってきますと当初の計画も夢ではないのでは?」
「当初の計画って?」
「あはっ。ミリーってば忘れたの? 元々はスコアの息子くんを堕落させて、魔王様への弔いとしてこの世界を魔に染めようって話だったじゃん」
「あ、そう言えば魔界を出たときにはそんなことも言っていたな」
「ふむ。魔に染めるとは聞き捨てならんが、要するに民を選定し、あるいは民をこちらの律に従うように調教するということか。悪くはないな」
「カカカ。そうだぜ、レイディアント。オレ達と一緒に理想の千年王国を作ろうじゃねえか」
「そうなるとこの悪堕ち侍女軍団を皮切りにクラッシコ王国の乗っ取りを始めましょうか? 勿論這い寄る蛇の如く不敵かつ大胆に」
などと盛り上がりを見せる八英女に向かってドルシーが賄い人たちを代表して進言をする。
「御姉様方、よろしいでしょうか?」
「どうしました、ドルシー」
「実は私たちも同じ考えを持っておりまして、クラッシコ王国の屋台骨を崩す計画を聞いて頂きたいのです」
「まあ! 既に悪事を考えられるなんて素晴らしい。是非お聞かせください」
「急に王国の中枢を攻め行っては無謀ですし、面白味に欠けます。そこでこの宿舎を利用するのです」
「というと?」
「ご存じの通りここは新兵の育成場。黙っていても毎年無垢な志願者たちが多くやってきます。彼らを悪に染め、王宮内に忍ばせ内蔵を喰むように侵略をすると言う算段ですわ。実はその為に既に一つの手を打っておりますの」
「素晴らしいです、ドルシー。それはどのような?」
「こちらです」
そう言ってドルシーは禍々しい色の液体が入った小瓶を取り出した。八英女達にはそれが魔法によって精製された媚薬であることはすぐに分かった。
ドルシーはニヤッと笑って言葉を続ける。
「これは人心を淫らに犯す媚薬。これを悟られぬように食事に交ぜて兵士達に食べさせるのです」
「ん? 食事に?」
「はい。これを使えば男は抑えられぬ情欲のままに性を貪り、その中毒性から私たちに従うことは必至。侵略と私たちの遊び相手を作れる一挙両得の方法です。早速今いる新兵たちの明日の朝食に混ぜる支度も整えています」
「…因みにどうやってそれを食事に?」
「え? だって私たちは元々賄い人ですから造作もないことですよ?」
八英女達はこの辺りから本能的に雲行きが怪しくなってきた事に気がついた。
「でもでも、厨房にはメロディア君がいるじゃないですか?」
「ふふっ。御姉様も察しが悪い。メロディア君も堕落させちゃえばいいじゃないですか。というか既に彼に対しては手を打っています」
「はい? どうやって?」
「お兄様と同じですわ。手紙を使ってここに呼び出しています。直に……あ、やってきました」
ドルシーは屈託のない笑顔と共に八英女の後ろを指差した。
同時に八人からは滝のような汗がだらだらと流れ落ちる。背後に気配を感じているのに石のように体が固まってしまい動けない。
だから処刑宣告に似たメロディアの挨拶を背中で聞くことしかできなかった。
「こ~んば~んは~」
賄い人達はこれから起こるであろう少年の堕落劇を夢想してニヤニヤと笑い出す。すっかりとその気になってしまい、自分達の主である八英女が青い顔をしているのに気が付かない。
「ふふふ。ようこそメロディア君。三日間、お疲れ様でした」
「本当ですよ。一人で大変だったし、寂しかったし。それもこれも八英女の皆さんが多少は善良な事をしてくれてるからと思って我慢してたんですが…ねえ、皆さん?」
「…」
「労いは用意してますよ。男に生まれてよかったと神に感謝するほどに気持ちよくしてあげます」
「折角ですが、間に合ってます」
「…え?」
言い終わるや否や演習場の中に一陣の風が吹いた。かと思えば八英女も堕ちた賄い人たちも一瞬と言う言葉が長く感じるほどの早さで地面に突っ伏していたのである。
先程のソアドがそうであったようにドルシー達は信じられない物を垣間見たような表情になる。そして魔族の本能的にメロディアの気質を肌で感じ取るとにわかに震えだした。
そしてメロディアは半死半生なくらいに困憊した賄い人達に言い放つ。
「その力はあなた達の才能と三日間の努力の賜物でしょうから、無理に奪い取るつもりはありません。けれど使い方には気を付けた方がいい。少なくともクラッシコ王国には僕がいるということを決して忘れないで暮らしていくように」
「ひゃい……」
皆は老年の蚊が泣くような声で返事をする。
メロディアはそれに心底疲れ切ったため息で応じた。
こうしてクラッシコ王国悪堕ち計画は未遂のまま終止符が打たれることとなったのである。
「ふふ。楽しく拝見させていただきましたよ」
「こんだけ痛め付ければ二度と生意気なことはできねーだろ」
「どうだかね。そんな賢そうには見えねえけど」
「その時は再び調教してしまえばよろしいかと存じます」
「うふふ。そうなるとお兄様には是非とも反抗して頂きたいですわ」
旧演習場の中に邪悪な笑い声がこだまする。
そして今回の首謀者であるドロマーが機嫌良く言った。
「それにしても、ここまで成長するのは予想外でした」
「本当ですね。ボクもビックリですよ、武芸や魔術はは元よりボクの薬学やドロモカさんの防鱗術にシオーナさんの巫術にまで才能を開花させる人もいましたし」
「やはり悪堕ちは素晴らしい文化」
シオーナのその一声に全員が力強く頷いた。
「ドロマー姉様。こうなってきますと当初の計画も夢ではないのでは?」
「当初の計画って?」
「あはっ。ミリーってば忘れたの? 元々はスコアの息子くんを堕落させて、魔王様への弔いとしてこの世界を魔に染めようって話だったじゃん」
「あ、そう言えば魔界を出たときにはそんなことも言っていたな」
「ふむ。魔に染めるとは聞き捨てならんが、要するに民を選定し、あるいは民をこちらの律に従うように調教するということか。悪くはないな」
「カカカ。そうだぜ、レイディアント。オレ達と一緒に理想の千年王国を作ろうじゃねえか」
「そうなるとこの悪堕ち侍女軍団を皮切りにクラッシコ王国の乗っ取りを始めましょうか? 勿論這い寄る蛇の如く不敵かつ大胆に」
などと盛り上がりを見せる八英女に向かってドルシーが賄い人たちを代表して進言をする。
「御姉様方、よろしいでしょうか?」
「どうしました、ドルシー」
「実は私たちも同じ考えを持っておりまして、クラッシコ王国の屋台骨を崩す計画を聞いて頂きたいのです」
「まあ! 既に悪事を考えられるなんて素晴らしい。是非お聞かせください」
「急に王国の中枢を攻め行っては無謀ですし、面白味に欠けます。そこでこの宿舎を利用するのです」
「というと?」
「ご存じの通りここは新兵の育成場。黙っていても毎年無垢な志願者たちが多くやってきます。彼らを悪に染め、王宮内に忍ばせ内蔵を喰むように侵略をすると言う算段ですわ。実はその為に既に一つの手を打っておりますの」
「素晴らしいです、ドルシー。それはどのような?」
「こちらです」
そう言ってドルシーは禍々しい色の液体が入った小瓶を取り出した。八英女達にはそれが魔法によって精製された媚薬であることはすぐに分かった。
ドルシーはニヤッと笑って言葉を続ける。
「これは人心を淫らに犯す媚薬。これを悟られぬように食事に交ぜて兵士達に食べさせるのです」
「ん? 食事に?」
「はい。これを使えば男は抑えられぬ情欲のままに性を貪り、その中毒性から私たちに従うことは必至。侵略と私たちの遊び相手を作れる一挙両得の方法です。早速今いる新兵たちの明日の朝食に混ぜる支度も整えています」
「…因みにどうやってそれを食事に?」
「え? だって私たちは元々賄い人ですから造作もないことですよ?」
八英女達はこの辺りから本能的に雲行きが怪しくなってきた事に気がついた。
「でもでも、厨房にはメロディア君がいるじゃないですか?」
「ふふっ。御姉様も察しが悪い。メロディア君も堕落させちゃえばいいじゃないですか。というか既に彼に対しては手を打っています」
「はい? どうやって?」
「お兄様と同じですわ。手紙を使ってここに呼び出しています。直に……あ、やってきました」
ドルシーは屈託のない笑顔と共に八英女の後ろを指差した。
同時に八人からは滝のような汗がだらだらと流れ落ちる。背後に気配を感じているのに石のように体が固まってしまい動けない。
だから処刑宣告に似たメロディアの挨拶を背中で聞くことしかできなかった。
「こ~んば~んは~」
賄い人達はこれから起こるであろう少年の堕落劇を夢想してニヤニヤと笑い出す。すっかりとその気になってしまい、自分達の主である八英女が青い顔をしているのに気が付かない。
「ふふふ。ようこそメロディア君。三日間、お疲れ様でした」
「本当ですよ。一人で大変だったし、寂しかったし。それもこれも八英女の皆さんが多少は善良な事をしてくれてるからと思って我慢してたんですが…ねえ、皆さん?」
「…」
「労いは用意してますよ。男に生まれてよかったと神に感謝するほどに気持ちよくしてあげます」
「折角ですが、間に合ってます」
「…え?」
言い終わるや否や演習場の中に一陣の風が吹いた。かと思えば八英女も堕ちた賄い人たちも一瞬と言う言葉が長く感じるほどの早さで地面に突っ伏していたのである。
先程のソアドがそうであったようにドルシー達は信じられない物を垣間見たような表情になる。そして魔族の本能的にメロディアの気質を肌で感じ取るとにわかに震えだした。
そしてメロディアは半死半生なくらいに困憊した賄い人達に言い放つ。
「その力はあなた達の才能と三日間の努力の賜物でしょうから、無理に奪い取るつもりはありません。けれど使い方には気を付けた方がいい。少なくともクラッシコ王国には僕がいるということを決して忘れないで暮らしていくように」
「ひゃい……」
皆は老年の蚊が泣くような声で返事をする。
メロディアはそれに心底疲れ切ったため息で応じた。
こうしてクラッシコ王国悪堕ち計画は未遂のまま終止符が打たれることとなったのである。
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