魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達

音喜多子平

文字の大きさ
上 下
98 / 163
堕ちた錬金術師

5ー1

しおりを挟む

 時間は少し巻き戻り、メロディアが食堂を出た場面。

 ドロマーとレイディアントの二人は言いつけ通り、いそいそと食堂の清掃に励んでいた。とは言え普段からある程度の手入れはされていたので、本当に大まかな掃除で事は足りた。

 大した問題もなく掃除を終えると、二人は部屋を決める前にキッチンでお茶を淹れて小休止を取ることにした。内面はさておき、見た目だけは絶世の美女といって差し支えない二人は椅子に腰かけてティカップを傾けるだけで絵になっていた。

「ふふ」
「どうした?」
「初めてではないですか? 私とレイディアントの二人でお茶を飲むなんて」
「む。言われてみれば」
「まあ、あの頃とはお互いにとても様変わりしていますけど」

 ドロマーがなんの気なしにそう言うと、レイディアントは自慢の槍の矛先と同じくらいに鋭い眼光を飛ばす。

「我は貴様を買っていた。公明正大で質実剛健。ムジカリリカ人の誇りそのものであった貴様を、だ。それなのに…」
「私も残念ですよ。まさかあなたが殺人を肯定するような修道女になるんなんて」
「上澄みを除いたところで、悪は滅びぬと気がついたのだ。我は貴様を、魔王によって堕とされた貴様らを敵視する」

 殺気を向けられても、ドロマーはまるで気にするでなく再びお茶を一口すする。

「ねえ、レイディアント」
「…なんだ?」
「一つお願いがしたいの」
「お願い?」
「確かに私たちは今のあなたの掲げる正義から遠いところにいるように見えるかもしれない。現にもうかつての八英女はもうどこにもいない。けれどね、それでも私たち八人には二つ共通点があると思っている」

 レイディアントは問答無用と言いたい感情をなんとか押さえ込んだ。ドロマーの言葉は妙に好奇心をくすぐってくる。

 自分を含め、未だに【八英女】を繋ぎ止める共通点とは何だろうか、と。

「どういう事だ?」
「価値観のパラダイムシフトを味わった、それが一つ目の共通点です。昔の自分は如何に下らないものに囚われて生きていたのだろうと思わない?」
「ひしひしと思っているさ」
「それは私たちも同じ。あなたはそれに自分で気がついたようだけど、私たちは教えてもらったんです。魔王様にね。だから私は一度会ってさえくれれば、あなたも魔王様に隷従したい考えるんじゃないかと思っています」
「…バカなこと」
「と、本当に切り捨てられますか? 正義と思っていたモノが取るに足りないもので、悪だと信じていたものが実はこの世の真理だった、という体験をあなたは経験したはずですよ? 」
「…」
「それを踏まえてのお願いです。これから先、残りの八英女の面々がメロディア君を逆恨みしてやってきます。私がそうだったようにね。けれど、彼女たちを問答無用で切り捨てるのはやめてください。せめて一度でもあなたが魔王様にまみえるまでは。そうでないと、後悔する未来が訪れる気がしてならないんです。」
「…」
「お願いします」
「…もう一つは?」
「え?」
「共通点は二つあると言っていただろう」

 レイディアントは安易に首を降らず、もう一つの共通点とらやらを尋ねた。すると今までの真剣な顔つきが嘘のように、ドロマーはおちゃらけた雰囲気を醸し出しながら言った。

「ああ、もう一つは八人ともスコアの事が大好きということです」
「ばっ、バカなことを! 我は尊敬こそすれ、そのような浮わついた情念などは持ち合わせておらん!」

 ムキになって否定する彼女を見て、ドロマーはニヤニヤと笑う。それはからかう楽しさは元よりレイディアントが自分の術中に嵌まってくれたのを喜ぶ意味も含まれていた。

 するとその時、カタっと食堂の扉が開く気配を感じ取った。メロディアが出ていった後に鍵を掛け忘れていたのだ。

 利用客であれば事情を説明して帰って貰わなければならないが、二人の心配は杞憂に終わった。

 蜜柑色の頭巾に大きな丸眼鏡。

 訪れたのは二人がよく知る人物であり、八英女の一人である【天才錬金術師ファリカ】その人だったからだ。

「フ、ファリカ!?」
「え? レイディアントさん!?」

 まさかの再会に二人は驚愕の表情を隠さずにいられなかった。

「ちょうど良かった。お茶をしていたところです、ファリカもいかがですか?」

 その中でドロマーはやはり冷静だ。レイディアントを除いた八英女の面々は勇者スコアが魔王を討伐した後に結婚をして子供を作っているという話までは聞き及んでいる。だからこそ、スコアに心底惚れ込んでいた八英女達は彼の妻子に並々ならぬ感情を抱いていたのだ。誰が真っ先に復讐することができるかと競いあっている。遅かれ早かれ再会することは分かっていた。

「あ、はい」

 戸惑いつつも、ファリカは入口をくぐり店内へと入ってきた。スルスルと大蛇の体をくねらせながら。

「お邪魔します」
「はい、どうぞ」
「ちょっと待てぇぇ!!」

 レイディアントは記憶のそれと比べて変貌しすぎているファリカに向かって怒号にも似た声を出した。半身半蛇のラミアという魔物もこの世に存在してはいるが、彼女が知る限りファリカは人間の少女だ。下半身が蛇になっているのをスルーできる道理がなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元天才貴族、今やリモートで最強冒険者!

しらかめこう
ファンタジー
魔法技術が発展した異世界。 そんな世界にあるシャルトルーズ王国という国に冒険者ギルドがあった。 強者ぞろいの冒険者が数多く所属するそのギルドで現在唯一、最高ランクであるSSランクに到達している冒険者がいた。 ───彼の名は「オルタナ」 漆黒のコートに仮面をつけた謎多き冒険者である。彼の素顔を見た者は誰もおらず、どういった人物なのかも知る者は少ない。 だがしかし彼は誰もが認める圧倒的な力を有しており、冒険者になって僅か4年で勇者や英雄レベルのSSランクに到達していた。 そんな彼だが、実は・・・ 『前世の知識を持っている元貴族だった?!」 とある事情で貴族の地位を失い、母親とともに命を狙われることとなった彼。そんな彼は生活費と魔法の研究開発資金を稼ぐため冒険者をしようとするが、自分の正体が周囲に知られてはいけないので自身で開発した特殊な遠隔操作が出来るゴーレムを使って自宅からリモートで冒険者をすることに! そんな最強リモート冒険者が行く、異世界でのリモート冒険物語!! 毎日20時30分更新予定です!!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...