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堕ちた戦巫女
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それから更に三十分ほど安静を取ると、ソルカナは完全に回復した。いやむしろ普段よりも調子がいいくらいだった。
「すごいですわね。あの方法で本当に薬効が出るだなんて」
軽快に立ち上がったソルカナはメロディアの手を取ると改めてお礼を述べ伝えた。
「ありがとうございます。もう一人の私も助けて頂いて」
「いえ。気分が良くなったのなら何よりですよ。ラーダさんも無茶する前でよかった」
メロディアは純粋に微笑んで言う。するとラーダは「はうっ」という声を出してのけ反った。あ、そう言えばショタコンとか言っていたな。
ついでラーダはじゅるっと涎を拭うとニタニタとした顔で言う。
「そ、そう言えば、ドタバタして忘れてたけど。アタイが堕ちた理由を話せば若旦那を好きにしていいんだったよね?」
「言ってねえよ」
「じゃあ、せめて「お姉ちゃん」呼びを。ふひひ」
気持ち悪いし、断ったら面倒くさそうだな。瞬時に色々と計算したメロディアはため息をつくと覚悟を決めた。そして店に立って非常識なお客を相手取るときに浮かべる営業スマイルと同じ心持ちでラーダを見て呟く。
「お姉ちゃん!」
「おっっひょぉぉ!!」
そんな不気味な黄色い声を初めて聞いた。
昔だったら妖怪と間違えられて退治されてるだろ。いや、今でも退治したい。やっぱりパラッツォ草のエキスを直飲みさせておくべきだったか。
「わたくしは「ママ」がいいです」
「アンタは関係ねえだろ!」
しばらくして鼻血と涎が止まったラーダは気を取り直してから告げた。
「なら早速シオーナのところに案内するね」
「ええ、参りましょうか」
ソルカナは戸棚にあった鍵を取った。草木だけで作られている小屋の中にあって、その人工物の違和感が際立っていた。
そうして外に出ると隠れ家は音もなく崩れ落ち、跡には何も残らない。
ラーダは再び姿をくらませ、ソルカナと共に今度こそシオーナの居場所へと歩き始めたのだった。
いよいよ『双刃のシオーナ』の会える。
メロディアはそんなことを考えると、無意識的に彼女の伝説や逸話を思い起こしていた。
◇
八英女が一人『双刃のシオーナ』は、ここから遥か東にある『エンカ皇国』という国が出身の女戦士だ。彼女の国では武器を持ち戦う戦士を俗に「サムライ」と呼び、術を使う者を男性であれば「禰宜」、女性であれば「巫女」と呼ぶ。
シオーナは代々の術師の家系に生まれながらも、術を使うことより武器を振るうことに才能を見いだしていた。特に扱いが上手かったのが二つ名にもなっている二刀流での戦闘だ。シオーナの戦い方は父曰く「襲いかかってくる鉄壁」とのことだった。
腕力は勇者スコアや龍族のドロマーにこそ劣っていたが、彼女の恐ろしさは「技」の一言に尽きるという。攻防一体の二刀流に不得手とは言え術もあり、そこに彼女のセンスが加わって化け物染みた強さを発揮する。蜘蛛籠手のラーダが超遠距離のエキスパートであるならば、シオーナは超接近戦のエキスパートだった。
東の国の人間に多い艶やか黒髪を一つに纏め、少しでも術の威力を上げるために特別な技法で作られた紅白の巫女装束に身を包み戦場を駆け抜けていた。彼女を題材にした絵画もやはり父の話に聞く通り、疾走感のある構図が多かった。
そんな彼女が果てしてどのように変貌しているのか。考えておいて導きだした結論は考えたくもないの一言だった。
「しかも何が悲しいって…それやったのが実の母親なんだよなぁ」
メロディアは自分にしか聞こえないような声でそう呟いた。
◇
夜明け前の繁華街を歩く妊婦と少年は頗る怪しかったが、夜の町も朝の日差しと共に眠りにつこうとしていた。なので絡まれたり、自警団に声をかけられたりということもなかった。
「こちらですわ」
ソルカナはそう言って地下街への階段を降りていった。
「すごいですわね。あの方法で本当に薬効が出るだなんて」
軽快に立ち上がったソルカナはメロディアの手を取ると改めてお礼を述べ伝えた。
「ありがとうございます。もう一人の私も助けて頂いて」
「いえ。気分が良くなったのなら何よりですよ。ラーダさんも無茶する前でよかった」
メロディアは純粋に微笑んで言う。するとラーダは「はうっ」という声を出してのけ反った。あ、そう言えばショタコンとか言っていたな。
ついでラーダはじゅるっと涎を拭うとニタニタとした顔で言う。
「そ、そう言えば、ドタバタして忘れてたけど。アタイが堕ちた理由を話せば若旦那を好きにしていいんだったよね?」
「言ってねえよ」
「じゃあ、せめて「お姉ちゃん」呼びを。ふひひ」
気持ち悪いし、断ったら面倒くさそうだな。瞬時に色々と計算したメロディアはため息をつくと覚悟を決めた。そして店に立って非常識なお客を相手取るときに浮かべる営業スマイルと同じ心持ちでラーダを見て呟く。
「お姉ちゃん!」
「おっっひょぉぉ!!」
そんな不気味な黄色い声を初めて聞いた。
昔だったら妖怪と間違えられて退治されてるだろ。いや、今でも退治したい。やっぱりパラッツォ草のエキスを直飲みさせておくべきだったか。
「わたくしは「ママ」がいいです」
「アンタは関係ねえだろ!」
しばらくして鼻血と涎が止まったラーダは気を取り直してから告げた。
「なら早速シオーナのところに案内するね」
「ええ、参りましょうか」
ソルカナは戸棚にあった鍵を取った。草木だけで作られている小屋の中にあって、その人工物の違和感が際立っていた。
そうして外に出ると隠れ家は音もなく崩れ落ち、跡には何も残らない。
ラーダは再び姿をくらませ、ソルカナと共に今度こそシオーナの居場所へと歩き始めたのだった。
いよいよ『双刃のシオーナ』の会える。
メロディアはそんなことを考えると、無意識的に彼女の伝説や逸話を思い起こしていた。
◇
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シオーナは代々の術師の家系に生まれながらも、術を使うことより武器を振るうことに才能を見いだしていた。特に扱いが上手かったのが二つ名にもなっている二刀流での戦闘だ。シオーナの戦い方は父曰く「襲いかかってくる鉄壁」とのことだった。
腕力は勇者スコアや龍族のドロマーにこそ劣っていたが、彼女の恐ろしさは「技」の一言に尽きるという。攻防一体の二刀流に不得手とは言え術もあり、そこに彼女のセンスが加わって化け物染みた強さを発揮する。蜘蛛籠手のラーダが超遠距離のエキスパートであるならば、シオーナは超接近戦のエキスパートだった。
東の国の人間に多い艶やか黒髪を一つに纏め、少しでも術の威力を上げるために特別な技法で作られた紅白の巫女装束に身を包み戦場を駆け抜けていた。彼女を題材にした絵画もやはり父の話に聞く通り、疾走感のある構図が多かった。
そんな彼女が果てしてどのように変貌しているのか。考えておいて導きだした結論は考えたくもないの一言だった。
「しかも何が悲しいって…それやったのが実の母親なんだよなぁ」
メロディアは自分にしか聞こえないような声でそう呟いた。
◇
夜明け前の繁華街を歩く妊婦と少年は頗る怪しかったが、夜の町も朝の日差しと共に眠りにつこうとしていた。なので絡まれたり、自警団に声をかけられたりということもなかった。
「こちらですわ」
ソルカナはそう言って地下街への階段を降りていった。
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