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堕ちた錬金術師
5ー2
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「その蛇の体はなんだ!?」
「あ、そういえばレイディアントは知らないですものね」
「ええと…魔界で色々ありまして」
「それは魔王に触発されて悪に堕ちたのと関係のある話なのか?」
「いえいえ、魔王様の事は一端の錬金術師として尊敬していますが、蛇の体とは直接は無関係です。ほら、ボクたちって魔界に到達した後に奇襲に遭って散り散りになったじゃないですか」
「…ああ。あそこから全ての歯車が狂いだした」
ドロマーとファリカはこくりと頷く。
「その後に孤立したボクは敵の軍勢に囲まれた挙げ句、けしかけられた尾花蛇に足から丸飲みにされてしまったんです」
「なっ!?」
「ボクはすぐに手持ちの薬剤をありったけ錬成して敵ごと自爆してやろうと思った。けど薬剤と尾花蛇の魔力が反応して、想定外の反応が出ちゃったんだ。すぐにボクと尾花蛇の体は融解と融合反応を繰り返して…最後にはこんな人工的なラミアが出来上がったって訳」
「ぐっ!」
レイディアントは目を丸くして驚き、そしてすぐにその光景を想像して怒りに震えた。ファリカはかつての勇者パーティの中で最年少の女の子だった。仲間としての信頼と尊敬の念はあったが、年齢のせいで全員の妹とのような立場になっていたことも事実だ。だからレイディアントの中には義憤による感情の爆発が起こっていた。
しかし当の本人はそれとは正反対に飄々とした態度だった。
「そんなに落ち込まないでください、レイディアントさん。最初は絶望しましたけど結果としてボクにとってはとても良いことなんです」
「どういう、意味だ?」
「魔界原産の尾花蛇と融合したせいで強力な毒を体内で生成できるようになったんです。ほら、ボクって元々薬学を基盤とした錬金術が得意でしょ? おかげでできることが格段に増えました。しかも魔物と融合したことで基礎的な身体能力だって人間の頃に比べたら段違いに強くなってる」
「…しかし、堕ちてしまったその姿では」
「…うん。言いたいことは分かるよ。けど、みんなに守られながら、後ろでちょこちょこと薬をいじっているなんて申し訳ない気持ちにならないで済む。今のボクなら前線にだって立てる。逆立ちしたって弱さが覆らなかったあの頃の惨めさに比べれば、今の方がみんなと同じように戦える。だからボクは自分が堕ちたって実感はないんだ。強くなるために足はなくなっちゃったけどね」
ファリカは健気な笑顔でへへへと笑った。
それ目の当たりにしたレイディアントは言葉がつまり、それ以上は何も言えなくなってしまった。そしてそれは自分の掲げていた悪即斬の信念に躊躇いをもたらす。少なくとも先程のドロマーの提案通り、かつての仲間たちと出くわすことがあったならば経緯と今の心情とを問うてみる必要性は感じていた。
「そうか…魔族達に我以外の八英女はみな魔王の軍門に下ったと聞かされ、裏切られた憤りに支配されていたが、我と同じように救いになっているのか」
「ところでレイディアントさんは、今までどうされていたんですか?」
「追って話そう。お茶を淹れるから、まずは座ってくれ」
レイディアントはそう言って厨房に一度姿を消す。
それを見届けたドロマーとファリカの二人はニヤリとほくそ笑んだ。そしてひそひそとお互いを称賛し合う。
「お見事でした、ファリカ。どうやら目論み通りに私たちや魔王様に対する認識を多少は改めてくれたようです」
「レイディアントさんを誑かす作戦と聞いてなんのこっちゃと思いましたが、そう言えば正義感が人一倍強い方だということを忘れてました」
「ええ。しかも本人が闇堕ちして、その正義感に拍車が掛かってますから。魔王様どころか下手をすればスコアやここにやって来る私たちまで殺しかねない勢いです。偶然とは言え、先にあなたに会って口裏を合わせることができたのは幸いでした」
「それじゃ約束通り、スコアお兄ちゃんの子供の情報は教えてくださいね」
「ええ。レイディアントが戻ってきたら自然な流れで切り出しましょう」
そう。ドロマーは偶然にもクラッシコ王国で再会したファリカと策謀していた。レイディアントの暴走気味の正義から自分や仲間達を守るために。ファリカに会った瞬間、堅物な彼女を説得するには、かつて妹的ポジションとして庇護欲を感じていた彼女からの泣き落としが一番効率的ではないかとひらめいていたのだ。
そしてそれはうまく成功した。
やがてレイディアントが戻ってくると、先程の流れの通りに彼女の身に起こった出来事の説明から話が再開された。
「あ、そういえばレイディアントは知らないですものね」
「ええと…魔界で色々ありまして」
「それは魔王に触発されて悪に堕ちたのと関係のある話なのか?」
「いえいえ、魔王様の事は一端の錬金術師として尊敬していますが、蛇の体とは直接は無関係です。ほら、ボクたちって魔界に到達した後に奇襲に遭って散り散りになったじゃないですか」
「…ああ。あそこから全ての歯車が狂いだした」
ドロマーとファリカはこくりと頷く。
「その後に孤立したボクは敵の軍勢に囲まれた挙げ句、けしかけられた尾花蛇に足から丸飲みにされてしまったんです」
「なっ!?」
「ボクはすぐに手持ちの薬剤をありったけ錬成して敵ごと自爆してやろうと思った。けど薬剤と尾花蛇の魔力が反応して、想定外の反応が出ちゃったんだ。すぐにボクと尾花蛇の体は融解と融合反応を繰り返して…最後にはこんな人工的なラミアが出来上がったって訳」
「ぐっ!」
レイディアントは目を丸くして驚き、そしてすぐにその光景を想像して怒りに震えた。ファリカはかつての勇者パーティの中で最年少の女の子だった。仲間としての信頼と尊敬の念はあったが、年齢のせいで全員の妹とのような立場になっていたことも事実だ。だからレイディアントの中には義憤による感情の爆発が起こっていた。
しかし当の本人はそれとは正反対に飄々とした態度だった。
「そんなに落ち込まないでください、レイディアントさん。最初は絶望しましたけど結果としてボクにとってはとても良いことなんです」
「どういう、意味だ?」
「魔界原産の尾花蛇と融合したせいで強力な毒を体内で生成できるようになったんです。ほら、ボクって元々薬学を基盤とした錬金術が得意でしょ? おかげでできることが格段に増えました。しかも魔物と融合したことで基礎的な身体能力だって人間の頃に比べたら段違いに強くなってる」
「…しかし、堕ちてしまったその姿では」
「…うん。言いたいことは分かるよ。けど、みんなに守られながら、後ろでちょこちょこと薬をいじっているなんて申し訳ない気持ちにならないで済む。今のボクなら前線にだって立てる。逆立ちしたって弱さが覆らなかったあの頃の惨めさに比べれば、今の方がみんなと同じように戦える。だからボクは自分が堕ちたって実感はないんだ。強くなるために足はなくなっちゃったけどね」
ファリカは健気な笑顔でへへへと笑った。
それ目の当たりにしたレイディアントは言葉がつまり、それ以上は何も言えなくなってしまった。そしてそれは自分の掲げていた悪即斬の信念に躊躇いをもたらす。少なくとも先程のドロマーの提案通り、かつての仲間たちと出くわすことがあったならば経緯と今の心情とを問うてみる必要性は感じていた。
「そうか…魔族達に我以外の八英女はみな魔王の軍門に下ったと聞かされ、裏切られた憤りに支配されていたが、我と同じように救いになっているのか」
「ところでレイディアントさんは、今までどうされていたんですか?」
「追って話そう。お茶を淹れるから、まずは座ってくれ」
レイディアントはそう言って厨房に一度姿を消す。
それを見届けたドロマーとファリカの二人はニヤリとほくそ笑んだ。そしてひそひそとお互いを称賛し合う。
「お見事でした、ファリカ。どうやら目論み通りに私たちや魔王様に対する認識を多少は改めてくれたようです」
「レイディアントさんを誑かす作戦と聞いてなんのこっちゃと思いましたが、そう言えば正義感が人一倍強い方だということを忘れてました」
「ええ。しかも本人が闇堕ちして、その正義感に拍車が掛かってますから。魔王様どころか下手をすればスコアやここにやって来る私たちまで殺しかねない勢いです。偶然とは言え、先にあなたに会って口裏を合わせることができたのは幸いでした」
「それじゃ約束通り、スコアお兄ちゃんの子供の情報は教えてくださいね」
「ええ。レイディアントが戻ってきたら自然な流れで切り出しましょう」
そう。ドロマーは偶然にもクラッシコ王国で再会したファリカと策謀していた。レイディアントの暴走気味の正義から自分や仲間達を守るために。ファリカに会った瞬間、堅物な彼女を説得するには、かつて妹的ポジションとして庇護欲を感じていた彼女からの泣き落としが一番効率的ではないかとひらめいていたのだ。
そしてそれはうまく成功した。
やがてレイディアントが戻ってくると、先程の流れの通りに彼女の身に起こった出来事の説明から話が再開された。
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