魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達

音喜多子平

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堕ちたドルイド と 堕ちた射手

7ー10

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 現れたエルフはラバースーツを除けば、伝承で語られている【八英女】の一人、『蜘蛛籠手のラーダ』のソレと一致している。ここまで状況証拠がそろってて違うなんてことはないか。

 ラーダは捕らわれたメロディアを一瞥するなり、嬉々として言った。

「え? やば。誰ですか、このカワイイ男の子」
「ふふ。驚きますよ」
「驚く?」
「勇者様のご子息らしいです」
「え~!? あの噂ってやっぱり本当だったの?」
「次はいよいよクラッシコ王国の城下町に赴くつもりでしたけど、手間が省けましたね」

 手間が省けたのはこっちだ、とメロディアは思ったが黙していた。一応、この二人からも堕ちてしまった経緯は聞いておきたい。

「さっきの連中をぶっ飛ばしてソルカナ様が連れていかれた時は何事かと思いましたけど」
「勇者様にあやかって人助けをしているそうです」
「あっは。旦那の子供っぽい~」

 そこまで話をして一段落ついた二人は、改めてメロディアをまるで品定めをするように見る。メロディアはもう少しだけ芝居を続けることにした。

「ほ、ほどいてください。というか、あなた達は誰ですか」
「勇者スコアの息子なら当然【八英女】のことは知ってるよね?」
「私達はその【八英女】のうちの一人。母聖樹のソルカナです」
「アタイは蜘蛛籠手のラーダ」
「な、なんですって!?(棒読み)」
「あっは。驚いた? なんか世間じゃアタイら全員が死んだことになってるから無理もないけど」
「ですが生きているんですよ。私達だけではなく、他にもね」
「勇者スコアの息子ならどうしてそんなヤバイことになったか知りたいよね~」

 いや、粗方知ってます。というか、なんだか段々と面倒くさくなってきたな。

「教えてさしあげますよ…あなたが魔に堕ちた後にね」
「ふふ。息子君が魔族になったって知ったときの旦那の顔が今から楽しみ。それにアタイ達が一番乗りだって知った時のみんな悔しがる顔も見物ですね」

 あ、一番乗りじゃないです。【八英女】の人数的には折り返しを越えてます。

 …うん。やっぱり面倒くささが勝ってきた。もう本人で確定したし、気絶させてみんなのいるホテルに連れて帰ろう。その方が色々と説明も楽だろうから。

 メロディアはふんっと力を込めた。体に巻き付いていたスライムは綿よりも容易く千切れ、周囲の矢もボキボキと音を立てて折れてしまう。流石に想定外過ぎたのか、ソルカナもラーダも声も出せずにただ固まってしまう。メロディアが次の一手を仕掛けるために動いても尚、反応できていなかった。

 素早く二人に近づいたメロディアはそれぞれの顔面に手をかざし、魔力を放った。それはたちどころに空気へ溶け込んで、鼻孔から体内へと侵入する。

 急激に過度な魔力で体内を満たされた事によって、急性アルコール中毒のように二人の意識が遠退く。メロディアは崩れ落ちる二人の体を支えて地面に激突しないようにだけは気を配ってあげた。

「よし、とりあえずはこれでいいか」

 気絶する二人を尻目にメロディアは呟いた。

 問題はどうやって連れて帰るかだ。また抱え込んでもいいけど、さっきと違って距離がありすぎる。この町は今から本格的に動き出す。どう頑張っても人目についてしまうが、それはできるだけ回避したい。

 そんな思考を渦巻かせていたせいか、メロディアは倒れているソルカナの様子がおかしい事に気がつかなかった。

 彼女の妊娠している腹部の内側から何かが蠢いていたのである。

 ぶつぶつと距離やルートを計算しているメロディアの後ろでソルカナの腹部から得たいの知れないセピア色の何かが、大地から目を出す植物のようにスルスルと伸びだしては人の形を形成していく。

 そしてソルカナと瓜二つになったそのセピア色の何かは左手の指を植物の蔦に変え、メロディアを再び拘束する。今回の攻撃は敢えてではなく、本気で捕まってしまった。

「な!?」

 メロディアは慌てて蔦の出所を探る。そしてソルカナの腹から、文字通り生えているとしか言えないセピア色のソルカナを見て目を丸くした。

 見た目はソルカナと瓜二つだが、口元から覗かせるギザ歯と憂いを帯びた暗い眼差しは聖女とはとても思えないほど陰湿なオーラを放っていた。

「テメエ、何者だ?」
「…そっちこそ。何者だよ」

 メロディアが聞くと蔦の締め付けが強くなった。怒りと驚愕とに満ちた声でセピア女は問い直す。

「質問してんのはオレだ。答えろ!」
「言ったでしょう。勇者スコアの息子だって」
「ああ、半信半疑だったがどうやら本当らしいな。だがそれでもオレ達を呆気なく気絶させるほどの魔力を出せる説明にはならねえぞ」

 メロディアは素直に全ての事情を話そうと思った。

 しかし気が変わった。

 セピア女がすぐ横で寝ていた仕事帰りの中年の体を同じように蔦で持ち上げたばかりか、槍のような棘を喉元に突き立てたからだ。

「おい…その人は関係ないだろ。離せ」
「カカカ。勇者様の息子ってことはやっぱりこういう事されると弱いよな。一般人を見殺しにはできないだろ?」
「事情はちゃんと説明する。だから離せ」
「やなこった。こんな殺気を撒き散らす奴を前にして命綱を手放せるか。オラ、こいつの命が惜しかったらオレに従ってもらおうか」

 セピアソルカナはギザ歯を見せつけるように笑った。

 だが、メロディアも同じように含みのある笑みを見せつけていた。

「アンタ、馬鹿だろ?」
「は?」
「触れなくても失神させられるほど魔力に差があるのに、僕の体に直接触れるように拘束してどうするんですか?」
「あ…」
「では、どうぞ召し上がれ」
「ちょ、ま」

 メロディアは空気を媒介にするなんて生易しいことはせず、蔦状に変化した彼女の腕に直接魔力を送り込んだ。

 気合いのこもった発声と共に放出された膨大な魔力は、まるでコンセントを通る電気のように彼女の蔦状の腕を通っていく。そうして送り込まれた魔力はセピアソルカナを、それこそ感電と見紛うほど暴力的に襲った。

「んっほぉおおおおおお!!??」

 そんな卑猥ともとれる断末魔の叫びが夜の森にこだました。

 メロディアの目論見通りに気絶したセピアソルカナは、するするとソルカナ本体のお腹の中に吸い込まれていく。やがて頭の先まですっぽりと入り込むと再び妊婦のように腹部が膨れたソルカナが残るばかりであった。
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