上 下
116 / 163
堕ちたドルイド と 堕ちた射手

7ー13

しおりを挟む
「魔界にいるときはもう一人のわたくしが主人格として活動できていたのですが、人間界に戻ってからは立場が逆転してしまいました。恐らくは空気と太陽の影響でしょう。今では夜にならないと顕現することすら難しいのです」
「ん? それならもう一人のソルカナとやらを追い出す絶好の機会ではないのか?」
「そんな! レイディアント様、何てことを仰るのです!?」
「え?」

 鬼気迫る表情でソルカナはレイディアントの事を窘めた。そう言いながら自分のお腹を庇うように抱き締める。

 その様子がメロディアの目には正しく母聖樹の二つ名を名乗るに相応しいほど神聖で慈愛に満ちた姿として映っていた。
 
「道は違えど同じ種から始まった同胞です。何か一つが違っていたならば、この悲惨な道はわたくしが歩むはずだったかも知れません。敵とは言え、そのような運命にいた彼女を追い出すようなことはできません」
「す、すまん。軽率な発言を詫びる」
「それに彼女を追い出してしまったら、【自主規制】ができなくなってしまいますし」
「謝れ! レイディアントさんに心の底から謝れ!」

 メロディアは叫んだ。

 もうダメだ、こいつ。もうどうしようもない。

 得も言われぬやるせなさと憤りを何とか押し込めてメロディアは反対側のベットに腰かけていた蜘蛛籠手のラーダを見た。

 その視線に気がついたラーダは自分で自分を指差してあざとく言う。

「あ。次はアタイ?」
「ええ。教えてもらえますか? ラーダさんが堕ちた理由を。正直なことを言うと、あなたのソレに一番興味があります」
「へえ?」

 メロディアの言葉は嘘ではない。

 ドロマーと一番最初に出会ったとき、蜘蛛籠手のラーダの裏切りが原因となってかつての勇者パーティが壊滅したと言っていた。ならば彼女が堕ちたことこそが一連の惨状のきっかけと言える。

 そんな思惑が伝わったのかどうかは分からないが、ラーダはニヨニヨとした笑顔で応えてきた。

「魔王様と旦那の子供かぁ」

 独り言のように呟くと口許から溢れる涎を一拭いした。何を考えているのか分からず、メロディアは若干引いた。

「あ、ごめんね。アタイ、ショタコンでさ」
「…は?」
「そう言えば、いつかそんな話をしてましたね」
「ねー。ドロマーとはショタ仲間だったから話も弾んだよね。懐かしい」
「ボクには理解不能です。男はやっぱりがっちりと大きくて筋肉質の方が…」
「あーしもだな。ガキじゃ濡れねー」
「わたくしの場合、大抵の方が子供サイズですからね。一度くらい自分より大きい殿方に抱き締められてみたいですわ」

 まずい。このままじゃエロトークに花が咲いて酒場の二の舞になる。

 メロディアは強引に話を戻した。

「皆さんの性的嗜好はどうでもいいですから」
「良くないよ! 同士がいれば語らい、そうでないなら布教しないと!」
「きちんと話してくれたら、飛びきりの笑顔で「お姉ちゃん」って呼んであげます」
「さあメロディア君、なんでも聞いてよ!」

 お手本のように手のひらを返したラーダは先んじて飛びきりの笑顔になった。それを見ていたドロマーは呆れたようにいう。

「いくらなんでも単純すぎはしませんか?」

 すると、当然のツッコミが飛んできたのだ。

「「「お前が言うな」」」

 ◇

 とにもかくにも話の場を作れたメロディアは隙も見せずに問いただすことに専念する。

「ではラーダさん」
「はいな!」
「あなたは何がどうなって母さんの…魔王軍に堕ちたんですか?」
「メロディア君はリコダって町は知っているかな?」
「リコダ? ええ。かつての魔界の入り口に尤も近い町ですよね? ティパンニとはまた別の意味で危険な町です」
「そう。けど今言ったように魔界には一番近い町だからね、アタイ達も例によってリコダの町に滞在して作戦や装備を整えていた。当然、その金策としてクエストもこなしていたよ」
「…スコアとのパーティとしてアレが最後のクエストになってしまいましたね…」

 ドロマーは意味深に呟いた。他のみんなもしみじみと当時の事を思い出しているかのような、神妙な面持ちになっている。

「そのクエストで何かが?」
「うん。厳密に言うとそのクエストの後にね、とあるスライムの一団と交戦したんだ」
「スライム…」

 唐突に出てきたキーワードにメロディアの目が光る。そのスライムこそが勇者パーティが転落した元凶だろう。

 ラーダはいつの間にかチャラついた雰囲気を脱ぎ、真剣な顔つきになっていた。

「リコダ周辺は魔力が濃いから魔物の力も中々に強力なんだよね。けど所詮はスライム、アタイ達の敵じゃなかった。楽勝とは言えないかもしれないけど、特に苦戦はしなかった。少なくともアタイはそう思ってた。…今にして思えばその油断に取り込まれたんだ」
「…何があったんです?」
「宿屋に戻ってシャワーを浴びている時にね、アタイは自分の左腕にちっちゃな傷があることに気がついたんだ」
「「傷?」」

 自然とメロディアとレイディアントの声が重なる。

  恐らくはその傷があったであろう場所を押さえてラーダは体を強ばらせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...