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メロディアの仕事3
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メロディアは介抱のためにその隠れ家とやらへ入る。中にはやはり植物を折り重ねて作ったであろうベットがあり、一先ずそこにソルカナを寝かせる。
三人は容態を気にしつつも、同じように体調不良の原因についてあれこれと話し始めた。
「ソルカナ様、お加減は?」
「一体どうしたんですか?」
「少し、無茶をし過ぎたかもしれません」
「え?」
曰く、セピアソルカナを保護しながら活動するのはかなりの精神力を要するらしい。そのくらいセピアソルカナは人間界では繊細な存在なのだろう。にも関わらずメロディアとの戦闘や仲間達と再会したことでの気の緩みなどなど、短期間で色々と問題が起こりすぎた。その帳尻を合わせるような付加が一気に押し寄せてきたのだという。
ただでさえ人格や精神体の具現化は高度な技術と魔力を要する。それを宿し続け、あまつさえ守るように扱うとなると常人では考えられぬほど精神力を削がれる。
普通なら乖離している人格を切り離したり取り込んだりすれば解決するのだが、その方法は口にすることすらしないだろう。
それが証拠にソルカナは自分の腹を如何にも愛おしそうに撫でた。その姿はさながら慈愛に満ちた母親のようだ。そして呟く。
「ふふ。グランバニアへの道中、チゾットの村で倒れたフローラのような感じですわね」
「いや、アンタもレトロゲーやんのかよ」
しかもフローラ派。
父さんと母さんがよく議論してたなぁ。
何てことを言ってる場合でもないが、冗談を言う余裕があるのは少しだけ救いだった。
「もう少しだけ休めれば…うぐっ!?」
「ソルカナ様!?」
と言っていたのも束の間、ソルカナは再び苦痛に喘いだ。途端に脂汗が滲み出て、苦悶に表情を歪める。
そして同じように青ざめたのがラーダである。彼女は意を決したような面持ちを向けると、厳かに言う。
「いつかこうなったときの為に持っておいて良かった…」
意味深な事を呟くとどこからか瓶入りのポーションを取り出した。トロリとしたその液体は青い反射光をメロディアに届ける。
「それは?」
「パラッツォ草のエキス」
「!」
メロディアはポーションの正体を聞いて目を見開いた。パラッツォ草のエキスは非常に強力な効果を持つ回復薬であり、特に樹木に用いることで草木が侵されるあらゆる病に特効薬として機能する。
使い方は簡単で抽出したパラッツォ草のエキスをエルフが口にして唾液と交ぜるだけ。そうして調合された薬は往々にして口移しで投与される。その為この薬は『最後の口吻』という別名を持つ。
なぜ『最後の』と呼称されるのかと言うと…。
「待ってください。パラッツォ草はあまねく種族に対して薬となりますが、エルフ族にだけは…」
「うん。アタイらにとっては…猛毒」
そう。パラッツォ草の成分はエルフ族に対してのみ、強い毒性を発揮するのだ。
「いくらなんでも考えが性急過ぎます。落ち着いてください」
「ソルカナ様クラスの精霊を癒す治療薬といったらこれくらいしか手はないよ」
「いや…だから」
「なんか飛竜草を飛竜に食べさせる時のレナを思い出すよね」
「なんでさっきから名作ゲームで例えるんだよ。緊張感がねえな」
メロディアは憤懣やるかたない様子でラーダから手早くポーションを取り上げてから告げる。
「貰いますよ」
「な、何するの!?」
「これを使って料理をします」
「り、料理って…ソルカナ様が苦しんでいるのに冗談は止めて!」
「こんなときに冗談は言いません」
「なら…」
「大丈夫ですから。僕を信じてください」
メロディアの毅然とした言葉と雰囲気に、ラーダはつい押し黙ってしまった。と、同時に少しだけ懐かしい気分にもなる。
目の前の少年から発せられるオーラがかつて人生において最も頼り甲斐と安心感を感じた男のそれに酷似していたからだ。
「僕も手当たり次第に持ってきておいて良かった」
そう言いながらメロディアは収納魔法を駆使してシェイカーとティーポットとカップを取り出した。シェイカーとティーポッドということは何かのドリンクを作るつもりだろうかと、傍観していたラーダは漠然とした感想を持つ。そしてそれは当たっていた。
次にメロディアは同じように食材を取り出す。が、ラーダの目にはまるで意味の分からない材料しか映らなかった。
「りんご酢、砂糖、牛乳…これはシナモン?」
「はい。これにパラッツォ草のエキスを混ぜて…」
「ええ!?」
ラーダが止める間もなくメロディアはそれらの食材をシェイカーに入れて素早くミックスする。特別製のシェイカーは彼の魔法によって温められており、開けてみるとふわりとした蒸気と共に心地よくシナモンの薫るミルクの香りを二人に届ける。
するとその温めたミルクを茶葉の入ったティーポッドに何の躊躇いもなく入れた。その真剣な眼差しからは精密にお茶の抽出時間を計っていることが伺い知れる。
そして満を持して紅茶をカップへと注ぐと、ラーダにそれを差し出してくる。わざわざソーサーに乗せているのがメロディアの食に対する拘りを感じさせた。
「スパイシーホットミルクティ…要するにホットチャイですね」
「…」
「これをソルカナさんに。必ず良くなります」
「う…うん」
半信半疑のままにソレを受け取ったラーダだが、メロディアの表情を見て確信した。これを飲ませればソルカナの容態は回復すると。
ラーダはソルカナを介助しつつ、ふうふうとチャイを冷まして上げた。
雪山での遭難者が救助されてから暖かい飲み物を提供されているかのような佇まいだ。そしてチャイを口にするほどにソルカナの顔には血の気と赤みが戻ってきたのだった。
「す、すごいです。あっという間によくなりましたわ」
「良かったですぅ~~」
ラーダは本当に嬉しそうにソルカナへ抱きついて喜びを表現する。そんな二人の感動も束の間、二人の関心はメロディアの作ったチャイの種明かしへと向いた。
「でもなんで? パラッツォ草のエキスはエルフの唾液と混ぜないと精々ちょっと良い回復薬くらいの効能しかないのに…」
「ええ、そうですね。けどリンゴ酢を十対一、シナモンを二対一の分量で加えて98℃以上で加熱すると、エルフの唾液を交ぜたときと同じ効能を発揮します」
「ええ!? そんなの初耳なんだけど…」
「そりゃそうでしょう。去年、僕が見つけたばかりの方法ですから。長らく封印されていたお二人が知らないのは当然です」
「は? え? 若旦那が見つけたの?」
「はい」
「な、何の気なしに言ってますけど、世界を揺るがす世紀の大発見では?」
「ですね。クックパッドに載せた時も反響が大きかったです」
「「クックパッドに載せちゃったの!?」」
開いた口が塞がらないという言葉を体現するように二人は唖然としてしまった。エルフの常識も薬学界も定説もまとめてひっくり返すような大発見を無料で公開しているのだから無理もない。正式な手続きを踏んで特許を申請すれば寝ていてもお金が稼げるし、名声も手に入れられただろう。
ソルカナとラーダはじっとメロディアのことを見た。
てっきり若さ故に事の重大さに気がついていないのではないかと勘ぐったが、決してそんなことはない。メロディアは全てを理解した上で、あらゆる権利を放棄したのだと真っ直ぐな瞳が雄弁に語っていた。
二人はその瞳の奥に在りし日の勇者スコアの面影を見ていた。
三人は容態を気にしつつも、同じように体調不良の原因についてあれこれと話し始めた。
「ソルカナ様、お加減は?」
「一体どうしたんですか?」
「少し、無茶をし過ぎたかもしれません」
「え?」
曰く、セピアソルカナを保護しながら活動するのはかなりの精神力を要するらしい。そのくらいセピアソルカナは人間界では繊細な存在なのだろう。にも関わらずメロディアとの戦闘や仲間達と再会したことでの気の緩みなどなど、短期間で色々と問題が起こりすぎた。その帳尻を合わせるような付加が一気に押し寄せてきたのだという。
ただでさえ人格や精神体の具現化は高度な技術と魔力を要する。それを宿し続け、あまつさえ守るように扱うとなると常人では考えられぬほど精神力を削がれる。
普通なら乖離している人格を切り離したり取り込んだりすれば解決するのだが、その方法は口にすることすらしないだろう。
それが証拠にソルカナは自分の腹を如何にも愛おしそうに撫でた。その姿はさながら慈愛に満ちた母親のようだ。そして呟く。
「ふふ。グランバニアへの道中、チゾットの村で倒れたフローラのような感じですわね」
「いや、アンタもレトロゲーやんのかよ」
しかもフローラ派。
父さんと母さんがよく議論してたなぁ。
何てことを言ってる場合でもないが、冗談を言う余裕があるのは少しだけ救いだった。
「もう少しだけ休めれば…うぐっ!?」
「ソルカナ様!?」
と言っていたのも束の間、ソルカナは再び苦痛に喘いだ。途端に脂汗が滲み出て、苦悶に表情を歪める。
そして同じように青ざめたのがラーダである。彼女は意を決したような面持ちを向けると、厳かに言う。
「いつかこうなったときの為に持っておいて良かった…」
意味深な事を呟くとどこからか瓶入りのポーションを取り出した。トロリとしたその液体は青い反射光をメロディアに届ける。
「それは?」
「パラッツォ草のエキス」
「!」
メロディアはポーションの正体を聞いて目を見開いた。パラッツォ草のエキスは非常に強力な効果を持つ回復薬であり、特に樹木に用いることで草木が侵されるあらゆる病に特効薬として機能する。
使い方は簡単で抽出したパラッツォ草のエキスをエルフが口にして唾液と交ぜるだけ。そうして調合された薬は往々にして口移しで投与される。その為この薬は『最後の口吻』という別名を持つ。
なぜ『最後の』と呼称されるのかと言うと…。
「待ってください。パラッツォ草はあまねく種族に対して薬となりますが、エルフ族にだけは…」
「うん。アタイらにとっては…猛毒」
そう。パラッツォ草の成分はエルフ族に対してのみ、強い毒性を発揮するのだ。
「いくらなんでも考えが性急過ぎます。落ち着いてください」
「ソルカナ様クラスの精霊を癒す治療薬といったらこれくらいしか手はないよ」
「いや…だから」
「なんか飛竜草を飛竜に食べさせる時のレナを思い出すよね」
「なんでさっきから名作ゲームで例えるんだよ。緊張感がねえな」
メロディアは憤懣やるかたない様子でラーダから手早くポーションを取り上げてから告げる。
「貰いますよ」
「な、何するの!?」
「これを使って料理をします」
「り、料理って…ソルカナ様が苦しんでいるのに冗談は止めて!」
「こんなときに冗談は言いません」
「なら…」
「大丈夫ですから。僕を信じてください」
メロディアの毅然とした言葉と雰囲気に、ラーダはつい押し黙ってしまった。と、同時に少しだけ懐かしい気分にもなる。
目の前の少年から発せられるオーラがかつて人生において最も頼り甲斐と安心感を感じた男のそれに酷似していたからだ。
「僕も手当たり次第に持ってきておいて良かった」
そう言いながらメロディアは収納魔法を駆使してシェイカーとティーポットとカップを取り出した。シェイカーとティーポッドということは何かのドリンクを作るつもりだろうかと、傍観していたラーダは漠然とした感想を持つ。そしてそれは当たっていた。
次にメロディアは同じように食材を取り出す。が、ラーダの目にはまるで意味の分からない材料しか映らなかった。
「りんご酢、砂糖、牛乳…これはシナモン?」
「はい。これにパラッツォ草のエキスを混ぜて…」
「ええ!?」
ラーダが止める間もなくメロディアはそれらの食材をシェイカーに入れて素早くミックスする。特別製のシェイカーは彼の魔法によって温められており、開けてみるとふわりとした蒸気と共に心地よくシナモンの薫るミルクの香りを二人に届ける。
するとその温めたミルクを茶葉の入ったティーポッドに何の躊躇いもなく入れた。その真剣な眼差しからは精密にお茶の抽出時間を計っていることが伺い知れる。
そして満を持して紅茶をカップへと注ぐと、ラーダにそれを差し出してくる。わざわざソーサーに乗せているのがメロディアの食に対する拘りを感じさせた。
「スパイシーホットミルクティ…要するにホットチャイですね」
「…」
「これをソルカナさんに。必ず良くなります」
「う…うん」
半信半疑のままにソレを受け取ったラーダだが、メロディアの表情を見て確信した。これを飲ませればソルカナの容態は回復すると。
ラーダはソルカナを介助しつつ、ふうふうとチャイを冷まして上げた。
雪山での遭難者が救助されてから暖かい飲み物を提供されているかのような佇まいだ。そしてチャイを口にするほどにソルカナの顔には血の気と赤みが戻ってきたのだった。
「す、すごいです。あっという間によくなりましたわ」
「良かったですぅ~~」
ラーダは本当に嬉しそうにソルカナへ抱きついて喜びを表現する。そんな二人の感動も束の間、二人の関心はメロディアの作ったチャイの種明かしへと向いた。
「でもなんで? パラッツォ草のエキスはエルフの唾液と混ぜないと精々ちょっと良い回復薬くらいの効能しかないのに…」
「ええ、そうですね。けどリンゴ酢を十対一、シナモンを二対一の分量で加えて98℃以上で加熱すると、エルフの唾液を交ぜたときと同じ効能を発揮します」
「ええ!? そんなの初耳なんだけど…」
「そりゃそうでしょう。去年、僕が見つけたばかりの方法ですから。長らく封印されていたお二人が知らないのは当然です」
「は? え? 若旦那が見つけたの?」
「はい」
「な、何の気なしに言ってますけど、世界を揺るがす世紀の大発見では?」
「ですね。クックパッドに載せた時も反響が大きかったです」
「「クックパッドに載せちゃったの!?」」
開いた口が塞がらないという言葉を体現するように二人は唖然としてしまった。エルフの常識も薬学界も定説もまとめてひっくり返すような大発見を無料で公開しているのだから無理もない。正式な手続きを踏んで特許を申請すれば寝ていてもお金が稼げるし、名声も手に入れられただろう。
ソルカナとラーダはじっとメロディアのことを見た。
てっきり若さ故に事の重大さに気がついていないのではないかと勘ぐったが、決してそんなことはない。メロディアは全てを理解した上で、あらゆる権利を放棄したのだと真っ直ぐな瞳が雄弁に語っていた。
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