魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達

音喜多子平

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メロディアの仕事5

12-6

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 ◇

 メロディア達はソアドに案内されるままに来客用の部屋に入った。そこは宿舎の中では装飾に恵まれ、ソファや椅子などが多く置かれていたので全員が何かしらに座った。

 ソアドは一番大きなソファの真ん中に我が物顔で座る。続いてミリーとラーダが彼を挟み込むように腰かけてたので見るからに上機嫌になった。

「やっと話の分かる給仕が入って助かるぜ」
「アタイたちもすぐに素敵な殿方と出会えて良かったです」

 素敵な殿方、という言葉に色々な意味が含まれているのはソアドには伝わらない。だがメロディアは特に同情はしなかった。

「で、お前らはどういう訳でここに来たわけ?」
「ああ、それはですね…」

 と、特に差し当たりのない内容でソアドに事情を言って聞かせる。そして全てを聞き終わった彼は鼻で笑って呟く。

「なんだ、じゃその内にいなくなって元通りか。つまんねえな」
「その変わりと言ってはなんですけど、ここにいる限りは沢山ご奉仕させて頂きますわ」
「へへへ。期待してるぜ」

 ソアドはメロディアが用意したハーブティと紅茶クッキーに手を掛ける。しかしまるで汚い物を触るようにつまみ上げた上に、意地汚く鼻をスンスンと鳴らして匂いを嗅ぐ。

 すると次の瞬間にゴミを捨てるかのようにクッキーを床に放った。

 その事に誰よりも八英女が恐れ慄いた。

 メロディアの前で食べ物を粗末にすることは最も愚かで怖ろしい行為なのだから。しかしそんな事は露とも知らぬソアドはやはり横柄に言う。

「俺さ、こういうハーブとか独特の匂いのするの駄目なんだよね。だからいらねえや」
「…」
「それはそうと、八英女がコンセプトなのは分かったけどアイツはいないの?」
「アイツ、とは誰のことでしょうか」
「ほら、スコアっているだろ。聖剣に選ばれた」

 その発言に今度は八英女もピリついた。当然、彼女らの目の前で勇者スコアをアイツ呼ばわりするのは自殺行為だ。

 ソアドは知らず知らずの内に危ない橋を二本同時に渡ってしまっていた。

「…残念ながら八英女がコンセプトでしたので勇者スコアはおりません。それに見合うような方もいませんでしたので」
「へえ。なら俺がやってやろうか?」
「「「「「「「「 は? 」」」」」」」」
「…何てな。こっちから願い下げだよ」
「「「「「「「「「 あ? 」」」」」」」」」

 来賓室の中が凍てつく冷気に包まれていく。これに気がつかぬソアドは鈍いか豪胆かのいずれかであり、彼は前者だった。

 誰一人として庇うもののいなくなった部屋でソアドは命綱が千切れた事にも気付かぬままに言葉を続けた。

「俺が思うにさ、勇者スコアの伝説って殆どが聖剣のお陰なんだよ。血筋だって平凡だし、かつてはこの騎士団の兵卒だったらしいけど成績はぱっとしなかったって聞いてる」
「それはチーム編成後の隊長としての成績でしょう。個人の成績は常にトップクラスだったはずです」
「だから要するに個人プレーはできるけど、リーダーシップがないってことだろ?」
「当時、と限定すればそうです。だからこそ勇者スコアは聖剣に選ばれた後に並々ならぬ研鑽と努力して八英女をまとめ上げていた。でなければここまで語り継がれることもないでは?」
「けど結局その八英女は全員死んでるじゃん。ひょっとしたら八英女を囮かなんかに使って、その隙に聖剣で魔王を斬ったとかじゃないの? 自分だけ魔界から生還しt……」

 ソアドは言葉を続けられなかった。

 真横にいたミリーが横一線に拳を打ち込みソアドの顎を揺らしたからだ。彼は何が起こったのか分からぬ内に脳震盪で気絶して前のテーブルに勢いよく顔から倒れ込む。ガチンっという鈍い音が部屋の中に響いた。

「よし。殺そうぜ、こいつ」
「賛成だ。無知も拙さも度を越えれば罪ともなろう」
「私も性欲よりも殺意が勝ってしまいました」
「一瞬の内に殺すか、苦しませてから息の根を止めるかが悩ましいですね。僕はどっちでもいいですよ」
「コイツの全てを否定して、体も魂も辱しめてやろうぜ。もちろん、捻り殺した後にさ」
「あはっ! さっすがソルカナ様。アタイの思ってたのと全く一緒。一心同体ですね」
「…誰が殺すかで揉めるのは必至。せーので一緒に殺すことを提案する」
「私もシオーナ様の意見に賛成いたします。皆で一斉に屠りましょう…さあメロディア様もご一緒に」

 散々に思いの丈をぶちまけた八人はどうせ止めてくれると思って最後にメロディアを見た。しかし彼はあくまでも冷酷な視線のままに魔剣メトロノームを取り出すと、

「分かりました。じゃあ、せーので行きますよ」

 と、剣を掲げて言った。流石に予想外過ぎて八人は耳を疑って動きが止まった。これも八人を一旦落ち着かせるために仕組んだメロディアの計算の内だった。

 メロディアはつかつかとソアドが放り捨てたクッキーのところまで歩み寄ると、それを拾って口に入れた。

「…なんて事は流石に言えませんけど。僕も皆さんと同じくらいに腹は立ててます。聞けばソアドさん以外にも今年の新兵の素行の悪さには困っているようですし。殺さないまでもお灸を据える方法は思い付きませんか?」
「…中々に難しいですね。全員、頭に血が上っていますし」
「殺す殺さないは流石に物騒ですから…この際、命に関わらないのであれば卑猥な手段は解禁しますから」
「うーん…あーしは二人きりになったり少しでも触ろうものなら喉笛噛み千切ってしまいそうだ」
「まあしばらくはここに滞在しますから、その間に考えてみてください。僕も善処しますので」

 八英女はしぶしぶと言った様子でこの場と怒りとを収めてくれた。うんうんと頭を捻りながら九人は一体どうやってソアドを仕置きしてやろうかと頭を悩ませている。

 するとその時、部屋の外にこちらの様子を伺う誰かの気配を感じ取った。

 メロディアは音もなく扉に近づくと戸を開けて廊下に顔を出した。
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